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いったい誰の子なんですか!



「ただい……何してんの?」


「おかえり。遅かったわね」



 自販機にジュースを買いに行った達志、リミ、由香……その三人が元いた場所に帰ってくるまで、結構時間が経っている。不思議に思うのも、それは当然の結果と言えるだろう。


 待たせていたみなえはパラソルの下に設置したビーチチェアに横になっている。それはいいとして……問題は、残った猛、さよな、セニリアの三人だ。


 三人が三人、ブルーシートに座ってはいるのだが……どうにも様子がおかしい。猛とさよなとセニリアが、何かを囲っている状態だ。



「何かあったのか?」


「それが……だな」


「あい!」



 何かあったのかと問いかける達志に対し、答えようとする猛……を遮り、妙に高い声がそれを遮った。それは、猛のものでもなければさよなやセニリアのものでもない。


 しかしそれは、三人の方向から……いや、三人のいる中心から聞こえてきた。つまり、三人が囲っている物体(?)から聞こえてきたということになる。



「おい、そこに何がある」


「それが……な。あはは……」



 なぜか言い淀む猛を尻目に、さよなとセニリアがその場から体勢をずらす。すると、彼女らの体で隠されていた物体(?)が達志達の前に姿を現して……



「あう!」


「「「……」」」



 三人は、絶句した。それは、赤ちゃんだった。


 猛、さよな、セニリア……三人が囲っていたのは、見覚えのない赤ちゃん。まだ一歳かそこらだろうか……とにかく小さな赤ちゃんが、そこにいた。


 もう一度言う。赤ちゃんがいた。三人は、絶句した。



「……猛、どっちとの子だ?」


「はぁ!?」



 まず達志が確認せねばならないのは……この赤ちゃんが、猛とさよなの子なのか、猛とセニリアの子なのか、ということだ。そして言うまでもないが、達志は混乱している。



「いや、ちょっと待て! なんだその質問! 俺は……」


「くっ……そうだよな! 俺はモテないのにお前は昔からモテてた……そしてそこに、十年の差が出来た! お前に子供の一人や二人いてもおかしくないよな!」


「聞けよ!」



 もう一度言う、達志は混乱している。



「あわわ……た、猛くんと、さよな、ちゃんが? え、キャー」


「落ち着いて由香ちゃん!」


「セニリア……私に構ってばかりだったあなたが、ついに男の人と……」


「泣かないでくださいよ姫!」



 そして由香とリミも混乱している。



「それともお前っ……まさか、どっちの子かわからないって言うんじゃないだろうな!?」


「おっそろしい想像してんじゃねえよ! バッカ! お前バッカ!」


「……猛くん?」


「タケル様?」


「だから違うって! 睨むな!」



 三人からあらぬ誤解を受け、珍しく猛が狼狽えている。これはこれで貴重な体験であるが、そろそろ本人の意見も聞いた方がいいだろうと達志は判断する。確かに猛はモテるが、だからといってそんな無責任なことはしない。


 はずだ。さよなやセニリアの反応を見ても、何か事情がありそうなのは間違いない。



「じゃあからかうのはこれくらいにして……猛、そりゃどこの子だ?」


「え? 猛君の子じゃないの?」


「え? タケル様の子じゃないんですか?」


「……」



 赤ちゃんを本当に猛の子だと思っていたらしき由香とリミは、訳が分かっていないらしい。この二人、似た者同士である。



「もし猛の子なら、ここに来る時点で一緒じゃないのはおかしいだろ。そもそも、猛のことだから結婚したとか子供がいるって報告は真っ先にするだろうさ。俺はともかく、由香まで知らないってのはおかしいしな」


「はっ、なるほど」



 ようやく合点のいった由香は、小さくうなずく。とはいえ、見た瞬間あまりの衝撃に息が止まりそうになったのは達志だ。本当に、猛とさよなかセニリアの子でないかと疑った。


 ぶっちゃけた話、この十年の期間があれば猛とさよながとっくにくっついていてもおかしくはなかったのだが……それはそれとして、今は置いておこう。



「で、この子は?」


「あぁ……同僚の子だよ。さっきたまたま会ってな……少しの間だけ預かっといてくれって言われたんだよ」


「ふーん」


「露骨につまんなそうだなお前!」



 赤ちゃんの正体は、同僚の子という……特に面白みのない、ものであった。



「わぁ、赤ちゃんだよ赤ちゃん」


「か、かわいいですね」



 猛の疑いが晴れた途端、リミと由香は赤ちゃんの傍へと移動する。あまり人見知りしない子なのか、これだけ大勢に囲まれてもおとなしくしている。



「あー」


「ん、私? ね、ねえ、抱いていいのかな?」


「まあ自由にしていいって言ってたしな。けど丁重に扱えよー?」


「合点!」



 赤ちゃんが手を伸ばす先には、由香が。その仕草に母性本能をくすぐられたのか、瞳を輝かせながら猛に問う。あまりのかわいさにハァハァ言ってるし、下手をしたら通報ものだ。


 猛のお許しも出たので、恐る恐る由香は赤ちゃんを抱っこする。腫れ物を触るように、そっと……腕の中に人間一人が、すっぽりと収まる。



「ふわぁ……」



 直に赤ちゃんを抱いた由香の顔は、めちゃくちゃ緩み切っていた。それも、無理のないことではあるが。由香は子供が好きだから教師になったのだから、赤ちゃんを目の前にしたら平静を保ってはいられないだろう。赤ちゃんも、どうやら喜んでいるようだし。


 そうやって、赤ちゃんを抱く由香は……当然水着姿だ。それを見る達志と猛は、互いに同じようなことを考えていた。



「なあ達志……」


「あぁわかってる……なんか人妻みたいで、えろいな」



 頭の中がピンクな二人。そんな二人を見て、さよなは小さくため息を吐いて一言。



「男って、バカだなぁ」

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