とりあえず続いたクマとの出会い話
『ここ、どこぉ?』
当時私は、両親を失った悲しみをただ泣きわめくことでしか晴らすことを知らず、家の中にじっと篭っているのも嫌だったので外に出ていました。
結果、大泣きしながら町を徘徊するなんともはた迷惑な中学生が生まれたのです。
汗と涙と鼻水とあと色んな体液を漏らしながらも、私は歩き回りました。心配して話しかけてくる人はいましたけど、誰とも話したくなくてその度に逃げてましたね。
そのうち気付けば、知らずのうちに山の中に迷い込んでいたのです。そりゃもう、泣きに泣きましたよ。ただでさえ両親がいなくなって辛いのに、見知らぬ所で一人ぼっちなんて。
それでも私は、進みましたよ。もしかしたら人がいるかもしれないと思ったからです。結果として、人はいませんでした。けれどその代わりに発見したのがそう……
『……くま、さん?』
『ガウゥ……?』
……これが、私ルーアとベアくんの、聞くも涙語るも涙の出会いの物語です。
………
「終わり」
「終わっちゃった!?」
ルーアが、同棲中のクマ……ベアくんとの出会い話を語り始めてから一分も経たないうちに、話は終わった。
「いや、はっや! こんな早い回想そうそうないよ!?」
「言ったでしょう、私とベアくんの出会いの話だと」
「本当に出会いだけとは思わないじゃんか!?」
てっきり、出会いからの現在に至るまでのなれそめを聞かされるもんだとばかり思っていたが、そんなことはなかった。宣言通り、きっかり出会いのみでお話が終わってしまった。
長丁場を覚悟していたため、少々拍子抜けだ。
「自分で言うのもなんですが、私達男女のなれそめに興味ある人なんてそうそういませんって」
「そんなことはねえだろ」
やれやれと首を振っているルーアだが、そのようなことがあるはずがない。現に今、なれそめが気になって仕方ない男がここにいるのだ。
正直、この間殴り中断させたトサカゴリラの昔話なんかよりよっぽど気になる。
「いやいや、そんなに面白い話ではないんですよ。彼と一戦交えたとか、その果てに意気投合したり、帰り道にウサギの耳したおかしな女の子にベアくんが氷漬けにされたり、二人の出会いに乾杯ってことでクマ鍋食べたりした程度ですから」
「すげえや、気にならない要素が一つもねえ」
そんな中途半端に話されては、ますます気になるではないか。なんだクマと一戦交える女子中学生って。しかも傷心中の。わざとか、わざと興味を引いているのか。
それと今、何気にウサギの耳した女の子に氷漬けにされたと言っていたが……どう聞いてもリミな気がするんですけど。
そりゃ達志の身近にいるのがたまたま、氷属性魔法を使えるウサギの獣の女の子なわけで、まったく確信はないのだが……なぜかそんな気がする。
「あ、一戦って言っても夜の、って意味じゃないですよ? 私がサキュバスだからって誤解しないでくださいねこの変態」
「聞いてないしものっすごい理不尽なんですけど!」
聞いてもいないことを勝手に捕捉され、しかも勝手に変な想像をしていたことにされてしまった。とても理不尽だ。
「一戦って……まさか、素手で?」
「オフコース」
なんでいきなり英語かはわからないが、とりあえずこわっ。いや何者だよホントに……
もうこのまま、根掘り葉掘り聞いてしまおうか。そう思って口開いた時だった。どこからともなく、突然女の声が響いてたのだ。苦しんでいるような、「アァー」と唸っている声が。
「な、何この声?ホラー?」
ルーアの声ではないし、もちろん達志のものでも。まさかのホラー展開か? なんか話がまとまらないうちに色んな要素が出てきて追いつかない。
「あ、リミからですね」
「着信音!?」
めちゃくちゃ焦ったのだが、女の声の正体はどうやら着信音だったらしい。この家に来る途中に説明してくれた、スマホウとやらを持っている。
その着信音にさっきのホラー声を設定するなんて、怖いというか紛らわしいというか。やめてほしい、本当に。
「はいいもしもし。……えぇ、いますよ。はい、はい……タツ、リミからです」
「お、おう」
電話の相手……リイは、どうやら達志に用があったらしい。スマホウを受け取る。ふむ、これはなんとも奇怪な……この画面と思われる場所耳に当てればいいのだろうか。
「はい、もしも」
「タツシ様! こんな遅くまで何してるんですか!! 心配したんですよ!!!」
電話に出るなりめちゃくちゃ怒られた。ちなみに時間は、もう少しで夜の八時になるところだった。




