えろかわいい乙女とウサギの決意
いつ告白するかなんて、全く予想していなかった発言に戸惑ってしまう。そして思った以上にキラキラしたリミの瞳の前に、さすがの由香も困惑気味だ。
「そ、それはまだ、心の準備が……」
「由香さんって、そんなに悩むタイプだったんですか」
「ぐふっ」
ストレートな言葉に、由香がダメージを負う。普段からそう思われていたのだろうか、リミはナチュラルに、相手にダメージを与えることがある。
とはいえ、確かに由香は思考型よりも行動型寄りだし……そもそも心の準備と言ったって、達志が眠っている間にも十年の時間があったのだ。時間の問題でいえば充分すぎる。
……ただ……
「やっぱり、いざたっくんが起きたら、言おうと思ってた気持ちが揺らいじゃって……」
「なんでしょうこの乙女。くねくねしてるのが妙にえろかわいいです」
本人を目の前にすると、決心が鈍る。自分の中に募ったこの想いは嘘ではないのに。
……それに、だ。一番の理由は……
「たっくんは確かに目を覚ましてくれた。それは嬉しい。でも……たっくんはあの頃と変わらないまま。私は、十歳も歳をとっちゃった」
十年前までは、同い年で同じ世界を過ごしていた。だが今は違う。教師と生徒という関係ももちろんあるが、それ以上に離れてしまった時間。
達志よりも、十年の時を過ごした。やっぱり達志の年頃なら、同じくらいの女の子と付き合ったりしたいものではないだろうか。
だが……大人になってしまった自分が達志に想いをぶつけたところで、それはただの迷惑になるのではないか。そんな気持ちが、拭えない。
こんな想い、さよなにだってちゃんと話したことはない。リミが初めてだ。そして、この想いを聞いたリミはというと……
「申し訳ありません……」
めちゃくちゃしゅんとしていた。耳はへたれ、さっきまではきはきしていたのが嘘のように落ち込んでいる。というか泣きそうだ。
「……あっ。そ、そういう意味じゃないんだよ!?」
そこで気づく。達志と由香達の間に十年間の溝を作ってしまったリミの前でこんなことを言えば、それは当然リミに大きな負担となってのし掛かる。
気にしてないと言いつつこんなことをリミの前で言ってしまうなんて、ああもう私何やってんだ。慌てて、違うよ違うよと告げる。
「あ、あくまで理由の一つだから、ね! それにたっくん、年上好きかもしれないし、むしろこれってチャンスなのかなぁ!」
自分で年齢差を気にした発言をしておきながら、これはチャンスだと手のひらを返す矛盾っぷり。自分でも何言ってるのかわからなくなってきた。
そこへ、いきなり顔を上げたリミが言う。
「由香さん……私、由香さんがタツシ様に想いを伝えられるよう、協力します! 応援します!」
「えぇっ?」
リミも、何を言ってるのかわかってるのだろうか。落ち込んでいる最中に、何かの決意でも固めたらしい。胸元に持ってきた手をぐっと握りしめている。
ちなみに持っていた缶は、もうベッコベコだ。
「由香さんのお手伝い……それが、由香さんに対する私の償いです!」
「えぇっと……」
償いだと、そんなことまで言われてしまった。この目はあれだ、こうと決めたら引き下がらない目だ。昔から見ているからわかる。
その気持ちは、嬉しかったりもする。応援してくれるのは純粋に嬉しい。ただ……それが、償いという義務感に押し潰された故の気持ちなら、そうは思えない。
「応援、協力は嬉しいんだけど……いいの? リミちゃんは」
「え?」
由香の気持ちを応援……その気持ちに、本当に迷いも何もないのなら、大歓迎である。だがそうでないのなら……
「私がたっくんに告白したとして、もし付き合うなんてことになったら……リミちゃんは、本当にそれでいいの?」
まだ恋も知らないこの子に、辛い気持ちを強いることになるかもしれない。そう、心配があった。
「えぇ、タツシ様と由香さん、大好きな二人がくっつくなら、これ以上の幸せはありませんよ」
そんな心配をよそに、リミは迷いも何もない、ただ純粋な笑顔で答えるのだった。