ファンタジーらしい生き物
「いやー、ゴリラがウホウホうっさかったんで帰ってきたわ」
「……戻って早々何を言っているんだ貴様は」
ガラガラ……と保健室の扉を開くなり、中に入ってきた人物……達志が発した言葉を受けたマルクスは、意味がわからないと眉をひそめていた。
戻ってくるなり何を意味不明なことを言っているのか、とその瞳が語っている。
「いや、言葉通りの意味だよ。何か途中から話すのめんどくなって……」
「いやいや、何しに行ったんだよ!」
「後はムヴェル先生に任せればいいかなって」
「適当だな!」
時間を無駄にしたぜ、となぜかトサカゴリラへの嫌悪感が増している達志に、マルクスはもはや何も言えない。
戻ってきた保健室では、血を見て倒れていたヴァンはすでに起き上がっており、ルーアはどこから迷い込んできたのか猫を相手に猫じゃらしで遊んでたいた。なんだこの光景。
「うわぁ、猫だ!」
その光景を不思議に思っていないのか、猫を見たリミは目を輝かせて駆け寄っていく。耳と尻尾を揺らし、嬉しそうだというのが丸わかりだ。
猫とじゃれあうロリっ子とケモ耳娘。なんとも不思議で微笑ましい光景だ。
「まあ、なんで猫がここにってツッコミは置いとくとして聞きたいことがあんだけどさ」
「あぁ」
「今日ってこの後どうなんの? ヒャッハーな集団が来たわけだけど……」
女子達の微笑ましい光景を目の隅に映しながら、達志は気になっていることをマルクスに問う。いかにこちら側に被害が少ないとはいえ、学校であのような騒動があったのだ。
普通ならば早々に帰宅といったところではないだろうか。
だが学校からはなんの連絡もない。というか……みんな、落ち着き過ぎではないだろうか? それともこれが普通なのか……そう、思っていたが……
「まあ、そうだな。時間としては……まだ六時限目ができるから、もう少ししたらやるんじゃないか?」
「授業再開すんの!? この状況で!?」
「ちなみに放課後は部活動も普通にある」
「たくましすぎだろこの学校! というか人達!」
あんな騒動……言ってしまえばテロだ。そんなことがあったというのに、そのまま続けてしまうのか。普通ならば早々に帰宅すると思うのだが……
「まあ、今時こんなこと珍しくもない。この学校だけではないし、人だけじゃなく魔物が現れることなんてしょっちゅうだしな」
「……へー、そうなん……へ?」
テロだろうがなんだろうが、どうやらこの学校……いやこの世界の人達には関係ないらしい。むしろ珍しくもないと聞いて、物騒な世の中になったと達志は若干引き気味だ。
その一方で、今の言葉の中にものすごく興味をひかれるワードがあった気がする。
「今、なんて? 魔物?」
「え、あぁ……あぁそうか。まだ聞いてないのか。いるぞ、魔物」
どうやら聞き間違えではなかったらしい。魔物という存在が、確かに、この世界にいると。それを聞いた達志のテンションは一気に上昇する。
思えば、魔法なんていうファンタジーなものが存在する世界になっているのだ。だとしたら、同じくファンタジーな魔物という存在があってもおかしくはない。
「おぉー、なんか異世界っぽい! ファンタジーっぽい!」
「お、おう」
「良かったなタツー」
目を輝かせる達志に、今度はマルクスが若干引いている。が、今はそんなの関係ねえ。ここにきてまた一気にファンタジー要素が強まったのはなんだかワクワクする。
それにしても……今頭上に乗っているスライム。彼も、言ってしまえば魔物の部類ではないのだろうか。人ではないんだろうし。……そう思いながらも、実際には聞けない達志である。
「じゃあ、もしかしてこの学校でも飼ってたりすんの!?」
「ペットか! ……魔物なんて、とてもじゃないか手懐けられるものじゃない。そもそも本来なら、こっちの世界に干渉してくること自体おかしいんだ」
「へぇー?」
てっきり魔物というやつに会えると思っていたのだが、どうやらそれは叶わないらしい。残念だ。
当然だが魔物はサエジェドーラに生息している生き物。マルクスの話によると、そもそも魔物が世界を渡ってこちらに干渉してくることがおかしいのだという。
「あれ、ってかサエジェドーラ……マルちゃん達がいた世界って滅びたんじゃなかった?」
「誰がマルちゃんだ。……正確には人の……いや生物の住める環境ではなくなった、だ。魔物という存在を除いてな」
魔物以外が住めなくなった世界……それが、サエジェドーラの現状。魔物以外だなんて、そんなピンポイントなことあるだろうか。
「そもそもさ、魔物って何? マンガとかじゃよく見るけど、実際に」
素朴な、しかしわりと重要な疑問が浮かぶ。魔物という存在についてだ。
「それは……あれだ。なんか、ただの動物に邪悪なあれが入って生まれる……?」
「いっきなりざっくりした説明になったぞ! さっきまでの自信満々な様はどうしたよ!?」
「仕方ないだろ! 魔物の存在については諸説様々なんだ!」
とはいえ、さすがにざっくりしすぎだろう。見た目は不良でも、中身は優等生のくせに。と愚痴りそうになった達志の頭上から声が降り注ぐ。
「まあマルちゃんの言うように、魔物についてはいろんな説があるんだけどさ。一番有力なのはこれだぜ」
「ヘラ……」
「人間の邪な心から生まれる穢れたなんかが魔物になるとか、生き物に乗り移って乗っ取るとか」
「あれ、一番有力説も途中からざっくりしてきてない?というかマルちゃんの説明とそんな変わんなくね」
魔物についての説明云々はざっくりしているが、一応大まかなものはわかった。とにかく、魔物は良くない生き物、ということだけ覚えておけば問題ないだろう。
せっかく魔物に会えるかと思ったが、危険ならばやめておいた方がいいだろうか。
「タツシ様、そろそろ戻りませんか?」
「ん、あぁそうだな」
会話が一段落した頃、猫を抱いたリミが寄ってくる。ウサギの獣人少女が猫を抱いているシーンというのは、なかなかに微笑ましい。
獣大好きなケモナーなら、泣いて歓喜する光景ではないだろうか。
……あ、猫逃げた。悲しそうなリミ。
リミに言われて時計を見ると、そろそろ六時限目の授業が始まるらしい。どうやら、テロがあっても授業はやるらしい。ホントたくましいな、ここの人達は。
「それから授業が終わって放課後になったら、部活見学に行きませんか?」
「部活? ……いいかもね!」
保健室を後にして教室に戻る途中、放課後の約束を取り付けるリミ。達志としても、何かしらやりたいとは思っていたし、単純な話この学校でどんな部活動が行われているのか気になる。
「リミは、なんか部活やってんの?」
「はい! でも、それは後のお楽しみです♪」




