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【リメイク連載中】目が覚めたら世界が異世界っぽくなっていた件  作者: 白い彗星
異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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一つ屋根の下



「お帰りなさいませ、タツシ様! お母様!」



 もはや別物と化した我が家。それに衝撃を受け、中へと入る。すると、玄関先にはウサギの耳を持つ白髪の少女が正座していた。


 まるで、ドアを開けて誰かが帰ってくるのを待っていたように。



「……なにしてんのリミ」



 少女……リミは、帰ってくる達志を今か今かと待ち構えていた。そして今、帰ってきたこの家の住人を、こうして出迎えているわけだ。



「ここ俺ん家なんだけど……え、そうだよね? 俺ん家なんだよね?」



 自宅にいるはずのない少女の存在に、疑問を浮かばせていた達志は急激にここが自宅であるのか不安になる。


 確かにここがリフォームされた我が家で、匂いはあの頃のままだ。だがそれは、目の前の少女の存在により曖昧になる。


 もしやみんなで俺を騙し、実際はリミ宅へ連れて来たのではないか?と。


 そうでなければ……リミがわざわざ自宅で待ち構えていた、ということか。それとも、まさかとは思うが……



「えぇ、タツシ様のお家で間違いありません。私は、退院したタツシ様が帰ってくるのを待っていただけです!」


「……あぁ、そう。そう、だよね、うん」



 どうやらここは達志の育った家で、間違いはないらしい。そしてリミはわざわざ、達志の退院に合わせてここで待ってくれていたということだ。


 迎えに来るメンバーにはいなかったが、迎える手筈は整えていたというわけだ。


 それにしても、リミがここにいる可能性として、リミが家を間違えたのではないか、という考えも過ぎってしまった。


 病室でのやり取りで、リミは魔法の才能はぴか一だがオツムの方は点でダメだということがわかっている。


 それがついに、家の場所までわからなくなるレベルにまでいったのかと心配したが……



「さすがにそれはねえか、うん」


「……なんだか、とっても不本意なことを考えられてる気がします」



 達志の考えていることはわからないが、それが良いことではないと見抜いたのだろうか。リミがぷくっと頬を膨らませている。


 触りたい、という欲求に駆られつつ、とにかく家に上がろうとした時だった。



「お帰りなさいませ、ミナエ殿、タツシ殿。タケル殿とサヨナ殿も、こんにちは」



 奥から、聞き慣れた声が。その声の主は……奥から現れたセニリアを目に映し、またもいるはずのない人物がいることに驚く。


 ……とはいえ、リミがいる時点でセニリアがいる可能性も考えてはいたのだが。



「セニリアさん……」


「お疲れでしょう。片付けは済んでおりますので、どうぞ中へ」



 さすがはお姫様の使用人。一人で、ある程度の片付けは済ませてしまったらしい。促されるまま、達志は家に上がる。後ろの三人も、それに続く。


 玄関から、奥の部屋へと隔てている扉。それに手をかけ開けると……そこには、ドラマなんかでよく見る、どこぞのパーティー会場のような空間があった。


 天井にはシャンデリアがぶら下がっており、とにかく明るい。この広間だけで、以前の家の全部屋足した大きさくらいはあるだろう。



「……こんな家に一人とか……母さん、大丈夫かよ」



 以前の家は、ごくごく普通の一軒家。達志とことりの部屋があり、両親の部屋も。


 だが父親は達志が幼くして他界。達志は眠り、ことりは達志が眠っている間に事故に遭い……結果、この家にみなえ一人で住むことになっているのだが……



「おや、聞いてないのですか?」


「聞いて、って?」


「姫と私も……この家に住まわせてもらってます」


「……えっ」



 何気なく呟いた一言に返ってきたのは、達志の耳を疑うものだった。つい足を止めてしまい、みなえを見るが否定はない。


 さらに、猛やさよなも何も言ってこないということは、これは周知の事実だということだろうか。



「まあ、母さん一人よか安心するけどさ……」



 こんなバカでかい家にたった一人。ある種の罰ゲームみたいな展開になっていなかったという事実に、驚きと同時にそこは安心感が生まれ、なにやら矛盾した気持ち。


 リミが母と同じ家に住んでいる……この事実を話され、それによって妙に納得することも出てくる。



「……あ、そういうことか」



 以前……達志が目覚めたその日、リミが病室に訪れた時だ。時間が遅くなり、いっそのこと病室に泊まるつもりでいたリミ。その時、彼女はこう言っていたのだ。



『両親はタツシ様のこととなれば寛大ですし、お母様にはメールすれば大丈夫です』



 ……と。両親、とお母様、と二つに分けているのが、少し気にはかかったのだ。言い回しが不自然に感じられ、わざわざ意味を問いただすほどではないが少しだけもやもやした気持ち。


