ことりの日常
「あ、リミちゃん?」
「ことりちゃん……」
病室を出たことりは、看護師たちに軽く会釈なんかをしながら、病院を出た。外に出ると、向かいから歩いてくる人物を発見する。リミだ。彼女もこの五年で、すっかり一人の少女として成長しつつある。
ことりがリミに気付いたのと同様、リミもことりに気付いたようだ。
「お兄ちゃんのお見舞い?」
「うん。ことりちゃんは、もう終わったの?」
「終わったよ。ゆっくりしていってね」
出会った当初は、仲の悪かった……というかリミを敵視していたことりだが、今では互いに笑い合えるほどに仲良しだ。
周りのフォローや、リミの謝罪、ことり自身大人になったのと……様々な要因があってだ。ことりはもう、リミのことを……なんとも思っていないわけではないが、少なくとも『嫌いな他人』から『気を許せる子』くらいにはなっている。
友達……ではないのかは、本人に聞いてみないことにはわからないが。聞いても、『照れてしまい素直』には答えないだろう。……つまり、そういうことだ。
「あの、ことりちゃん!」
去っていくことりの背中に、リミは話しかける。
「ん?」
「……今度、みんなで海にでも行こうよ! ことりちゃんと、おばさまと、由香さんと……みんなで」
「……うん、そうだね」
それぞれがそれぞれの道を歩きだしてから、昔のようにみんなで遊ぶようなことはなくなった。それでも……線が切れたわけではない。繋がりは、あるのだ。
また昔みたいに、みんなで遊ぼう。
「ふんふーん……♪」
いつか遊ぼう……その言葉を胸に、ことりの足取りは軽くなる。きっと、楽しいはずだ。そこに、達志さえ加われば、きっともっと。
この病院に通うのも、もう手慣れたものだ。本当は病院に通うなど、そこで働きでもしない限り慣れないほうがいいのだろうが。
休日には、決まって病院に来る。平日であっても、時間を見つけては兄の所へと通う。だが、自分の時間すべてをお見舞いに当てるわけではない。そんなこと達志は望まないと、母は言っていた。
ことり自身も、そう思う。自分の時間をすべて使って兄に尽くしても、兄は喜びはしないだろう。自分のために時間を犠牲にさせてしまったと、そう思う人なのだ。
「……あ、あれがないんだった」
帰り道、買い物を頼まれていたことに気づき……ことりは、近くのスーパーへと違う。
普通の小学五年生とは、ちょっと違うかもしれない。それでも、これが、ことりの日常だ。




