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【リメイク連載中】目が覚めたら世界が異世界っぽくなっていた件  作者: 白い彗星
異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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大規模なお引越し



 目の前で犬顔の獣人が自分を覗き込み、負った怪我を、破損した壁を、魔法と称する力で回復及び修復。身をもって魔法を体験し、その上でこれが夢ではないことを実感。


 夢でない……つまり現実。しかし自分の知る限り、現実でこんなことはありえない。少なくとも日本……地球では。


 ここは日本ではない……とは、確かな確証と目の前の不思議に導き出した結論。これがそうだ。人とはおおよそ違う生き物がいて、喋り、さらには魔法。


 マンガやラノベで見た展開が目の前で起こり、さもそれが当たり前のように扱われている。


 これは達志の記憶する現代社会ではありえなかった出来事。ここが自分の知る世界でないのは確かだとして、ともすれば、ここは一体どこなのか?


 魔法という超常現象を受け入れたことにより、異世界召喚という可能性も考えるべきだ。それとも、寝てる間に宇宙人にでも連れ去られたのだろうか?


 ……が、いくら考えてもわかるはずもない。それは目の前の、獣人ナースに聞けば済む話なのだ。何もわからないことを、必死に考える必要はどこにもない。



「あの……」



 まずは、何から聞くべきだろうか。考えながら喋ることにした達志の口が開いたのと同時、コンコンとドアがノックされる。


 それは思考を中断させるには充分で、ノックを受けた獣人ナースは「はい」と応対。すると、ガチャ……とドアが開き、誰かが入ってくる。



「あ、先生!」



 入ってきた人物を目に、獣人ナースが深々お辞儀。その反応から獣人ナースより立場が上なのはもちろん、先程の電話の向こう側の人物がおそらく彼なのだろう、と察する。



「イサカイ・タツシ君、目が覚めたんだね。良かった。……こうして起きて話すのは初めてだし、はじめまして、かな。私は、キミが眠っている間キミのことを担当させてもらった、ウルカという者だ。改めて、よろしく」



 人の良さそうな、それでいて聞く者を安心させるような優しい声だ。年配なのか、しわがれた声が特徴的。まだ整理しきれてないこの状況で新たな登場人物。正直まだ頭がついていかない。


 だが、どうやら十年間眠っていたらしい達志の世話をしてくれた先生のようだ。十年というのは正直信じ切れていないのだが、どっちにしろこうして眠っていた自分のお世話をしてくれたことに変わりはない。


 ひとまず、お礼を言わなければならないだろう。


 そう、思っていたのだが……部屋に入ってきた先生の顔を見た達志は、お礼を言うのも忘れその顔に釘付けになっていた。



「どっ……どっ……」



 何と言えばいいのか、うまく言葉が出てこない。初対面の相手に失礼極まりない態度だが、実際に同じ状況になれば達志を責められる者は誰もいまい。


 何故なら、見つめた視線の先……そこにあったのは、いわゆるドラゴンの顔だったのだから。マンガやゲームで見てその知識は十二分にあったはずなのだが、実際に目にしてみると迫力が全く違う。


 淡い赤色の顔をしたドラゴン……いやウルカと名乗った医師は、平均男性よりも背が高く、当然と言わんばかりに二足歩行。そして白衣を羽織っている。


 顔はよく見ると赤く輝く鱗が張り付いており、鋭く覗く黄色い眼は見る者全てを射抜かんばかり。


 こう思っては失礼だが、とても医師とは思えない。治すより、むしろ食べる立場だ。固まる達志に、しかしウルカは柔らかく笑う。



「はは 、驚いたかな。まあそれも仕方ないだろうね。ニホン……いやセカイは、この十年で大きく変わったからね」



 安心させるように笑みをこぼすウルカは、達志の反応に怒るでもなく、むしろ当然であると言い放つ。


 それはこの十年で変わった世界を目にすれば、こういう反応をするとわかっていたかのよう。



「世界が……変わった?」



 達志としても、決して聞き逃せない言葉が耳を通り過ぎず残る。世界が変わった……それはこの光景を見れば当然であるが、それは同時に、この世界は達志の知る世界だということを意味する。


 つまり、異世界召喚でも宇宙人にさらわれたわけでもない。何より、日本、とも彼は言った。



「あの、一体これは……何が何だか……」



 一切事情を飲み込めない。故に解答を迫る達志は思わず声を上げていた。ここは一体どこで、日本だとしたら何がどうなってこうなっているのか。その答えを、そろそろ知りたいのだ。



「そうだね、一から説明しよう。……我々は元々、チキュウとは違うセカイからやって来た。キミ達の言う、異世界人ってやつだ」


「…………」



 一から丁寧に説明してくれるウルカ。それを黙って聞くことにしていたのだが、一の時点から既に頭はショート寸前だ。


 何せ、いきなり自分達が異世界人なんだと衝撃の告白を受けたのだから。一応日々シミュレーションしていたとはいえ、そんな出来事が本当に起こる血は思わない。


 まずは異世界が本当に存在することを認めないといけないらしい。



「私達が暮らしていた世界は、魔法と呼ばれる力を活用して暮らしている。この世界に来て、驚いたよ。いろいろな書物に、私達の世界と同じようなことが書かれていたのだからね」



 異世界では、当たり前のように魔法が使える……それは、空想の話ではなく事実であったらしい。ウルカの言う書物とは、おそらくはマンガやラノベが多いのだろう。


 人が妄想して書いたものが、的を得て当たっていたということなのだろう。


 こんなとんでも話を聞かされて達志はというと、混乱に頭を悩ませる……かと思いきや、平常に構えている。一通り全てを事実として受け入れることにしたらしい。


 でないと話が進まないし、獣人、魔法、とい非現実を目にしてしまったからには信じないわけにはいかないのだ。



「で、だ。実は以前……といっても十年以上前か。その頃から、私達の世界とキミ達の世界とで、度々交流があったみたいなんだ」


「まさかの異世界交流!?」


「うん、そのリアクション。だいぶ体調も良くなっているようだね」



 驚きの事実に、興奮を隠せない達志と、患者の元気な突っ込みに体調の良港を実感する医師。逸る気持ちとマイペースという両者の思いは、残念ながら交錯していないようだ。


 ウルカのマイペースさにも驚いたが、それは異世界交流を耳にした達志には些細なことだ。自分が寝ている間に……いや、その前からそんなことが起こっていたのか。


 そんな事実があることなど、全く知らなかった。



「あぁ。我が国の王族がチキュウに度々出掛けていたっていう話も聞いたね」


「お気軽ショッピングかっ」



 異世界交流……それは思ったよりも、お互いの世界に干渉していたらしい。異なる世界に度々出向くなど、並大抵のことではない……と思う。


 それほど、互いの文化が進んでいたということだろうか? いや、進んでいたとしてもそんなことが可能なのか?


 ……可能だからこそ、今このような状態になっているのだろうが。



「というのも、どうやらね、移住……の話が出ていたらしいんだよね。私達の世界から、キミ達の世界……チキュウ移住の話が」


「い、じゅう?」


「そう、移住。つまるところ、お引越しだね。私達の世界からキミ達の世界への、異世界お引越し。

 それは、これまでになかった異世界同士の親交をより深めると共に、私達が生き残るための、たった一つの手段でもあったんだ」



 達志はただ無言で、聞いていた。無意識に、姿勢が正しくなっているほどに真剣に聞いていた。


 一時の静寂。意識的にか無意識にか、充分なタメを作り……ウルカはゆっくりと、口を開く。


 それは……これから十年前に起こった出来事が、語られることを意味していた……

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