部活見学へレッツゴー
キーンコーン……
「はぁー、終わったぁー」
六時限目の授業が終わり、どこからともなく声が漏れる。結局テロ後とはいっても普通通りの授業で、しかも誰も普通に授業を受けていた。本当にたくましいものだ。
……で、ホームルームも終わり、それぞれ部活に行く者、そそくさと帰宅する者、友達とおしゃべりしている者などがいる中で……
「ではタツシ様! 部活見学行きましょうか!」
いの一番に、リミは達志の所へ。その目はなぜだか輝いているように見える。
「お、おう……ってか、なんで俺よりリミの方がわくわくして見えるの?」
「えっ!? いやいや別に、タツシ様も一緒の部活に入らないかななんて思ってないですし……」
身を乗り出して迫るリミに達志は苦笑い。しかも、考えていることが駄々漏れであるので達志はさらに苦笑い。……とはいえ、それも考えなかったわけではない。
リミと同じ部活。今日でそれなりに話す相手ができたとはいえ、やはりリミは一線を越えている。それだけに、一番話しやすい相手と同じ部活というのは達志としてと安心なわけだが……
「ちなみにリミは、なんの部活に入ってるんだ?」
「はい、調理部です!」
……その気持ちは、一瞬にして冷めつつあった。
「……なん、だと」
嘘偽りの一切が感じられない笑顔。冗談、というわけでもないだろう。リミが所属している部活……その名前に、達志は驚愕を隠せない。
「えっと……氷部?」
「やだなぁ、調理部ですよぉ」
どうやら聞き間違えというわけでもないらしい。母音が似てるから限りなく低い可能性に賭けたが、ダメだった。紛れもなく、調理部のようだ。
調理部、調理部……うっそだろお前、と言いたい。
なにせ、リミの料理の腕は退院当日に味わったばかりだ。ただでさえ、母やセニリアの指導を受けてあの時点であの腕なのに……その上調理部に入部しているなど信じられない。
言っちゃ悪いが、上達が見られない。さすがに言えないが。
「もしタツシ様が調理部に入ったらー、毎日私の料理を試食してもらったりなんかして……うへへ」
まだ決まったわけではないのだが、達志が調理部に入ったときの妄想に突入したらしいリミ。頬を染め、うへへ……と笑っているが達志さそれどころではない。
毎日……その言葉を聞いた瞬間、全身の毛が逆立つような感覚を覚えた。
……あれを毎日? 冗談じゃない。死んでしまう。
リミのピンク色の妄想の中では「美味しいよ」だの「さすリミ(さすがはリミの略)」だのとそれはそれは凛々しい達志が登場しているが、実際に正面に座る達志は少し震えてさえいる。
もう、体が拒否反応を起こしてしまったらしい。
達志としては、調理部に入る選択肢はこの時点で消えた。
「と、とりあえずいろんな部活見てみようかな」
「そうですか……」
これで何かうまいこといって、調理部に入部するのだけは阻止しよう。調理部だけは絶対入らない。それは心に固く決めていて……
「って、そんなこと考えてたらフラグになりそうだからやめよう」
そんなこんなで、部活見学のため教室をあとにする。ちなみにヘラクレス達は自分達が所属している部活へと向かった。
てっきりルーアなんかは、学校が終われば早々に帰宅して家で変な呪文でも覚えてそうだと思っていたがそんなことはなかった。
それぞれがどの部活に所属しているかは、聞いていない。見学に行った時のお楽しみだという。別に全部が全部の部活を回るつもりではないのだから、全員に会うとは限らないんだけど……
「タツシ様は、どの部活に興味があるんですか?」
隣に駆け寄って来るリミは、達志の興味を引く部活を問う。なんの部活があるかわからない……とはいえ、基本は変わらないだろう。
魔法ありきの世界になっても、そうそう変な部活は増えない……と思う。
「そうだなぁ……運動系か文化系でいったら、運動系かな。それに、ものすげー個人的な意見だけど、運動系ならリハビリにもうってつけだし」
室外で活動する運動系、室内で活動する文化系。この二種類であれば、達志個人の好みとしては運動系だ。実際、眠ってしまう前の達志は高校ではテニス部に入っていたのだ。
なので今のところの第一候補はそれだ。
さらに別の理由として、運動系であれば、目覚めてからの達志の体の調子を戻すリハビリ扱いにもなる。
今でこそ日常生活に支障がないレベルに回復してはいるが、それでも以前通り、とはいかない。
トサカゴリラの一件でも、それなりに動き回れはしたが、やはり体力の低下は否めない。運動系の部活ならば体力の上昇も見込めるし、それはリハビリに繋がる。
なのでできるなら、運動系の部活がいいと思っている。
「……そうですか」
運動系と聞いたリミの反応は、それはそれは残念そうではあるが。それでも無理に調理部を勧めないあたり、達志の意思を尊重してくれているのだろう。
「さてさて、まずは、と……」
下駄箱から外へと出て、まず始めにこれから見学しに行く部活をどこにするか考える。
空は晴天で、絶好の運動日和だ。太陽の日差しを真正面から浴びていると、それだけで日焼けしてしまいそうだ。そもそも今の達志は少し白いくらいなので、焼きたい願望もあるのだが。
焼く……泳ぐ人ってよく焼けるイメージがあるし、水泳部もいいんじゃないかな、と達志の中の勝手なイメージと若干以上の下心が浮かんだ時だった。
足元に、何か球が転がってきたのだ。
「うん? ……これ」
足にぶつかった球を見て、達志はそれを拾う。手の平に収まる程度のそれは、達志にも見覚えがあるものだ。それは、テニスのボールだった。それを拾い上げ見つめていると……
「あっ、すみません! ボール転がっちゃって!」
察するに、このテニスの球を取りに来たのだろう。女の子の声だ。声の主を確認するため、達志は顔を上げて正面を見る。……瞬間、頭が真っ白になり、体が固まった。
……美しい金髪が、達志の目の前で風になびいた。