 複雑な事情でもあるのか、とかリミは頭がアレなようなので言い回しを間違えたのでは、いう可能性も考えたが……


 しかし、両親が自分の、お母様が達志の、であるならば話は単純だ。先程、みなえのことをお母様と呼んでいたし、それならば納得できる。


 リミはなにも不自然なことは言っていなかったのだ。



「……ところでリミ、学校は?」



 豪華な内装に、言葉を奪われる。考え事も限界があるし、何か話して気を紛らわせるなどしなければ、この異次元にも思える世界に呑まれてしまいそうだ。


 よって、適当に話題を持ってくることとする。


 今はお昼過ぎ……もしも十年前から学校の概念が大きく変わっていなければ、今は授業中のはずだ。なのに、彼女は今ここにいる。


 まさか休んで、達志が帰ってくるまでずっと待っていたのだろうか。



「まさか、休んで……」


「いえ、早退しました!」



 休んでまで来なくていい、とは言ったが、休んで待ってたとでも言うつもりだろうか。


 だが、そういった達志の問い掛けが最後まで言われることはなく……返ってきたのは、予想外の言葉だった。


 今日は休みなんです、と言われた方がまだ納得できる。だがまさか、早退とは。


 欠席がダメだから早退をしました、と言わんばかりの『えっへん顔』を浮かべているため、達志としてはもう何も言えない。



「お、おう……」



 ただ、一言以外は。



「ひゃー、いつ来てもやっぱ広いなー」


「この広さだと一人二人増えたところでスペースは関係ないでしょうね」



 はしゃぐ幼なじみ二人を見て、改めて部屋をぐるりと見回す。今日からここで暮らす……とい言い方が正しいかはわからないが、とにかく我が家に帰ってきたのだ。


 これからここで暮らすのだ、迫力に目を奪われている場合では……



「……ん?」



 そこで、達志の頭に引っ掛かるものがある。今まで、母とリミ、セニリアて住んできた家。そこに自分が加わるのだ。


 たった一人の母を気遣って一緒に暮らしていたというのなら、それは達志が帰ってきたのだということで解消される。


 二人がここに居続ける意味はないはずだが……そうではなかった場合は……



「なあなあ。俺が戻ってきたら、二人って……」


「はい! これからも、よろしくお願いいたします!」



 それだけで、二人は居残り続けるのだと理解できた。もちろん広さに関しては充分過ぎるものがあり、人手があった方がいろいろ助かるので断る理由もない。


 ないのだが……そうなると、同年代の女の子と一つ屋根の下状態ができあがってしまう。家が大きすぎて、そんなときめきイベントにときめかない自分がいるが。



「達志が戻ってきて、ますます掃除のしがいがあるわね」


「掃除って、まさかこの家全部をじゃないよね? とんでもないよここ、とても一日じゃ終わんないよ」


「ホントならメイドを数十人つけようとしたのですが、家事くらい自分でやる、って断られてしまいまして」


「そこは素直に受け取っとこうよ!」



 家中を掃除しようとすれば、おそらく一日では終わらないだろう大きな家。そこを一人でやろうなど、それは無謀過ぎる。


 いくら家事好きだからといって、人数が増えてもメイドの件受け入れれば良かったのに。まあこちらから言っても聞かないんだろうか。


 ということは、母とセニリアの二人で回しているということか。改めて二人の家事スキルを再認識した達志。


 すげーな……と山並な感想が漏れると同時、腹の音が空腹を知らせるのであった。起きたのが遅かったので、朝飯はいつもより遅くなりまだそんなに時間は経ってないはずだが、空腹になっていた。



「! タツシ様……よ、良ければ、私料理お作りします!」


「え、マジで? なら、お願いしようかな」



 腹の音を聞かれていたことに恥ずかしさを覚えるが、それよりもこの空腹を満たしたい感覚に襲われる。


 久々の母の手料理も食べたいが、せっかく言い出してくれたのだ、その申し出に甘えることにしよう。


 そして、リミが料理を作ると言った瞬間……場の雰囲気が凍ったことに、その時の達志は気付いていなかった。

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