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【リメイク連載中】目が覚めたら世界が異世界っぽくなっていた件  作者: 白い彗星
異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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大人になるっていうこと



 十年ぶりの母と幼なじみとの再会。体感でなく、現実時間でそれを体験した達志は、今またベッドに寝転がっていた。自分の知らぬ間に老けた母。大人になった幼なじみ。


 その事実に、達志は何とも言えない気持ちを……いや、本人は認めないが、寂しさという気持ちを、感じていた。



「なんだかなぁ……」



 それも、誰かと話している時は気が紛れるのだ。一人だと、どうしても考えてしまう。だから、誰でもいいから来てくれないかなと思っていた。


 とはいえ会えば、十年間の重みをさらに感じることになるのではないか。そんな矛盾した気持ちを抱えている時だった……



「よぅ、達志。元気か?」


「久しぶり、達志くん」



 そこへ、つい昨日聞いたはずの……しかしどこか懐かしい声が、達志の耳に届く。これは、母や由香と再会した時と同じ感覚。つまり……



「……猛、さよな」



 入口から部屋へと入ってきたのは、由香と同じく達志の幼なじみ、茅魅(かやみ) (たける)五十嵐(いがらし) さよなであった。


 達志、由香、猛、さよな……この四人こそが、小中高と共にしてきた幼なじみであった。



「なんだ、十年ぶりに起きたわりには元気そうじゃん」


「……相変わらずだなお前は」


「起きて本当良かったよー……」


「心配かけたな」



 赤毛のツンツンヘアー、当時バスケ部のエースだった猛と、黒髪ロングを腰まで伸ばした清楚系大人しめ女子だったさよな。


 それぞれ、高校時代……いやそれより前から、異性からモテていた。由香も人気あったし……もしかして、四人の中で自分だけモテてないんじゃないか、と場違いと時違いな残念感に押し潰される達志。


 だが今それを言っても仕方ない。昔のことだ。達志にとっては昔ではないが……


 ともかく、二人ともあれからさらに大人っぽくなり、さよなに関しては由香に負けず劣らずの色気を出している。


 由香が押し出しのエロとするならば、さよなは内に秘めたエロとでもいうべきか。



「猛、背伸びたな……あの頃でも百八十あったのに、今じゃ二メートルあるんじゃね?」


「バッカ、そんなねえよ。せいぜい百九十手前」


「さよなは、眼鏡にしたんだ。似合ってんじゃん」


「あ、ありがと。あれから、目が悪くなって……」



 由香に続き、やはり十年も経てば変化するものだ。二人とも、由香ほどの身体的変化はさすがにないが……



「二人は今、何してんだ? 由香は教師らしいけど」


「お、由香も来てたらしいな。俺はまあ、大工だな。親父の跡継いで」


「私は、デザイナー」



 二人も、由香同様夢を叶えている。しかも、やはり二人ともそれぞれにピッタリな職業だ。それは嬉しいもので、そしてやはり寂しさを感じる。


 だが、それを表に出すのは一人になった時でいい。



「すげぇじゃん! なあ、どうせなら外で話さねえ?」


「え、けどいいのか?」


「あんまり無理したら……」


「だーいじょぶだいじょぶ。気分転換に屋上になら行ってもいいって許可貰ってるから」



 実際、ずっと部屋に篭りきりというのも息が詰まる。外にでも出て、気分転換したいと思っていたのだ。なので、いいタイミングで二人が来てくれたといえよう。



「じゃ、達志が大丈夫なら行くか」



 ……病室から出るのは、初めてだ。道中、屋上への道を看護師に聞きつつ、目的地を目指す。病院の中にいる看護師や患者は、人もいれば人ならざる者、異形の者もいる。


 だが誰もそれを気にしないどころか、仲良く話している。それが、この世界では当たり前なのだ。


 時に迷い、時に道を聞き……何とか、屋上へとたどり着く。息巻いて部屋を出たはいいが、その頃にはもう達志の体力はゼロに近かった。


 屋上に行くまでの少しの道でさえ、今の達志では息が切れるほどに体力が無くなっていた。



「と、年は取らなくても……た、体力は……てい、か……して……」


「だ、大丈夫か? やっぱ戻った方が……」


「気に、せず……行ってくれ。はぁ、はぁ……」



 これは、リハビリに相当の苦労がかかるかもしれない。すぐに退院できると思っていたが、それは甘い考えなのかもしれないと、達志には不安が過ぎっていた。


 これは一刻も早く、体力を戻さなくては……



「つ、ついた……」



 決意を胸に、しかし今は猛の肩を借りて、屋上へとたどり着く。全盛期ならこのくらい、息切れすら起こさなかっただろうに、時間の流れというのは恐ろしい。


 屋上からは、病院の敷地が一望できる。庭が広がっており、噴水まである。庭では車椅子に乗った患者を散歩させていたり、子供達が遊んでいたり、仲睦まじい光景が広がっていた。


 部屋の中にいたのでわからなかったが、病院の規模も大きいようで、学校くらいはあるのではないだろうか。少なくとも、達志か今まで見た病院のどれよりも大きい。



「はぁ、風が……きもちい……」



 額に汗を滲ませる達志にとって、頬を撫でる風は心地よいものだ。目を細め、一心に風を顔で受ける。そんな中で二人に目を向けると、こちらを微笑ましそうに見ているではないか。


