ぷりマルと脳みその詰まったような詰まってないようなスライム
「そんなわけで、トサカゴリラのところへ向かうことになったわけだが……」
「どんなわけだ」
あらかたの事情を理解した達志は、トサカゴリラのところへと向かうことにしたわけだが……周りのメンバーを見回して、改めて思う。その気持ちを、一言で表すと……
「多くね?」
そう、今この場にはリミのお見舞いで来たのだが……このままの人数で行くには、さすがに窮屈だ。
元々リミのお見舞いとして来た達志、マルクス、パイア。加えてヘラクレス、ルーア、由香。そして起きたリミ。
「まあ別に、大人数で行こうが少人数で行こうがあのトサカゴリラを気遣う必要はないんだけどな」
「お前、ホント容赦ないな。仮にも同じ学校の先輩だぞ?」
「……はっ。復学初日の俺にとっちゃ先輩とか後輩とか関係ないわ。むしろあれは学校のというより人生の先輩扱いだわ」
「あれって嫌いすぎるだろ」
まったく、妙に真面目なマルクスはそうなのかもしれないが、達志がトサカゴリラを敬うつもりはない。せっかくの復学デビューをを台なしにされたのだ、
むしろぶん殴ってやりたい。
……それはさておき、行くメンバーを考えることに。トサカゴリラを気遣かってとかではなく、ここにいる一人一人は個性が強い。
それをいっぺんに処理するのはさすがにしんどいのが本音だ。
「血を見て倒れたヴァン先生は置いていくとして、一応見ておく人も必要だよな。となると……ルーアかな」
「な、なんですと!?」
思わぬ指名に、ルーアが反応。まったく予想していなかったのか、大きく目を見開いている。なぜ私が、とでも言いたそうな……
「なぜ私が!?」
実際に、言った。どうやらルーアもついていきたかったようだが、達志としてはたった一言だ。
「だってこの中で一番個性強いのお前じゃん。中二ロリで、何しでかすかわかったもんじゃない。魔法魔法~、とか言ってうるさそうだ」
「中二じゃないしロでもない! いいじゃないですか、私の魔法であのトサカがどうかなっても!」
「それに関しちゃまったく問題はないんだが……」
「貴様ら、あのトサカにも一応人権はあるんだぞ」
「マルクスくん、フォローになってないわ」
ルーアやマルクスも、というか多分全員がトサカゴリラを嫌いなのがわかったところで、達志は改めてルーアに理由を告げることに。
「あとの理由はまあ、消去法だな。まず行きたい俺と、当事者のリミだろ。何かあったとき守ってもらえそうだからヘラだろ。一応教師もいた方がいいだろうからゆ……如月先生だろ。
……あれ、マルちゃんいらねえな。じゃあマルちゃんも留守番で」
「誰がマルちゃん……なんだと!?」
指を一本ずつ立てて数えている達志は、衝撃的な事実に気づく。マルクス、いらねえじゃん……と。
「わり、マルちゃん留守番な」
「きさっ、貴様! なんだその理由は! それに、ヘラクレスの守ってもらえそうってなんだ!」
「だってルーアの爆発魔法から無傷で守ってくれたんだぜー?」
「そ、それにしたって……!」
……と、いうわけで結果的には達志、リミ、ヘラクレス、由香の四人で向かうことに。なんかまだマルクスがギャーギャー言っているが、気にしない。
まったく、駄々をこねないで素直に受け入れてほしいものだ。そんなにぷりぷり怒るでない。
「そんな怒るなよ、ぷりマル」
「誰のせいだと……ぷりマル!?」
「ぷりぷりマルちゃん略してぷりマル。ほら、駄々こねても仕方ないから、な? ここでおとなしく待ってような?」
「また変な呼び名をつけるな! というかなんで僕がわがまま言ってるみたいになってるんだぁー!」
がぁーっ、と頭を毟りながらその場に膝をつく。おいおい、そんなことしてたらハゲるぞ? 仕方のない奴だ。
そんなマルクスの肩をぽんぽん叩くルーア。無駄な抵抗は諦めて、居残り者同士仲良くしようではないか、そう言っているみたいだ。
……だが対照的に、その表情はマルクスを馬鹿にしているように薄ら笑いを浮かべていた。
「ほらほら、保健室でそんな騒ぐもんじゃありません」
「このっ……いや、もういい」
言い返すのを諦めたマルクスは、ため息をついて立ち上がる。こいついつか泣かせてやる、そんな思いを持って達志を睨みつける。
だが隣のリミにじとっと見られ、すぐに視線をそらした。
「じゃ、行きますか。ヴァン先生をよろしく」
「果たして血を見て倒れたヴァンパイアを、しかも二人で見ておく必要があるのだろうか」
最後まで渋っていた様子のマルクスだが、そんなことはどうでもいいとそそくさに部屋を出ていく達志達。
達志達か出て行った後で、ルーアとマルクスによる愚痴の言い合いがはじまったのはまた別の話。
……と。トサカゴリラか捕らえられている部屋に向かっている時だ。達志の頭に乗っているヘラクレスが、いきなり核心に迫る発言をしてきたのは。
「でさー、ぶっちゃけタツとリミたん、ゆかりんってどんな関係なわけ?」
「へ……?」
その言葉に、思わず足が止まる。リミと由香も同様に。だって、達志とリミと由香の関係なんて、ヘラクレスどころか誰にも話してはいないのだ。
詳しくは、達志とリミの関係、達志と由香の関係、この二つによって必然的に起こるリミと由香の関係だが、そんな細かいことはこの際どうでもいい。
問題は、どうしてばれたかだか……いや、まだ疑いの段階かも。
「ど、どうしてそんなことを?」
「いやー、見てたら察しつくってタツに対するリミたんの反応は言わずもがなだが、タツとゆかりんもなんかぎこちねーんだよな」
まあ確かに、達志に対するリミの反応は誰が見ても明らかだ。それが、以前のリミと違うともなればなおさら。以前は一人で物静かだったらしいが、今では……達志の前では欠片もない。
それはともかくとして、達志と由香に対する違和感まで見抜くとは。ぎこちない……初めて会った人間同士ならそれも仕方なかろうが、どうにもそれとも違うぎこちなさだ。
実際、達志と由香の間には妙なぎこちなさは存在している。すぐにわかるものなら、名前を言い間違えそうになることだろうか。
そしてもしかしたら、達志と何かしらがあるかもしれない二人同士何かしらあるのかもしれない。実際、リミと由香は達志繋がりで関わりがある。
その深いところは達志も知らないが、猛とさよなとの関係を見るに結構仲がいいのだろう。それこそ、単なる教師と生徒の枠を超えて。
どこまで深く考えているのかわからないが……とにかく違和感を感じたのは事実。そうしたヘラクレスの疑問は、見事に当たっている。三人の間には、なんかある。
「で、どうなん? ん?」
「それは……」
隠すほどのことでもない、が……言っていいものだろうか。達志に対するリミの反応は、昔達志がリミを助けたことによる恩義をリミが感じているから。
達志と由香のぎこちないさは、二人が幼なじみであり、それを隠しているのが逆に違和感として出てしまっている。
どうするべきかリミと由香に視線を向けると、二人とも仕方ない、といった感じで肩を竦めている。隠すほどのことでもないし、ごまかしたところでかわしきれない気もする。
よって……
「実は……」
達志とリミ、由香の関係を、話す。目的の部屋につくまでの間に、歩きながら。
その間達志はこう思っていた……このスライム、スライムなのにまるで脳みそが詰まってるみたいだな、と。




