わりと衝撃的な事実
血を見て気分が悪くなったパイアは、今ベッドで横になっている。逆にベッドに寝ていたリミはすっかり元気になったため、ベッドから立ち上がっている。
要するに、リミが寝ていた場所にパイアが寝ているのだ、今。
「……え、何この状況」
先ほどまで怪我人だった人物を診るために来た保健教師が、回復したとはいえ怪我人と入れ代わりにベッドに寝ている。なんとも珍妙すぎる光景である。
青ざめた顔のままパイアはベッドに横になっているが、逆にこっちが青ざめそうになる。
まあ、つまり……
「先生が来た意味がまったくなかったってことだな」
「はぅ!」
「イサカイ、お前ホント容赦ないな」
とりあえずリミが動けるようになったので、達志としては目的は果たせたわけだ。結果的に、パイアを連れてきて血を見せた挙句に気分を悪くさせたというものになったわけだが。
さて、とにかくリミが回復したのだ。ちなみにセニリアは帰った、窓から。で、達志にはもう一つ行きたいところがある。
先に行っておいてもよかったのだが、目を話している間に目覚めるかもわからなかったので、離れられなかったのだ。
状況はかなり違うとはいえ、眠りから目覚めた時に誰も居ないというのは不安になることを達志は知っている。
「で、タツの行きたいとこって?」
「あぁ。ほら、生け捕りにしたトサカゴリラの行く末を見届けたくてさ」
「そこだけ聞くとものすごい不穏ですね」
そう、達志が気になっていたのは、リミの魔法……ではなくルーアの魔法がほぼ直撃したことにより気絶したトサカゴリラの現状だ。
別にトサカゴリラがどうなろうと知ったこっちゃないが、行く末がどうなるのかは気になるところ。まあ野次馬精神だ。
「そんなわけでゆ……如月先生。トサカゴリラ今どこにいるか知ってる?」
「さっきからトサカゴリラトサカゴリラって言ってるけど、ちゃんと蛾戸坂って名前があるんだよあの子」
「名前……ああそっか、そんな名前だっけ。いやあ、だって見た感じトサカから生えたゴリラだしさ……うん?」
もう見た目のインパクトが強すぎて、名前など気にもしていなかった。確かそんな名前だったなと頭の片隅に置いていたが、ふと今の会話に違和感を覚える。
正確には、由香の言葉に。
「あれ、聞き違いかな。今トサカゴリラのこと、『あの子』って言わなかった?」
聞き違い……ではないようにも思うが、それでも聞き違いであることを願う。今由香は、トサカゴリラこと蛾戸坂を『あの子』と言ったのだ。その表現は、大抵は年下相手に使うもの。
いやそれ以前に、名前を訂正したりとした今の由香の口振りはまるで、知り合いを説明するかのような……
「え、だって……あ、そっか。たっ……勇界くんは知らないんだっけ」
「いや、知らないって何を……」
「蛾戸坂 鶏冠くん。彼、ウチの学校の生徒だよ?」
「……………………え」
聞き違い……どころの話ではなかった。由香の口から語られたのは、それは到底信じがたいもので……だから、達志はストップと自分の手でジェスチャーをして、ひとまず深呼吸。
とりあえず落ち着いて、それから自分の耳を指で軽く刺激。最期にもう一度深呼吸をしてから……
「悪い、もう一度頼む」
「あ、うん。えっと、蛾戸坂 鶏冠くん。彼、ウチの学校の生徒だよ」
「嘘だろぉおおおおおお!!?」
やはり聞き違いでもなんでもなかった。それは、達志にとって目覚めてからこの世界を目にしたのに次ぐ、もしかしたら同じくらいの衝撃だ。
あまりの衝撃に立っていられない。その場に膝をつき、崩れ落ちる。
だって……あれが、この学校の生徒なのだという。とても冗談を言っているようには見えないし、冗談ならどれほどいいだろう。
だって、あれが由香より年下どころか、自分達と同年代なのだという。そんなの信じられない。
「だって、どう見ても三十……いや四十はいってるおっさんだったじゃん!!」
「この上なくストレートに言うよなタツって」
「あ、そっか。きっと何十年も留年してるんだろ! それなら……」
「現実を受け入れろ。彼はまぎれもない、年齢十八歳の高校三年生だ」
「一個上ぇええええええ!!」
今自分達が二年生で、トサカゴリラが三年生。あれと一つしか違わないなど、信じられない。もいうか信じたくない。
本来であれば達志は今より十年の時をその身に刻んでいたはずだが、それを足したところで見た目では遠く及ばないだろう。
なにせ、十年で一番成長していた猛でもあのトサカゴリラには遠く及ばない。
まあ詰まるところ何が言いたいかというと、あれで高校生なのは詐欺だ、ということだ。詐欺どころではない、訴えたら勝てる。
「ま、まあいいや。いや、よくはないけど……ひとまず納得したってことで置いとこう。じゃあトサカゴリラがここの生徒だったって体で話すけど、トサカゴリラが学校にヒャッハーしに来た理由はわかってたりすんの?」
「納得したっていうわりに全然納得してないみたいだな」
わざわざ学校に暴走族を引き連れてきたのはこの学校の生徒……妙な話だが、ここで繋がってしまった。
ならばトサカゴリラがヒャッハーしに来た理由に心当たりがあるのではないかと、そう思ったのだ。すると考え込んでいた由香が口を開いた。
「彼、一年生の頃から問題を起こしてたのいつからか、学校つまんねーって言って学校に来なくなって、暴走族としてニュースにまで取り上げられるようになって……彼、言ってたの。
いつかビッグになってみんなを驚かせてやるって。だから多分それが理由かな」
「思ったよりだいぶしょっべえ!」
まああくまで、由香の見解だ。ビッグになって驚かせたいから学校に暴走族としてやってきたなんて、そんなしょぼい理由でないことを祈る。まあどっちでもいいが。
そんなわけで、達志達は由香に道案内を任せトサカゴリラが捕らえられている場所へと向かっていくことになった。