 途端に恥ずかしくなった達志は、コホンと咳ばらい。



「それより、職業も違うのに二人一緒に来るなんて、なに、二人付き合ってんの?」


「な、そ、そんなわけ……付き合ってなんて……」


「いやないない。なあ?」


「…………ソウダネ」



 今の問い掛けで取り乱してくれたらと思っていたのだが、どうやら無駄だったらしい。少なくとも猛に関しては。


 猛に同意を求められたさよなは、赤面から一辺、無表情の鉄仮面になっているが。


 達志も猛もさよなの変化には気付かないまま、楽しげに話している。さよなは小さくため息を吐くのだが、まあいっか、と二人の会話に混ざる。


 由香と同じように、昔の話を思い出して、この十年の歩みを思い出して。


 由香と猛とさよな。どうやら三人はちょくちょく連絡を取っているらしく、今回は、母みなえから連絡を貰った由香、猛、さよなの三人がそれぞれ達志のお見舞いに来たということだ。


 猛とさよなはたまたま二人とも休みであり、仕事中に抜け出してきた由香とは違いゆったりと来たのだという。



「しかし驚いたぜ、いきなり達志が意識不明になんて知らされた時は」


「ホントだよ。おばさんや、由香ちゃんなんてわんわん泣いて大変だったんだから」



 幼なじみが、親友が、意識不明。その事実を知らされ、バスケの試合をほっぽりだして来たという猛。泣きわめく由香を、必死になだめていたというさよな。


 二人がわんわん泣いていたというのは今知った事実であり、おそらくそれは恥ずかしくて本人には言えなかったのだろう。


 そして今、目の前の二人にも迷惑をかけていたことを改めて知る。由香同様に迷惑をかけたとは思っていたか、猛がまさか試合を放り出して来てくれたとは思わなかった。


 バスケ部のエースで、バスケ命だったのに。猛は昔のことだと言っているが、当時は非常に苦しい思いをさせたに違いない。


 泣きわめく由香をなだめるさよなにも迷惑をかけた。おそらく、並大抵のことではなかっただろう。


 その時の由香の精神状態がいかなものか知るよしもないが、想像を絶するものたったに違いない。それをなだめる行為も。


 それに対して申し訳ない気持ちは、もちろんある。だが、謝罪は違う。そんなこと求められてはいないし、こんな時に言う言葉ではない。だから、今言うべきは……



「……ありがとな、猛、さよな」



 ……感謝。十年分の思いを込め、感謝を。一言で表すには足りない、しかし重みの伝わる言葉。それを受けた二人は、満足そうに微笑んでいて。


 肩を組む猛と、笑いあい……それを見て笑顔を浮かべるさよなと、ハイタッチして。


 時間を忘れて、話し、笑う。さよなに、付き合ってる人や好きな人はいないのかなんてからかっていたところ……ふと、懐に手を忍ばせる猛。


 そこから出てきたのは、タバコの箱だ。銘柄は知るよしもないが、それを見る達志を見て、ばつが悪そうに猛はタバコを収める。



「わり、病人の前だな」


「病人って感覚はもうないけど……吸ってんだ、タバコ」


「あぁ……まあ、な」



 達志はタバコが嫌いだ。道行く人がタバコを吸っていれば息を止めて早々に過ぎ去るし、わかりやすく顔をしかめたりもする。


 あんなもの、わかりやすく言って毒だろう。法律で禁止されてないだけで、麻薬と同じだ。なのにどうして、わざわざ金を払い自分の体を壊していくのか。


 それが達志には、理解できない。


 自分の体だけならともかく、周りの人間にも害を及ぼす分、ある意味麻薬より厄介ではないか。副流煙を吸えば、吸っている人間以上に悪影響が出る場合もある。


 何より、匂いが、生理的に受け付けない。猛も同じことを言っていたのに、なぜ……



「……会社の付き合いとかで、な」



聞かれたわけでもないが、猛は語り始める。達志が何を考えているかが、わかっているから。



「飲み会とか行くとさ? いるんだよタバコ吸う奴。十以上も集まってんだから当然なんだけどさ。……で、飲み会の個室なんて狭い空間だと嫌でも吸っちまうの。

 ホントめんどくせえよ、趣味の話はできないわ毒吸わされるわ……だから、せめてタバコ慣れようってな。じゃないと、つまんねーことだらけで嫌になる」



 猛は昔から、こういう奴だ、物事をはっきり言い、適当に見えてちゃんと考えている。……だが、社会ではそうもいかない。嫌なもの全てに嫌なんて言って、それが通じるわけない。


 嫌なことでも受け入れなければいけない。だから……



「だから……嫌でも慣れてくしかねーんだ。それが……大人になるってことだ」


「嫌な、ことでも……」



 達志より先に…いや、達志だけが追いていかれ、大人になった幼なじみ。その瞳には、大人になった嬉しさ、というよりも、大人になった憂いさが宿っていて……



「お前には悪いけどさ……俺はお前が羨ましいよ、達志」



 十年分追いていかれた幼なじみ。彼に対して、大人になった彼は……その胸に秘める本音を、ぶつける。そう言う幼なじみに対して、達志は、何も言い返すことができなかった。

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