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宴もたけなわウサギはパンパン



 和気あいあいとした食事の時間は、あっという間に過ぎていく。学校で、それもいつもとは違い外部の人間と食事を共にするのだ、いつもと違った雰囲気があり楽しいことこの上ない。


 とはいえ、ここまで和気あいあいとしているところもそうはないだろうが。なにせ達志の家族だけなら少ないが、そこに幼なじみや同居人まで加わっているのだから。


 しかもその幼なじみは、今は社会人でわざわざ仕事を休んで来てくれたのだ。理由を知らない人から見れば、今の達志たちはなんとも不思議な関係だろう。



「いやー、食った食った。うーまかったなぁ」


「満腹です」



 みなえ、セニリア、そして猛お手製のお弁当。どれも達志とリミの口に合い、恐ろしいくらいに食欲が進んでいった。それだけ夢中になって食べてしまったということだ。



「ほら、これで口拭きな。それと寝転がったら消化によくないから、座っとくんだぞ」


「主婦……いやおかんか!」



 食べ終わっても甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる猛に、主婦またはおかんの片鱗を感じる。


 大工仲間に弁当を振る舞うこともあると言っていたが、まさか大工達の中でのお母さんになっていないだろうか。



「……嫌な想像だな」



 想像しただけで吐き気がした。



「猛くん、お料理上手なんて意外だった……おいしかった。けど、女として負けた気分……」


「俺は男だ!」



 好きな人にお弁当を作り、食べてもらいたい……さよなの中の理想の恋人像は、儚くも崩れ去っていた。


 何を隠そうさよな、料理できないのだ。それだけならまだしも、まさか猛が、しかもこれほどまでの料理上手だったとは。


 それに、料理関係でセニリアと親しくなっているようだし。このままでは、取り返しのつかないことになりかねない。



「……よし、私も頑張ろう!」



 一人静かに、決意を新たにした。その言葉の真の意味を知るのは達志以外にはいないのだが、こう思う。


 料理を覚える暇があるなら告白しろと。突っ込みたくなるが、非常に繊細な問題なので口に出すのは控えておこう。



「とりあえず……腹一杯だし、後半戦に向けてエネルギー補給も万端だな!」



 さよなの色恋沙汰はとりあえず置いておいて、今は目の前のこと。昼食が終わったあとの、体育祭後半戦だ。いいもん食わせてもらったし、エネルギー補給としては充分。


 問題があるとすれば、食べすぎで体が思うように動かなくなることだが、まあそこは心配ない。あまりのおいしさに食べすぎた感はあるが、動けないほどではない。


 それに達志の出番はまだ先だ。出番が来るまでに腹もいい感じになっているだろうとささやかな期待もしている。



「この後は……おぉ、達志は騎馬戦に出るのか。怪我すんなよ」


「やっぱ怪我ありきなんだ!?」



 出場するものはそれ以外にもちらほらあるが、目玉と言えば騎馬戦だろう。ちなみにこれは、体育祭自体の目玉である、ということも聞いている。


 同じクラスで出るメンバーも何人かいたが、同じチームではないし……とにかく、自分にできることを全力でぶつかっていくだけだ。



「姫も、後半戦頑張ってくださいね」



 セニリアに応援されるのはリミ。達志とどちらを、というわけではないが、どちらと言われればやはりリミを応援する方になるのだろう。



「いざとなったら、この『頑張れリミ様負けるなリミ様』大うちわで応援します」


「やめて」



 取り出すのは、どこに隠してあったんだと聞きたくなるほどの大きなうちわ。そこには、今彼女が言ったように『頑張れリミ様負けるなリミ様』とでっかく書かれている。


 いつもの『姫』ではなく『リミ様』と書いてあるところにやらしさを感じる。姫ならわかる人にしかわからないが、リミ様だと公誰の目にも明らかだし開処刑ではないか。


 そしてさよなは、またそんな応援グッズをデザインしたらしい。文字がやけにキラキラしているから嫌でも目立つ。



「ま、まあ応援する側も気合い入ってるってことだな、あはは」


「入りすぎでは?」



 あんなもので応援された日には、恥ずかしさで死ねる。達志の場合は手遅れだが、まだ『志』の文字だけであっただけマシと言えるだろう。


 あそこから達志を連想する人はいない……はず。多分。



「ところでリミ、さっきから言葉少ないけど……」



 先ほどから、妙にさっぱりした言葉を返してくるリミ。何か彼女らしくないなと感じ、確認のために顔を向けると……そこには、驚くべき姿があった。


 お腹が膨れ、ポンポンと叩いている彼女の姿が。



「り、リミ……さん?」


「食べすぎまひたぁ……」



 喋るのもいっぱいいっぱいだと言わんばかりだ。見る影がない、とまではいかないが、頬は食べ物を突っ込んだハムスターのように膨れ、お腹は漫画みたいにぽっこり出ている。



「お、おいひすぎて……」



 さっきからはむはむしていると思ったら、結果として動けないほどになってしまっていた。



「いや、この後の種目どうすんの!?」



 達志よりよっぽど重症なウサギが、昼食が終わるまでの残された時間で元に戻るだろうか。敵チームながら心配になってしまう。


 あまり見たくなかったビフォーアフターである。



「大丈夫、なんとかなりまふ!」



 その自信がどこからくるのかわからないが、本人が大丈夫だというなら大丈夫なのだろう。ということで、本人を信じているうちに昼食時間は終了となった。


 ちなみに、直後に始まった大縄跳びに出場予定だったリミは、棄権した。

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