話がしたい
この教室に、達志に続いての転校生がやって来た。名を、リマ・ディ・ヴァタクシア。その名でわかる通り、リミ・ディ・ヴァタクシアの姉だ。それも、双子の。
転校してきた彼女は達志を見つけるなり、妹を助けてくれたことに礼を言った。そこまではまだよかったのだが、達志の隣をめぐりスライムのヘラクレスと言い合いになってしまった。
結果として、由香が深いダメージを負った。
「はいはいそこまで。席の問題は後で考えるから、とりあえずヴァタクシア姉は空いているそこの席に座れ」
「じゃ、じゃがわしは……」
「す、わ、れ」
教師がしてはいけないような鋭い視線を受け、リマは素直に指定された席に座る。ヘラクレスはどこか勝ち誇った様子だ。
リマが座ったのは、決して達志から遠いわけではないが……本人は不服そうだ。
「じゃ、ホームルームの続きだ。如月先生、いつまで落ち込んでるんですか」
「うぅ……と、年増……」
「ガキの戯言真に受けてどうする」
落ち込む由香を引っ張り、ムヴェルはホームルームを続ける。それが終わると、周りの生徒たちはお約束のようにリマの席の周りに集まっていく。
それを見て、やはり転校生の宿命かと達志は思う。それに、彼女の容姿はまさに美しいと表現する他にない。腰辺りまで伸びたさらさらの黒髪、小さな背丈……なにより、なぜか制服ではなく着物というチョイス。
人の目を集めるには充分だ。
「ん、んん」
一方で、せっかくの姉に会えたリミはおどおどしている。人の波の迫力に押されて、近づけないのだろう。わかる。
「えぇーい、退かぬか! わしはタツシ殿とリミに用があるんじゃ!」
「なんであんな喋り方なんだろう」
人の波に囲まれ、リマが叫ぶ。不思議な喋り方だが、それも周りの興味を勝っていることに気付いているのだろうか。
見かねて、達志が動く。
「あー、えっと、リマ……さん?」
「おぉタツシ殿か! リマでいいぞ!」
「えっと、じゃあリマ。どのみち時間はそんなにないし、話なら放課後にでも……」
「うむ、わかった!」
人ごみの外から、なんとか中にいるリマに伝えることができた。




