頼りになるお姉さん
「ただいまー……」
帰宅したことりが、家の中に向かって声を上げる。しかし、帰ってくる母の返事はない。それは、なにも今日だけという話ではない。数年前から、この状態だ。
母は、育ち盛りのことりや、入院中の達志の入院費を稼ぐため、朝から晩まで働いている。
もっとも、達志の入院費に関しては、リミの親が全額を出すと言っている。元より、彼の計らいで今の医療環境に落ち着いたのだ。感謝はあっても、みなえに払えるものではない。
それに、娘を救ってくれた礼だと。だから、みなえが働くのは今後のため……達志が起きた時に、彼がなにも不自由をしないため。
と言っても、入院中の達志のためにまだ11歳のことりを一人にさせるわけにはいかない。それは母として当然の気持ち……それがわかっていたから、ことりは自分のことは大丈夫だから、気にしないでと言った。
それに……
「おかえりなさい、ことりさん」
「ただいま、セニリアさん」
迎えてくれる人が、ちゃんといる。彼女、セニリアが、ことりの面倒を請け負ってくれたのだ。
彼女の進言があったことで、みなえは安心して任せることが出来た。
「もー、別にさん付けじゃなくていいのに」
「あ、すみません……昔からの癖で……」
「ふふっ、別に怒ってないよ」
こうして二人の距離が縮まったのは、セニリアの方から歩み寄ってくれたおかげだ。それは、リミも同じ……おかげで、最初は嫌いだった彼女らと、こうして笑い合うことができている。
「でもさー、別に毎日いてくれなくてもいいんだよ? あ、迷惑とかじゃなくて、セニリアさんにも自分の生活はあるでしょ。それに、リミちゃんが寂しがるでしょう」
「ふふ、その『リミちゃん』から頼まれました。私のことはいいから、ことりちゃんと一緒にいてあげて、と。それに、私もいやいややっているわけではありません」
「……なら、いいけどさ」
もしも、自分のせいでリミとセニリアの時間を奪っているとしたら……そう考えたことは、ある。だが、二人の言葉には嘘はない。
それに、リミはちょくちょく遊びに来るのだ。決して二人の時間が減ったわけでは、ない。
「……どうしました?」
「あ、なんでもない」
自分のせいで、なんて考えるのはやめよう。二人が善意でやってくれているのだ、ならばそれに報いるくらい、こちらも楽しい時間を提供しよう。
「あー、お腹空いちゃったなー」
「まだ夕食までは時間がありますよ。冷蔵庫にプリンがありますから、それだけですよ?」
「やったー、セニリアさん大好き!」
まるでお母さんみたいな、なんて言ったら怒るんだろうな。私はまだそんな歳じゃないって。
頼りになる、お姉さん……うん、その方が、しっくりくるや! んー、プリン美味しい!




