一人じゃないもん。だって同棲してるもの
由香とリミがその友好的な関係を深めたり深めなかったりしている頃。日も傾き、だんだん夜へと時間帯は移動していた。
あの後達志とルーアもそれなりに友好的な関係を深めたり深めなかったり。
魔法部が廃部になりそうだと喚いていた人数不足の件はルーアの勘違いだとわかったり、ルーアはお菓子作りが趣味だとわかったり、なぜか達志の周りの女性関係を聞かれたり。
そして二人は、今……
「よし、この辺か? そーっと……」
「ま、待ってくださいタツ! そこはいけません! 右、右いきましょう!」
「その手には乗らん! そら!」
「うっふぁああああ! ちきしょおぉおおお!」
ジェンガをしていた。木の棒を重ねて塔を作り、塔が崩れないように間の木の棒を抜き取っていく遊びである。魔法が普及している今の世の中では古典的な遊びではあるが、二人で時間を潰すには最適だった。
ちなみに今、達志に塔を崩させようとしたルーアが隣の棒に誘導しようとしたのだが、失敗に終わったわけだ。
「くぬぬ……負けませんよ。すでに四戦四敗……せめて、一度だけでも勝ちたい」
「ジェンガを五回も続けられてる俺自身に驚きだよ」
すでに四回ジェンガを繰り返し、その全てでルーアは塔を崩している。泣きの五回目、何とか勝ちたかったりするのだ。
「っと、もうこんな時間か……」
「これだけ! せめてこの戦いが終わってから! ね!」
どれだけジェンガの勝ちにこだわるのか、汗を流しながらどの棒を抜くかを迷っている。もしかして彼女、いつも一人でこんなことをしているんじゃないだろうか。
親はおらず、一人暮らし。しかも学生だ。ともなれば、どうやって時間を潰しているのか。
「なあリミ、なんならもう少しここにいても……」
「あぁあ! 揺れてる! 塔が揺れてる!」
聞いちゃいない。
「あのー?」
「大丈夫、ですよ。お心遣い感謝します、が……別に、一人じゃ、ないですしっ?」
ゆらゆらと揺れる塔。必死に立て直そうとするルーア。言葉の中の違和感に気づく達志。
「うん? 一人じゃない、って。誰か友達と一緒に住んでるとか?」
「とも……うんまあ、そうですね? いやしかし、彼を友達という枠にはめ込んでいいものか……」
木の棒一本に悪戦苦闘しながらも、きっちり話は聞いているらしいルーア。
ルーア曰く、一緒に住んでるらしい誰かは男らしく、しかも友達という枠で収めていいのか微妙なところらしい。
「え、男?マジ?」
その事実に、達志は驚きを隠せない。男と、一つ屋根の下……そんな進んでいるとは、思ってもいなかった。ルーアのことが急に大人に見える。
「え、じゃあ俺がここにいるのヤバいんじゃ……?」
「いやぁ大丈夫でしょう。彼、その辺り寛容ですし」
寛容とは言っても、女の子一人の家に見知らぬ男が乗り込んでいるのだ。そりゃ向こうに変な勘違いされても仕方ないし、こっちだって気まずい。
「や、そういうわけには。うん、俺はそろそろ帰るよ。その彼によろしくぅ」
「えっ、ちょっとま……あぁあ崩れたぁ! 私のテクニックをもってしてもぉ!」
そそくさと帰ろうとする達志。それに動揺したためか手元がくるい、ジェンガが崩れてしまった。嘆き悲しむルーアだが、それを気にしてもいられない。
同棲しているという男が帰ってくる前に、一刻も早く去らなければ。最悪、血が流れることに……
ピンポーン
鐘が鳴り響いた。来訪者を告げる鐘だ。それに、去ろうとしていた足が止まってしまう。これかまさか、彼とやらが帰ってきたのでは?
その音に、いの一番に反応したのはルーアだった。
「お! 彼です! 彼が帰ってきましたよ!」
「え、何でわかるの!」
「この音の感じは彼です!」
「どういうこと!?
タタタッと駆けていくのを、ただ見ているしかない。仕方ない、こうなれば必死に説明するしかない。自分はただのクラスメイトで、やましいことは何もないと。
ルーアもルーアだ。同棲している彼がいるのに、他の男を連れ込むなんて……
「お帰りなさい、ベアくん!」
「ガウ!」
まあどちらにしても、勘違いしてしまうであろう彼には誤解を生まない説明を……
「……ガウ?」
今、変な声が、鳴き声のようなものが聞こえた気がする。しばしの思考中断。なんなんだろう、この違和感。
勇気を出して、玄関に向かう。するとそこにいたのは……
「お、タツ、紹介しますね! こちら同棲中のベアくんです!」
「ガウア!」
「熊じゃねぇか!」
でっかい熊がいた。玄関の扉よりもでかい。
「彼って、まさか……」
「はい、くまのベアくんで……」
「名前が安直すぎる!」
その場に崩れ落ちる。なんかもう、いろいろとキャパオーバーだ。ルーアの生い立ちだけでもいっぱいいっぱいだというのに、その上熊と同棲だと。
「なんだよこの、思いついたんで取ってつけてみましたみたいな展開はよぉ!」
「やっはタツは、たまにわけのわからないことを言いますね」
「わけのわからないのはお前だよ!」




