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悩殺わがままボディ



 由香の水着選び……それは大変充実した時間で、さよなにとってとても満ち足りたものであった。それは逆に、由香自身きせかえ人形も同様の時間でもあったが。


 デパートからの帰り道……満足げな表情を浮かべるさよなと、疲れきった表情を浮かべる由香。同じ時間を過ごしたはずの二人は、まったく正反対の表情を浮かべていて。



「はぁっ……今日はここ最近で、一番有意義な時間だったよ!」


「はぁっ……今日はここ最近で、一番疲れた時間だったよ……」



 すれ違えば振り返るほどの美女が、片や幸せ絶頂、片や不幸せ絶頂の表情を浮かべているのだ。その対極な様子に、道行く人はただただ首をかしげるばかり。


 二人がそれぞれ別の感情を抱いている。その、理由は……



「由香ちゃんの水着きせかえ……楽しかったぁ……!」



 もうきせかえと断言してしまうほどに、由香に水着を着せていく行為は楽しかった。由香という、素晴らしい逸材に好きに水着を着せられるのだ、こんなに幸せなことはない。


 逆に、見事にきせかえ人形にされた由香の疲労……というより心労は想像する以上のものであったが。



「さよなちゃん……私はどっと疲れたよ」



 さよなやルーア、さらにはルーアと同居しているというクマのベアくんの前で、何度となく水着を着ては脱ぎ着ては脱ぎを繰り返して……先ほどもさよなが言ったが、まさしくきせかえ人形だ。


 由香も、始めこそノリノリ……というかノせられていたが、途中からは言われるがままだ。着せられていくままに従うしかない。


 結果、何着かかわいい水着を着ることはでき、その中で一番いいと選んでくれた水着は決まったものの……代償に、由香は大きく疲れていた。


 しかも……だ。由香の水着を選んでいるうちに、さよなは自分の水着を選んでしまったのだ。つまり、さよながどんな水着を選んだのか由香は見ることができなかったということだ。



「ずるいよ、私ばっかり……」


「ごめんごめん。けど、自分のは自分自身でわかってるからさ。由香ちゃんに、かわいいの着てほしかったの」



 確かにデザイナーであるさよななら、誰に選んでもらうより自分で選んだ方が確実だろう。それに、由香自身にそこまでのセンスはない。


 故に、そのこと自体に不満はないが……



「ちゃんと海に行った時まで、私のはお預け!」



 由香はたくさん見られたのに、さよなのは全然見ることができてない。それが一番の不満である。


 さよなの水着は見れなかったわ、ルーアは帰ったわ……何をしに来たんだろう、あの子は。水着を買いに来たはずなのに、他人の水着着替えを見ただけで満足して帰っていってしまった。



「ま、そう気を落とさないでよ。自分で言うのもなんだけど、その水着なら達志くんなんかイチコロだから!」


「うん…………って! べ、別にたっくんのことは……落とすとか、そんなんじゃ……」


「はいはい。わかってるから」



 由香自身、達志への想いが消えてはいない……さよなには、それがわかる。本人は否定しても。ごまかそうとしたって、わかる。


 十年という月日が経ち、達志と由香は同い年の幼なじみというかんけいにありながら、お互いの歩む時間に大きな差ができてしまった。これが、由香の気持ちにも達志の気持ちにも大きな障害となっている。


 その想いは消えることはなかった……故に、二人は現実的な問題に直面してしまった。由香は十年その想いを抱き続けたままで、達志に至っては十年も経ったという感覚すらないのだ。


 教師と生徒という関係になってしまった以上に、十年という時間が二人の間に壁となって立ち塞がる。しかも、問題はそれだけではない。



(……リミちゃん、か)



 達志が十年間眠る要因を作るに至った存在……リミ。彼女は、十年前達志に助けられてから、ずっと達志のことを気にかけてきた。それが時が経ち、達志と同い年にまで成長した。


 友達という贔屓目を抜いてもリミは美人だ。そんな女の子が、純粋に自分のことを慕っている……男ならば、このシチュエーションに何も思わないはずがない。


 達志に対するリミの態度は、恋愛によるものか……それはわからない。だが、経緯はどうあれ同じ異性を十年も想い続ける……これはもう、恋と言ってしまっても差し支えない。と思う。


 もしリミが恋愛感情を達志に抱いたら……もしくは、すでに抱いていてそれに気づいたら……それは、由香にとって年月以上の障壁となることだろう。


 だから……



「由香ちゃん……頑張ろうね。私も、応援するから」


「? う、うん?」



 由香にはとりあえず、今度の海で達志を悩殺してもらいたいものだ。

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