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子供の作り方を教えて



 由香が赤ん坊をあやし、男二人がバカなことを考えていた頃。


 それを見守るリミはというと……



(赤ちゃん……子供かぁ……)



 赤ちゃんについてを考えていた。赤ちゃんについてといっても、そこまで難しいことではない。それはつまり、誰もが通る道であろう。


 『赤ちゃんって、どうやってできるのだろう』と。


 無論リミは高校生……高校生ともなれば、その手の知識は知っていてもなんら不思議ではない。だがリミは、その手の知識を、欠片ほども知らないのだ。


 なにせ、子供の作り方どころか恋心すら理解していないリミだ。お姫様であるが故に、その手の色恋沙汰問題からは充分慎重に触れられてきた。


 つまりは、めちゃくちゃ箱入りなのだ。



(コウノトリが運んできたのかしら……)



 なのでリミが知っている知識といえば、この程度。ずいぶん昔からあるある種おとぎ話のような言い伝え。コウノトリが赤ちゃんを連れてくる。


 しかしそんなものが言い伝えというか真実の知識ではないというのは、リミも薄々気がついている。魔法の発展したこの世界で、そんな昔話を信じられるものか。


 よって、リミに今子供がどうやってできるかの知識はなく……考えているうちに……



「子供って、どうやってできるんだろう」



 と、口に出してしまうのはもはや必然であった。


 呟く程度の小さな声だったはずだ。しかし、それはどうやらこの場にいる全員に聞こえてしまったらしい。振り向き、顔を赤くする者、または青ざめる者……と、反応は様々だが……これがみんな驚愕しているのは、リミにもわかる。



「あ、あの皆さん……?」


「姫! どうしたんですかいきなり! タツシ殿に何かされましたか!?」


「おい」



 いの一番に反応したのは、セニリアだ。リミの肩を掴み、ものすごい形相を浮かべている。揺さぶるその姿は軽くホラーだ。



「い、いやそうじゃなくて……赤ちゃんって、かわいいなって。そう、思って……」



 それが真実なのだから、こう答えるしかない。もっとも、それでセニリアが納得したかは微妙なところだが。


 とりあえずセニリアから解放され、ほっと一息。それから、改めてみんなの顔を見回して……ただただ、困惑だ。なぜこうも慌てているのかが。



「えっと……私、まずいこと聞きました?」


「まずいっていうか……ここでその質問が来ること自体予想外だったから。ところで、ホントに知らないの?」


「はい」



 なんて純粋な瞳で答えるのだろうか。これを見ては、とてもリミが嘘をついているとは思えない。とはいえ、高校生でその知識量は果たして大丈夫なのだろうか。


 とはいえ、ここで話すというのも気が引ける。



「おい由香……学校でそういうこと教えてないのかよ」


「私保健担当じゃないもんー」



 目をばってんにして答える由香を見ながら、達志は思い返す。確かあの学校の保健教師は……パイア・ヴァンという名のヴァンパイアだったはずだ。確か保健教師且つヴァンパイアなのに血が苦手という、ある意味ヤバい人物だ。


 ヒャッハーが学校テロを起こした時に、達志含め怪我してもらった人は治療してもらっていたはずだ。


 あの人物が、子供の作り方をレクチャー……ダメだ、想像できない。



「ええと、リミちゃん? そういうことは、人前で聞くことじゃあないんだよ?」



 と、赤ちゃんを抱えた由香はリミの先生らしく、どっしり構えて注意をする。



「じゃあ由香さんは知ってるんですね? 教えてください!」


「ふぇっ?」



 思わぬカウンターに、動揺して由香は赤ちゃんを落としそうになる。が、すんでのところで踏ん張りそれを防止。


 その顔は、予想以上に赤かった。



「ぅ……た、たっくぅん……」


「先生だろ、答えてやれよ」



 達志は由香の助けを放棄した。同様に、他のみんなも由香の視線から逃れるように顔をそらしていく。みなえを除いて。



「お、おばさぁん」



 由香に助けを求められたみなえは、いつの間にか装着していたサングラスをずらし、しっかりを由香を見つめる。


 そして、ただ一言。



「由香ちゃん、頑張って」


「うぁあああ!」



 にこっと笑みを浮かべたが、そこは由香を救うのではなく、突き落とすためのものであった。



「母さん……」


「ふふ、子供だった由香ちゃんが、教え子に子供の作り方を教えることになるなんて……なんだか、不思議な気分で……」



 ダメだこの母親、なんとかしないと。なぜか泣き出してしまった。


 達志は思う。最近母親の涙腺が緩みまくっている、と。



「うぅ……」



 そして逃げ場と助けを失った由香は、顔を赤らめもじもじしている。赤ちゃんを抱きかかえもじもじしている姿は、なんというかとても……



「えろいな」



 この一言に尽きる。直後にさよなに殴られた。



「わ、わかったよぉ。けど、ここじゃ……あっちで、話そ」


「? はい」



 人間の好奇心を止めることなど、誰にもできない。由香にとって、教え子から何かを問われればそれに応えるのが義務だと思っている。その内容が何であれ。


 しかしさすがに、男もいるこの場で話すのは気が進まないらしい。そこで由香は赤ちゃんをみなえに預け、リミを連れ、場所を移動していく。


 海まで来て、私は何をしているんだろう……今、由香はこう思っていることだろう。



「……子供の作り方をリミに教える由香か……なんか創作意欲がわいてくるな」


「バカなの?」



 ここ最近のさよなは、なんだか厳しい。まあ今のは完全にバカなこと言ったせいだろうが。



「ところでセニリア、どうせならキミが教えてやればよかったのに。リミちゃんのことならキミに任せた方がよさそうなもんだが」



 そこへ、猛が気になっていたことをぶつける。確かに、リミのことはセニリアがよくわかってるはずだ。進んで教えるものではないにしても、聞かれたからにはセニリアから率先して答えそうなものであるが。


 その疑問に、セニリアはほのかに顔をそめて……



「だってその……恥ずかしい、じゃないですか」



 由香のなけなしの勇気が台無しになるような言葉を放った。

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