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奇跡みたいな出会いのみんなと



「わくわく、わくわく!」



 本日快晴。雲一つない青空が広がり、絶好の外出日和だ。そして現在、青空の下を走る白いワゴン車が一台。


 その中で、機嫌のよさそうだとわかるテンションで声が響いている。その声の主は、この外出の言い出しっぺでもある女の子だ。



「ずいぶんご機嫌だな、リミ」


「はい、それはもちろんです! 昨日からわくわくして寝るのが遅くなっちゃいました!」


「小学生か……」



 車の中ではしゃぐリミの姿は、まるで小学生だと言っても過言ではない。嬉しさを表すように、ウサギの耳がぴくんぴくんと揺れている。触りたいが、ぐっと堪える。


 現在このワゴン車には、七人の人間が乗車している。ワゴン車を運転するのは、達志の母であるみなえ。助手席に、セニリア。


 その後ろの席に、達志、リミ、由香という形で座っている。さらにその後ろに、猛、さよなといった配置だ。



「まあいいじゃないの達志。お母さんも夕べはわくわくしちゃって寝れなくて……」


「小学生か……いや大丈夫!? そんな状態で運転とか大丈夫!?」


「ふふ、なんてね。ジョークよジョーク」



 心臓に悪いジョークはやめてもらいたい。


 だが、その言葉が全て嘘ではないのだろうなと、達志は思う。今まで十年間、達志はみなえの下からいなくなり、五年前には残された娘さえも失った。残りの五年を、一人で過ごしてきたのだ。


 こうして子供と遊びに出掛けるなんて、夢のようだと思っているのだろう。聞いてはいないし、言わないだろうが……なんとなく達志にはわかる。親子だから。


 だから、こうした母のジョークも少し愛しいとさえ思えてくるのは、自然なことだろう。



「それに、いざ運転できなくなったとしても、セニリアちゃんがいるから大丈夫でしょ」



 と、のんきな母は隣に座るセニリアをチラッと見つめる。



「それもそうか。セニリアさん、もしもの時はお願いしますね……」


「えっ、いや私、車の免許持ってませんけど」


「ないの!?」



 今までみなえの隣に座っていたセニリアからの、衝撃の告白。いかにも「私運転できますけど」的な顔をして座っているもんだから、当たり前のように運転できると思っていたのだが……


 まさか、免許すら持っていないとは。



「じゃあなんで助手席に座ったの!? いざというとき変わるためじゃなくて!?」


「空いていたので、なんとなく」


「なんとなく!」



 できる秘書みたいな雰囲気である彼女の、意外な欠点。


 ……それにしても、達志が驚くのはまだわかるが、なぜ隣のリミまで驚いているのだろうか。この子、側近のこと知らなさすぎじゃない?



「これまで、持ってなくても不便はありませんでしたし……」


「いや、大人なら持ってないのは……あぁ、いやそうか」



 不便はないと語るセニリアに、達志は反論……しようとするが、やめる。なぜか? セニリアが車の免許を持っていても、意味がないことを理解したから。


 なぜならセニリアは、ハーピィなのだ。どこかに用があれば飛んでいけばいいし、こうやって皆で遊びに行くことがなければ大抵の問題は飛んで解決する。


 というか、今は魔法が当たり前の世界なんだから……免許持ってようが持ってまいが、あまり関係ないのかもしれない。



「安心しなよたっくん。ここには、他に社会人が三人もいるんだから」


「そうだな。けど、由香の運転する車には乗りたくない」


「!?」



 ここで安心させようと声をかけるのは、由香。その口ぶりから少なくとも彼女は車の免許を持っているのだろうが、彼女の運転する車には乗りたくないのが心のうちだ。声に出たけど。


 確かに社会人となり成功しているように見えるが、昔から知っているだけに……そして昔の記憶で止まっているために、由香がきちんとした運転をするなんて想像もできない。



「まー免許の話は置いといてよ。由香の運転一回見てみ、すげー意外なうまさだから」


「意外はよけいー!」



 達志の後ろから、首を伸ばした猛がからかうように由香に告げる。どうやら、意外にも運転はうまいらしい。意外にも。


 まあ見るだけならば危険もないし……今度、見てみよう。



「ふふ、みんな楽しそう」


「そう言うさよなもな。ま、ひっさびさにこうして遊べるってんだからテンション上がるって」



 さよなが言うように、ここにいるみんなが楽しそうだ。みなえはもちろん、由香も、猛も、さよなも。そしてリミも、セニリアも。みんなが、笑っている。


 本来なら、こうして出会うことや、遊びに出掛けるなんてあり得なかったメンバー。達志に起こった事故の一件がなければ、ここにいるメンバー……少なくとも、リミとセニリアとは、関わることすらなかっただろう。


 幼なじみのみんなだって、達志が普通に成長して同じ時間を歩んでいたとしたら……こうして頻繁に会っていたかすら、わからない。個人とは連絡をとっても、四人が一度に集まる機会なんてなかっただろう。


 達志が目覚め、こうして戻ってきたから……みんな、それぞれの予定を返上してまで達志との、幼なじみとの時間を作ってくれるのだ。


 もちろん、あの事故がいいものだったとは言えない。あの事件で失ったものは……あまりに、大きすぎる。十年という時間、かつての友達、かけがえのない妹……


 だが、あの事件がなければ、リミ達と出会うこともなかった。どこかで偶然、すれ違うことはあったかもしれない。だが、それだけだ。通行人以上の関係になんて、なれなかった。



「……ははっ」



 今ここで、みんなで笑っていられるのはとても素晴らしい時間……奇跡と言っても、過言ではない。少し歯車がずれていたら、この七人が一緒に笑いあうことなんて、なかった。




「? タツシ様、どうしました?」



 不思議な気持ちに包まれていると、隣のリミが達志の顔を覗きこんでくる。そもそも、彼女を助ける、なんてことをしなければ……今、自分は、自分達はここにはいない。


 だから……なんとなく、だ。こうするのが正しいのか、間違っているのかわからない。ただ、この心地いい空間を作ってくれた彼女に向けて。



「リミ、ありがとな」


「へ? は、はい……?」



 見に覚えのないお礼を告げられ、困惑する。それでいい。意味なんてわからなくても。ただ、伝えたいことを伝えただけだから。



「あ、海が見えたわよ」



 運転席に座るみなえの言葉により、全員の視線が窓の外へと向くと……そこには、青い海が広がっていた。白い砂浜と、青い海が。


 ……海に、来た。

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