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ぶつかり合う闘志



「てりゃー!」



 情けない声をあげ、達志の騎馬が突撃する。だがそんな一直線の突撃が当たるはずもなく、華麗にかわされ……体勢を崩しそうにさえなってしまう。



「くぅ、やっぱ練習とは違うな……だけど、こっからが本番んとと!?」


「話してないで体動かせって!」



 突撃をかわされた上に、騎馬に怒られる始末。しゅんと反省。


 とはいえ、考えても仕方ないのは事実。ならば、とにかくがむしゃらに動くだけだ。幸い、相手も慣れていないようだし……



「なら、先手必勝! さあ共に行こう騎馬のみんな!」


「やたらテンション高いなお前!」



 やたらとテンションの高い達志が、声を張り上げる。そうだ、テンション高いというか楽しいのだ。達志にとっては、右も左も知らない人ばかりだった……


 だが今は、そんな人達とでもこうして共に行事に参加できるのが楽しい。だから、嫌でもテンションが上がるのだ。



「そんなわけで突撃!」


「どんなわけだ! ああもう知らねえぞ!」



 達志の指示に従い、騎馬は相手へと突撃していく。それを見てか、対峙する相手騎馬も同じく突撃してくるのを確認。なので、達志は構える。


 相手のハチマキに狙いを定めて。それでいて自分のハチマキは取られないように。体勢を低く、手を伸ばして……



「がっ!?」


「んぐっ!」



 ゴツンッ、と鈍い音が響く。その音の正体は……達志と、相手騎手の頭同士が衝突したものだ。達志は、そして相手は、顔を前に突き出し過ぎて勢いあまってぶつけてしまったのだ。


 その衝撃に、二人は頭を押さえる。が、先に動くのは達志だ。涙目になりながらも、反応。頭を押さえる相手騎手の、その頭へと手を頭を伸ばしていく。


 その手が、ハチマキの先端を捕らえ……



「取ったどー!」



 相手の、桃チームのハチマキを奪取することに成功。その間も相手騎手は、頭を押さえるばかりだ。そんなに痛かっただろうか。



「こ、この石頭め……!」



 二人は同じ衝撃……ではなく、どうやら達志の頭が石頭であったらしい。その事実に、達志は顔をひきつらせるが……とにかく、勝ちは勝ちだ。


 あとは、マルクスとヘラクレス。あの二人は現在互いに対峙しており、お互いが引き分けに終わっているのが望ましい結果ではあるが……



「おららららら!」


「うららららら!」


「……」



 目の前の光景を、疑った。騎手であるヘラクレスが伸ばす無数の腕を、騎馬であるマルクスが素早くかわしていき、騎手のハチマキが取られるのを防いでいる。


 スライムだから二本の腕だけしか出ないことはないのだ、とか鬼族だから尋常ならざる身体能力を持っているのだ、とかいろいろと突っ込みたいところはあるが……



「は、速すぎて見えん……人間じゃない」



 ただ一つ、これに尽きる。正確にはスライムであるヘラクレスや鬼族であるマルクスは人間という種族ではないが……それは、置いておこう。


 マジでこのまま二人が引き分けになってくれないだろうか……そう考えていたとき、ヘラクレスを支える騎馬がバランスを崩す。


 あまりの攻防に着いていけないから……ではない。対峙している騎馬であるマルクスが、タックルを仕掛けたからだ。



「あ! マルちゃんきたねー!」


「いや、ルール違反ではないぞ……」



 ヘラクレス側もやられてばかりではない。騎馬同士がぶつかり合い、それでもなお倒れない。目の前で行われる対決に、達志は思わず身震いしてしまう。


 果たして達志があの二人と対決したとき、勝つことができるのか。いやそもそも、勝負にすらなるのかどうか……



「そこ!」



 しかし、そう考えている間も事態は動く。目の前を、目を疑う光景があった。なぜなら……騎馬が、飛んでいたから。



「う、そぉ……」



 前衛にいるマルクスが踏ん張り、ジャンプ……そして後ろの二人も共に飛び、人を支えているとは思えないほどのジャンプ力を発揮する。というか、騎馬の状態でジャンプしたこと事態驚きだが。



「なにぃ!?」



 これにはさすがのヘラクレスも驚愕し、動きが止まってしまう。その僅かな隙を逃さず、マルクス騎馬の上に乗る騎手は……ヘラクレスのハチマキを、掴み取る。


 次の瞬間、ハチマキを奪取。



「ぬぁあー! やられたー!」



 予想外の決着に、ヘラクレスの断末魔のような叫びが響き渡る。これで二人の対決の勝利はマルクスがもぎ取ったわけだが、そこで立ち止まるほど彼は優しくはない。



「次はお前だ、イサカイ……」


「いやぁー! こっち来んなー!」



 狙いは……残るただ一つの騎手達志。今の彼の脚力ならば、この程度の距離あっという間に詰められてしまうだろう。


 いくらマルクスだけが規格外とはいっても、他の騎馬二人、それに騎手もそれに着いていく力の持ち主だ。どう考えたって勝てない。


 もちろん、最初から諦めるつもりもないのだが……



「っても、どうすっか……ってうぉっ!?」



 いつでも動けるように、体勢を低くする。騎馬にも、それは伝わったようだ。


 だがまだ甘い。こちらが準備を整える前に、向こうはすでに走り出していたのだから。その速さは、とても人一人を背負っているとは思えない。



「ま、マルちゃん来たぁ!」


「誰がマルちゃんだ! ふは、イサカイ、覚悟……!」



 互いの距離は、みるみる縮まっていく。もはや真正面しか戦うしかないのか……覚悟を決めたとき、またしても目の前で予期せぬ出来事が起きる。


 こちらへ走ってきていたマルクス。彼が……いや、騎手の全員がつまずき、その場に転倒したのだ。それはもう、派手に。


 マルクスなんか、体勢が体勢だから受け身もとれていない。



「えっ……転けた?」



 単に転んだ、とは考えにくい。なにせ三人が同時に転んだのだ。一人に他の二人が引きずられて、という風ではなく。


 その原因はなにか。考えられるのは……



「もしかして……ヘラとの戦いで、足に限界が来たのか?」



 先程のヘラクレスとの激しい攻防戦。鬼族であり普通の人間よりも身体能力の上がった状態であるとはいえ、マルクスもさすがに騎馬戦でこうまで動くとは想定していなかったのだろう。


 自分一人ではない。騎手を第一に、他にも気を回さないといけない。その負担が、今彼らを襲ったのだ。



「……ってことは、つまり……」


『おぉっと青チーム! ここで転倒! 先程の攻防が響いて疲れが出たのか!? しかし、転倒は失格! よって、赤チームの勝利だぁ!』



 司会から、赤チームの勝利が告げられる。最後まで残った達志ら赤チームの、勝利。


 目の前には、倒れたまま動かないマルクスら青チーム。結果は達志らの勝利であるが、なんともやりきれない結果となった。

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