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【リメイク連載中】目が覚めたら世界が異世界っぽくなっていた件  作者: 白い彗星
異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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十年越しのありがとう



 ……現時刻は、十九時過ぎ。ウルカとの会話を終え、新しくなった点滴を受けた達志は、夜になるまでの間をただただぼーっと過ごしていた。


 目が冴えてしまい寝ることもできないし、かといって他に暇をつぶすものもない。


 とはいえ、暇でどうしようもなかったわけではない。今日訪れた人達の話を頭の中で思い出しており、それらをイメージすることで時間をつぶしていた。


 外の様子をそ、母の仕事姿を想像し、由香の教師姿を想像し……その時だった。



 コンコン



 入口の扉から、ノックが鳴る。こんな時間だ、面会時間は過ぎている。となると、先生か看護師だろう。「どうぞ」と何となしに声をかける。


 ……だが、扉が開かないのだ。向こうにいるのが先生か看護師ならば、こうも躊躇うことはないはずなのに。


 不審に思う。人影は見えているのだ。仕方なくもう一度声をかけようとしたところで……ドアノブが、動く。それからゆっくりと……本当にゆっくりと、扉が開いていく。


 しかし、開くだけで、開けた主は入ってこない。



「あの……い、イサカイ・タツシ様、ですか?」



 姿を見せない代わりに、声は届く。それは、少女の声。病室の前にあるネームプレートを見ればそんなことわかりきっているはずだが……とにかく、達志は肯定する。


 すると、開いた扉に隠れるようにして、恐る恐るといった風に頭がこちらを覗く。頭と、耳が。


 それは、不安げに眉を下げ、瞳に不安の色を宿している少女。


 顔の半分以上が隠れているため、残念ながらわかるのは髪の色と瞳の色だけだが、それよりも達志の目を引くものがあった。それは……



「えっと……とにかく、入ったら?」


「! は、はひ! し、失礼します!」



 肩を奮わせ、オーバーなリアクションに苦笑いを浮かべつつ、深呼吸を繰り返す少女を見つめる。それを幾度繰り返し、ついに少女は足を踏みだし、その姿を達志の前に見せる。


 由香とは違い、今度こそ知らない女の子だ。


 今まで一度も日焼けをしたことがないのではないかと思えるほどに白い肌。腰まで伸びた白髪は美しく手入れされ、まるで輝いているかのような印象を受ける。


 髪に指を通しても引っ掛かることはあるまい。その瞳に宿る赤い色には、本人の意思の強さが表れているかのようだ。


 スタイルはよく、出る所は出、締まる所は締まっている。年齢は達志と同い年くらいであろうか。


 その美貌は、思わず見惚れてしまうものがあったが、目を引かれるのは何も彼女の容姿だけではない。その身に纏う制服……それには、達志自身見覚えがある。


 何故なら、その制服は、達志が通っていた高校のものだったのだから。紺色のブレザーに、同じく紺色のスカート。胸元には赤いリボンが付いており、端的に言うならばそれはセーラー服だ。


 美しい容姿と、懐かしい制服。だが達志の目を一番引いたのは、そのどちらでもない。その頭にぴょこんと生える耳……いわゆる、ウサ耳だ。


 見た目は人間と大差ないのだが、その頭にはウサギの耳が生えている。白いウサ耳は彼女の容姿に見事にマッチしている。白い肌、髪の色、赤い瞳……まさに、ウサギだった。


 謎のウサギ少女は、何の目的でここを訪れたのか。達志の疑問が通じたかのか、疑念の視線を受ける少女は緊張したように口を開く。



「あ、あの! 私、リミ・ディ・ヴァタクシアと言います!リミと呼んでください! 覚えているかわかりませんが、十年前、タツシ様に助けていただいて……ずっと、お礼が言いたかったんです! それで、ずっとここへ……」



 目の前の少女……リミは白い頬を赤く染め、口早に自分の主張を言葉にする。早口ではあったが、その内容を聞き取ることができた。それを受けて、達志は理解する。


 つまりは、ウルカから聞いた、達志が助けた少女というのは……彼女のことだ。そしてそれを負い目に感じた彼女は、こうしてお見舞いに来たわけだ。



「キミ……」


「リミです!」


「……リミ、ちゃん……」


「リミです!」



 初対面の女の子を呼び捨てで呼ぶのには抵抗があったのだが、どうやら呼び捨てでないと許してくれそうもない。緊張している様子の彼女は、しかし頑なだった。



「……えっと、じゃあ、リミ。リミは、ここに来るの初めてじゃないの?」


「はい! 毎日通わせていただきました!」



 達志の質問に、リミは真っ直ぐな姿勢と声で答える。ウサ耳もぴんと立っており、まるでリミの感情とリンクしているよう。その姿勢は、どこか気丈としていた。それにしても……



