これからもずっと
「ふぁあ……」
朝、目を覚ます。いつも通りの朝だ。だが、これはいつも通りであっていつも通りではない。勇界 達志にとっては、これは奇跡に近い朝だ。
彼はこの十年間、眠りについていた。不運な事故から、十年前からずっと眠っていたのだ。その間、体は成長しておらず十七歳から眠り続けていた達志の体は、十七歳のままだ。
家族や幼なじみは成長し、いなくなった人もいる。だが、新しい出会いもあり……周囲のたくさんの人のおかげで、それが達志の心を支えていた。
母、由香、猛、さよな、クラスメート……それに、リミ。達志が眠り続ける要因の一端となり、当初は本人にすごく謝られた。だが、達志は気にしていない。もちろん、まったくというわけではないが。
同じ時を過ごすはずだった幼なじみは自分よりも年を取り、幼なじみだけでなく世界にも置いていかれた気分になった。だが、新しい出会いがあり、あの件がなければこの時間がなかったとも、思えるようになった。
なにもかもが、悪いことばかりだったわけではない。この十年で世界はずいぶん変わったけれど、達志の周りは少しだけ、賑やかになっただけだ。
「あ、おはようございますタツシ様」
「うん、おはよー」
着替えてリビングに降りると、同居人であるリミが笑顔で挨拶をしてくれる。リミと、彼女のお世話係というか姉のような存在セニリアは、一人の母が寂しくないようにいつからかこの家に住んでいた。達志が戻ってきてからも、それは変わらずだ。
母がいて、リミがいて、セニリアがいて……ただ、ここにいてほしかった妹は、達志が眠っている間に事故で亡くなってしまった。それだけが、悔しくてならない。
しかし、過去はどうしたってやり直せない。妹の最期は看取れなかったが、せめてお墓に行くことができたのは幸いだろう。
「それにしても、ようやく慣れてきた気分」
朝食を食べながら、一人口の中で呟く。以前は、由香が達志を迎えに来て、一緒に家を出て、途中で猛やさよなと合流していた。以前……ただ、達志にとっては少し前でも、現実では十年前のことだ。
十年立てばそれぞれの関係も変わる。猛とさよなはそれぞれ仕事をしている。由香はまさかの教師になり、達志と未だ関係のある職場ではあるが、さすがに迎えに来る、なんてことはなくなった。
今では、基本的にはリミと登校だ。
「じゃ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
息子と母の、何気ない会話。しかし、達志にとってはあまり時間が経ってないと思っていても、母にとっては十年越しのやり取りだ。初めはこのやり取りの度に、涙を流していた。
リミとセニリアも「行ってきまーす」「いってらっしゃいませ」とやり取りをしている。
家を出て、いつもの通学路を通る。何気ない話をリミとしながら、学校に近づくにつれ生徒が増えていく。見知った顔も、ちらほらだ。
教室に入れば、そこには登校してきたクラスメートが半分ほどいる。達志に話しかけてくれる者もいれば、達志から話しかける場合もある。当初は、混乱こそしたが今では普通に話すことができている。
いろいろな種族がいて、毎日が飽きることのない。そんな日常。
「みんな、おはよー」
ホームルームの時間になると、副担任である由香が入ってくる。いつもは担任の教師が行うのだが、たまに副担任である由香が行うこともある。
幼なじみのあの由香が、今や教師になっている……不思議なものだ。それでも、今でも関係が切れていないのは素直に嬉しい。
大きくなった幼なじみ。クラスメート。リミ。そして、転校してきたリミの姉リマ。賑やかだった日常は、これからさらに賑やかになっていくことだろう。
これまでもこれからも、変わったものもあるし変わらないものもある。達志の平凡な日常は、少しだけ変化をもたらし、これからも続いていく。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
達志たちの物語はまだまだ続きますが、小説としてはここで完結となります!
今後もしかしたら、由香とリミの恋愛バトル的なものを書いていく……かも、しれません。
ともあれ、ご愛読ありがとうございました!




