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まさかの遭遇



「あれ……先輩?」



 由香とリミと共にジュースを買いに来た達志……ようやく自販機を見つけたその時、聞きなれた声が届いた。


 それも、達志を指して『先輩』と呼ぶのは、彼が知る限りで一人だ。



「しぇ、シェルリア?」



 そこにいたのは、美しく輝く金髪が印象的な、エルフの少女。達志の所属するテニス部の後輩であり、なにを隠そう校内二大美女の一人であるシェルリア・テンだ。


 なぜ彼女がここにいるのかはわからないが……いや、海にいる理由など一つしかないのだが。


 その証拠に、彼女も水着だ。控えめな彼女らしからぬビキニタイプの水着で、白を基調としたものに桜の模様が散りばめられている。その上からパーカーを被ってはいるが、それでも白い肌を隠しきれてはいない。


 校内二大美女なだけあってスタイルも抜群。浜辺を歩けばそれだけで男どもの視線を集めること請け合いだ。



「先輩も、海に来てたんですね。……え、っと……如月先生?」


「えっ? あ、あぁこれは、ね! 違うのこれは……あははは!」



 達志に反応したシェルリアだが、その次に気になるのは両側の美女美少女……しかも、片方は自分の学校の先生だ。


 その上……達志の腕に、その豊満な胸を押し付けるように腕を絡めている、ように見える。これは端から見れば、恋人にするようなそれだ。


 それを、教師が一生徒に……看破できない問題だろう。とっさに離れた由香だが、ばっちり見られた。



(いや、そりゃそうだよ……)



 海とはいえ、どこで誰が見ているかわからない。これは、由香もそうだが達志も迂闊だったと言わざるをえない。


 勘違いだとしても、教師と生徒が付き合っている、と見える関係に思われてしまえば……由香の立場は危うくなる。せっかくなった教師の道が、閉ざされてしまう。


 そんなことには、させるわけにはいかない。



「あー、シェルリア? これはその、ゆ……如月先生が体調崩したって言うから、支えをだな……」



 とっさの言葉が出てこず、苦しい言い訳になってしまうか……



「そうだったんですか? 如月先生、大丈夫ですか?」


「えぇ? あ、うん」



 だが予想していた以上に、すんなりと信じるシェルリア。天使か。その素直さに対して安心する反面、シェルリアの純粋さが心配になってしまう瞬間でもある。



「でも驚きましたー。先輩や先生が、一緒に海に来るくらいに仲が良かったなんて」


「……」



 まずいな……と本能が訴えている。このままではシェルリアの中では『達志と由香は生徒と教師でありながら一緒に海に来るくらいに仲がいい』となってしまう。そんなことになってしまえば、彼女の中であらぬ誤解が広がるだろう。


 それが、どこから外に漏れないとも限らない。迂闊としか言いようがないが、見られたことは痛い。



「いや、先生と来てたのは私……イサカイくんと会ったのは、ついさっき。日に当てられた先生を一人で運ぶのは厳しかったから、男の子である彼に協力してもらったの」


「!?」



 この窮地をどう脱するか……それを考えていた達志に助け舟を出したのは、まさかのリミであった。まったくの予想外であったが、これはありがたい。


 確かに生徒と教師は問題である……だがそれは、男と女に限った話。女同士、しかも生徒との距離が近く生徒人気の大会由香であれば、こうして女生徒と一緒に海に来ていたって不思議ではない。その上、リミは由香が顧問である調理部に所属しているのだ。一緒にいたってなんの問題もない。



「へー、そうだったんですか! なんだかうらやましい!」


「う、うらやましい?」


「はい! 私、如月先生のこと優しくて素敵な先生と思っているので、私もお話したかったです」


「そ、そうなの?」



 素直に行為を向けられ、由香はまんざらでもなさそうだ。教師になった以上、生徒から好かれるのは由香にとって最高の瞬間なのだろう。



「じゃあ先輩は、一人で海に?」


「いや、幼なじみとな。さすがに男一人海は寂しくてやりたくない」



 由香とリミが一緒と言った以上、達志は一人ということになる。だが、由香と一緒であったことを除けば嘘をつく必要はない。なのでここは、正直に答える。



「……男の人ですか?」



 なんだその返しは。



「まあ、一応。でも、もう一人い……」


「ふむふむなるほどなるほど。男二人で海……しかも幼なじみ。あれ、先輩って十年不老だからもしかして幼なじみと十歳差? てことは幼なじみが自分よりはるか年上に? 年上幼なじみが先輩をリードして、人気のない浜辺でじっくりしっぽり……」


「ど、どうしたのテンちゃん……」


「気にすんな。由香は知らなくていい世界だから。というかこいつ、もう隠すことすらしなくなったな」



 どこをどうしたか、エル腐としてトリップしてしまったシェルリア。彼女を止める術はないので、元に戻るまで待っておくとしよう。


 妄想の内容はともかく、幼なじみと聞いただけであっという間に十年の年齢差に気付くとは。あれでも冷静な部分はあるのだろうか。だが達志を不老扱いはどうなんだろう。



「それにしてもリミ、さっきは助かったよ。まさかリミが、あんな機転が利くなんて。俺のこともちゃんと名字だったし、ホント助かった」


「…………褒められて嬉しいのになんででしょう、素直に喜べないんですが」


「たっくん、普通に褒めればいいのに……」



 結局シェルリアが戻ってくるまでに、それから十分以上はかかった。

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