「ま、毎日……?」


「はい! 一度も欠かしたことはありません! タツシ様が眠ってしまった日から、ずっと……」



 毎日通っていたという告白。それには単純に驚いた。十年間、一度も休むことなく来てくれたというのか。


 負い目に感じていたにしろ、それだけの理由で……否、達志にとってはそれだけでも、リミにとってはそうではなかったのだ。


 それほどまでに、この子は罪悪感を感じていたのだろう。そしてさっき達志に名前を尋ねたのも、目の前の人物が、自分を助けてくれた人物だと再確認するための……


 確かに、言いようによっては、この子を助けたせいで達志は事故にあったのだ。しかしそのことで、相手を恨んだりするわけではない。


 むしろこんなに自分を想ってくれていて、達志にとっては何だか嬉しいくらいだ。……ところで。



「その……様っていうのは?」


「あ、これはその……私が勝手に、呼んでるだけです。タツシ様が嫌でしたら、やめます」


「嫌ってわけじゃ……」



 嫌というわけではないが、誰かから様付けをされるというのは、何だかむずがゆいのだ。そんな呼び方、これまでの人生の中で呼ばれたことなど当然ない。


 が、助けてくれた恩人、という気持ちからか、達志のことを様付けで呼ぶのはリミにたっては当然なのかもしれない。


 ……そこで話が一旦落ち着き、部屋が静寂に包まれた頃だ。再び部屋に響く軽いノック。それに対応した後、しかし先程とは違いすぐに、「失礼します」と新たに部屋に入ってくる人影。


 リミの後ろから、その少し斜め後ろに立つのは……



「イサカイ・タツシ殿、お初にお目にかかります。私、セニリア・ボルテニクスと申します。この度は、本当にありがとうございました。私からも慎んで、お礼を申し上げます」



 眼鏡にスーツといった、この部屋を訪れた由香と同じような格好であるものの、由香とは全く違った印象を受ける女性が一礼する。


 その礼はきっかり四十五度に曲がり、口調はリミとは対照的にはっきりとしている。


 背中まで伸びた緑色の髪を、一本に纏めて横に流している、サイドポニー。スラッと伸びた脚は長く見え、女性にしては背が高い方だ。


 その目はキッ、と鋭く、表情は無表情。その格好も相まって、『出来る秘書』という印象を受ける。


 それにしても様、の次は殿……達志の知らないうちに、仰々しい敬称が付いていくものだ。



「えっと、ボルテニクス、さん?」


「セニリア、とお呼びを。その呼び方はあまり好きではないので」



 と、ボルテニクス改めセニリアはひそかに眉間に眉を寄せている。その理由は、ボルテニクス……とは堅苦しい印象を与える名前であるからであろうか。


 であれば、それを気にする女性らしい面もあるということだ。



「じゃあ、セニリアさん。セニリアさんって、リミの関係者?」



 リミと一緒に来たらしき女性。何よりさっきのお礼は、リミの件のことだろうリミの斜め後ろに待機していることも関係しているだろう。ならば二人はどういう関係なのだろうか?



「えぇ。私……いえ私の家系ボルテニクス家は、代々ヴァタクシア家に仕えているのです」



 当然の疑問に、淡々と応えるセニリア。仕えている……その言葉は、達志の乏しい頭にも事の意味を認識させる。……もしや、リミの家ってお金持ち?


 そんな考えが巡り、口をついて言葉が出る。



「じゃあリミって、良いとこのお嬢さんだったり?」



 少しだけ笑みを交えながら、問い掛ける。なんとなく、この場の雰囲気を柔らかくしようた。しかしセニリアの表情は変わることなく、小さく首を振る。



「良いとこのお嬢さん、どころではありません。リミ様は我々の国サエジェドーラを治める、ヴァタクシア王の愛娘なのです」



 セニリアの口から返ってきたのは、意外過ぎる言葉。それは衝撃の事実。……王の愛娘ということは……リミは、次期王女ということになる。助けた女の子がお姫様……



「ラノベ的展開キター!」



 思わず、達志は叫んでいた。突拍子もない達志の発言に、リミやセニリアまでもが目を丸くしている。我に返った達志はコホン、と咳ばらいをして……



「えと……なのに、一国の姫を呼び捨てなんて……」


「構いません! いえ、呼び捨てでお願いします!」



 そこだけは、頑なに譲ろうとしないリミ。セニリアも、リミがいいのなら構わないといった態度だ。



「リミ様は、我らが王国の姫です。実はニホンと同国文化を結ぶ際、ニホンに着ていたのですが……私としたことが不覚にも、姫を見失ってしまったのです」



 件の日を思い出し、自らの行動を悔いるように、歯を食いしばるセニリア。リミのお付きでありながら目を離してしまったこと、おそらく十年経った今も自分を許していないのだろう。



