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見たこともない人達



 息子(たつし)を救ってくれるというのなら、なんだってすがってみせる……それが、母親(みなえ)が考えていることだった。それはたとえ相手が、達志がああなった原因の一端を担っているとしても……


 たとえ頭を下げることになっても、助けてもらえるなら……



「ま、待ってください! 頭を下げないでください」



 しかし、みなえが実際に頭を下げようとしているのを察し、男はみなえに声をかける。元々、みなえの意見を聞きたかっただけ……それ以上を、望んではいない。


 それに……



「私は、あなたに頭を下げられる立場にありません」



 本来、達志の治療はこちらが、率先して行うべきものであると考えている。だが、そうは簡単にはいかない。まず、彼の親御さんに許可をもらわなければ。


 それは、今もらえた。あとは、細々な手続きが必要ではあるが……



「あとは私に、いえ我々にお任せください」


「……はい」



 それが、男……ゴルジア・ディ・ヴァタクシアとみなえがこの場で交わした最後の言葉であった。その後、ゴルジアはその場から去っていった。


 その後の出来事は、みなえにとって流れる景色のようであった。手術室から出てきた先生には、達志の容態は命はとりとめたとは言われたものの、状況は芳しいとはいえないと伝えられた。


 その後、人の行き来が激しく……それだけ、事態が緊迫しているであろうことは素人でもわかった。



「……」



 みなえだけではない、セニリアもリミも、この状況はただ目で追うばかりだ。二人ともも、状況を把握できてはいない。


 しかし次第に……状況に、明らかな変化が訪れる。今まで行き来していた人とは、明らかに違った見た目の人たちが現れ始めたのだ。


 いや、それは人と呼んでいいべきか、みなえはいささか判断に迷った。だって、それらは……人と呼ぶには抵抗のある、見た目をしていたから。



「……?」



 それは、ある者は毛深く、ある者はとんでもない巨漢で、またある者は人とは明らかに異なる色の肌をしていた。緑色、黄色、桃色……それはそれはカラフルな皮膚を持つ者たちが、通る。


 さらに、皮膚の色だけではない。まるで獣の耳や、尻尾、そういったものが生えている者までいる。これは現実なのか、疑いたくなる。


 みなえにはよくはわからなかったが……息子がよく見ていた、ふぁんたじーに出てくる生き物によく似ている。


 そして、しばらく呆然としていたものの……ある一つの影が、みなえの前に立つ。大きな影だ……その正体を確認するために、みなえは視線をあげて……



「っ……」



 その影……それは、みなえを見下ろせるほどに大きく、とてつもない威圧感を放っていた。いや、威圧感の理由は、体の大きさではない……その、見た目だ。


 淡い赤色をした、人とは明らかに違う形状の顔。トカゲ、ではない。これは、俗に言うドラゴンというやつだろう。それくらいはみなえも知っている、


 平均男性よりも背が高く、二足歩行の姿は人型だ。そして、不思議なのが白衣を羽織っているのだ。



「あ、ぁ……」


「あの……」



 その圧倒的な存在を前に、みなえは声が出ない。それを知ってか知らずか、ドラゴンは声を出す。思いの外、いい声だ。人を安心させるような声。



「私は、ウルカ・ランビアという者です。この度、息子さんの手術を担当させていただくことになりました」


「えっ……あ、はぁ」



 聞き違いだろうか。ウルカと名乗ったこのドラゴンは、達志の手術を担当すると言ったのだろうか。大丈夫なのか。というか、医者なのか。


 どんな反応をすればいいのか、わからない。なにが正解なのか、みなえにはわからない。声すら、出てこない。



「え、ウルカ先生がですか!?」



 しかし、そこで声をあげたのが、セニリアだ。その声色は明るく、まるで希望を見出だしたかのよう。



「えぇと……?」


「この方は、凄腕の医師ですよ! 我々の世界では、右に立つ者はいないほどです!」



 どうやら、セニリアには彼のすごさがわかるらしい。みなえには判断がつかないが、達志の件を悔いている彼女が、ここで嘘をつくとも思えない。


 つまり、この人……ウルカ先生というか、ドラゴンは、みなえの希望、息子を助けるための希望なのかもしれないということだ。

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