新たな転校生
「えー、急だが転校生を紹介する」
ある日の学校でのホームルーム、担任教師であるムヴェル・シンから突然の発表があった。なんの前触れもない……そもそも転校生というものに前触れなんてないのかもしれないが、突然のことだった。
その発表にしばしの沈黙、直後盛り上がる。新しい仲間が増えることに対しての期待、そして……
「先生! そいつ女の子!?」
「男の子だといいなぁ!」
「ふ、喜べ男共、転校生は女子だ! しかもとびきりの美人!」
「うぉおおお!」
かわいい女子がやって来る……それは、男子たちにとって喜ぶべき報告だ。男子の歓声が、一段と大きくなる。
副担任である由香が落ち着かせるように声をかけるが、まったく届いていない。
「へぇー、転校生か。楽しみだなタツ」
隣から達志に話しかけてくるのは、スライムのヘラクレス。スライムなのにヘラクレスなんてたいそうな名前だが、ゴツい名前に反して気のいいやつだ。
「あー、まあそうだな」
「タツシ様、女の子だからってデレデレしないでくださいね」
ヘラの言葉に応えつつ、その逆側からリミに声をかけられる。リミはなぜか、目を鋭くしてじぃっと達志を見てくる。
「しないよデレデレなんて」
その言葉の真意はわからないが、正直な話リミや由香、さよなにセニリアといった美少女美女に見慣れているから、よほどの相手でもない限り見惚れることはないだろう。
それはそれとして、単純に新しい仲間が増えることが楽しみだ。達志のような人間、ヘラのようなスライム、リミのような獣人と、様々な種族が集まっている。果たしてどんな子が、来るのか。
「お前ら静かにしろぉ!」
「……」
やかましかった教室内の空気は、ムヴェル先生の渇で静まり返った。
「よし、静かになったな。まったく恥ずかしげもなく騒ぎよって」
焚き付けたの半分くらいあんたじゃないか、と思った。
「こほん。よし、入ってきていいぞ!」
軽く咳払いした後、ムヴェル先生が教室の外へと声をかける。すると教室の扉は開き、外で待機していた人物が足を踏み入れて……
……瞬間、空気が固まった。入ってきた人物を見た瞬間、先ほどムヴェル先生に静止させられたのとは別の意味で、静寂が訪れた。それは、入ってきた人物に目を、奪われたからだ。
一言で言うなら、かわいいとか綺麗とかそんな次元じゃないほどに、美しい人物だった。サラサラと流れるような黒髪は腰辺りまで伸びており、本当に同じ髪色なのかと思ってしまうほどに美しい黒だ。
身長は、達志の肩よりも低いくらいだろう。その少女の目を引くのは、その服装も関係している。制服ではなく、なぜか和服なのだ。見たところ着物…であろうか。
達志の乏しい知識では、着物の種類だの質だのはわからない。だが赤を貴重としたそれは、花びらの模様と相まって実に綺麗で……そして着ている者の美しさを際立てるようだ。
動きやすさを重視しているかのような、膝上までしかない和服の裾。ミニスカート風になってはいるが寒さを感じさせないのは、その無邪気そうな見た目に相まって少女にとても似合っているように感じる。
一度見たら忘れられなさそうなその見た目に、しばし目を奪われる。
「さ、自己紹介を」
「うむ。わしの名前はリマ・ディ・ヴァタクシアじゃ。よろしく、諸君」
見た目には合わない年寄りのような口調、どこか自信満々そうな表情……だが、それよりも気になることがあった。
今……ヴァタクシアって言った? それって……
「お、お姉ちゃん……!?」
達志の驚愕……それを正しく表現したような声色。それを言ったのは、やはり隣の席に座るリミであった。