「私が姫を見つけたのは、全てが終わった後でした。当事者とはいえ幼かった姫の証言だけでは信憑性に欠けると思われたのでしょうが、他にも目撃者の証言を聞き……証言は一致。あの時何があったかが判明しました」



 そう言って、セニリアは達志の瞳を覗き込むように、視線を向ける。整った顔を向けられた達志は、思わず顔を赤らめる。



「あの時、姫は赤信号にも関わらず飛び出したのです。当然、車は通っています。姫が車に轢かれそうになった時、迷いなく飛び出したのが……タツシ殿、貴方です」



 それは、ウルカから聞かされた話と同じものだ。車に轢かれそうになった少女を助けた、と。


「勇敢にも貴方は億することなく、飛び出した姫を追い、その腕に抱きしめるように姫の身を守ったのです。ですが貴方は、車に衝突。

 しかも跳ねられた後の打ち所が悪かったらしく。幸い、姫はかすり傷で済んだのですが、タツシ殿は意識不明の重体。結果……」


「十年眠り続けてた、と」


「本当に、ありがとうございました。貴方には感謝をしてもしきれません。もしもあの時姫に万が一のことがあれば……同盟は打ち切り。それどころか、貴方方の世界に対し戦争を起こしていたかもしれません」



 理由がどうあれ、一国の姫に万が一のことがあれば、当然それを引き起こした相手側との交渉は決裂。


 サエジェドーラに蔓延する災厄の件があっても、それだけのことがあればサエジェドーラ側から同盟を取り下げるだろう。加えて、武力を持ってお礼参りを引き起こした可能性だってあるのだ。



「そして、移住先を失った我々は、残らず全滅……最悪、二つの世界を滅ぼす結果になっていたかもしらません」



 日本の、いや世界の軍事力は相当なものだ。しかし彼女らの済む世界も魔法という、人知を越えた力がある。そんな強大な力を有した同士が戦争を起こせば、被害は必死。


 仮にリミの世界が勝利したとしても、謎の災厄により全滅していただろう。


 よって、あの時リミの身を守った達志は、一人の少女の命どころか、結果として二つの世界の命運を救ったと言っても差し支えない。



「その後タツシ様の身はすぐに、我が国最新かつ最高の設備、治癒術師を揃えた体制の下に。その後は、我々の方で看病を……」



 そこでようやく、達志の合点がいく。なるほど、個室でいいベッド、こんな高そうな病室によく入院できていたなと思っていたが……そういうことだったのだ。


 姫であるリミの計らいで、病室を使わせてもらっていた。おそらく金銭面等も負担してもらっていたんだろう。だから、みなえはあの仕事だけでも生活できていたのだ。



「そうだったんだ。ありがとう、リミ」



 こんないい部屋に、しかも十年も入院ともなれば、莫大な費用がかかることは想像に難くない。だが、それをリミの計らいで負担してもらっていたともなれば、感謝してもしきれない。


 達志からのお礼を受けたリミは、一瞬キョトンとした表情になった後……みるみる顔を赤らめていく。そして、わたわたと手を振り慌てる。



「い、いえお礼なんて! ……それに、私を助けたせいであんなことになって……お礼どころか、私が謝罪すべきなんです。お母様のことだって、生活を全面的に援助すると言ったのですが……」


「そこまではいらない、って言われたんでしょ。母さんあれで結構頑固だから」


「! すごい、やっぱり親子ですね!」



 リミな負い目は、当然達志の親であるみなえにも向けられた。息子をあんな目にあわせた責任として、彼女の生活を援助するつもりでいた。


 しかしみなえは、息子の看病に加えてそこまでは甘えられないと、申し出を断っていた。



「あの時は本当に……本当に申し訳ありませんでした。それと、今日のことも。面会時間過ぎてるのに、無理言って来させてもらったんです!

 ……そして、あの時助けていただいて……本当に、本当にありがとうございました、」



 ペコリ、と頭を四十五度下げる。それは、セニリアが見せたお辞儀よりは不格好で、しかし誠意がこもっていて。


 己が犯してしまった罪……その謝罪、そしてお礼を、十年の時を経てようやく、言うべき相手に言うことが出来たのだ。それに対して肩の荷が下りたように感じたのは、きっと気のせいではないだろう。

主人公達志には独り言が目立つことがありますが、これは十年間眠っていた弊害、ともいうべきものでしょうか。

詳しくは後々出てきますが、こういう子だという認識でお願いいたします。

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[気になる点] 「ラノベ的展開キター!」 今までも、同じようなことが何回もありましたが、頭に思い浮かんだことを直ぐに口に出す。行動が、幼すぎませんか?とても違和感のある行動です。漫才の相方のようなキャ…
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