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死神の報復  作者: 射月アキラ
Ⅳ 腐敗した風
27/45

06

「もう、役割は充分果たしたんじゃないか?」


「それを決めるのは、あなたですよ。これはあなたの馬なんですから」


「そいつの記憶は──」


「いえ」


 ニコラが否定で遮る。


「あなたが言っているのは、彼らが生きていたころの話ですよ、十三番。彼らは死に、あなたが生まれ……そして、あなたは【死神】へと近づいている。この死体は、あなたの領域のものですよ」


 十三番は息をのんで、ニコラへ目を向ける。


 まっすぐに向けられた灰色の瞳は、かすかに憂いの色を含んでいた。


「あなたはすでに【死神】の半身なんです」


 それは、先刻聞いた言葉を単純に言い換えただけ。


 にもかかわらず十三番の目が揺れたのは、言葉の意味を正しく受け取れていなかったからに他ならない。


 ただの人間だった青年と、ほとんど魔術と言っていいアルカナの【死神】。


 十三番という人格は、その間を埋めるように存在している。


 死んだ青年の体を使っているのが十三番だとすれば、死んだ馬の体を扱ってもさほど不自然ではない。


 十三番は苦笑して、ニコラから目を反らした。


 残された記憶に引きずられているのか、それとも【死神】の影響がまだ弱すぎるのか。どちらにしろ、十三番が自身を正しく理解できていないことだけは確かだった。


 なにせ、半身であるはずの【死神】を扱った魔術すら使えていない。


 象徴は用意され、残るは「意思を固める」だけだというのに。


「悪いな、覚えが悪くて」


「謝る必要はありませんよ」


 それに、とニコラは続ける。


「あなたが来てくれて、私は感謝しているんです」


「感謝?」


「ええ。ですから、ここに来てあなたが背負う苦労なら、少しでも軽くできるようにしましょう」


 当たり前だと主張するように、ニコラは変わらない口調で言いきった。


 そして、中庭と廊下を区切る低い壁に向かって歩み、立てかけていた長い杖を手に取る。


「昨晩の記憶は、まだ残っていましたね」


「あぁ」


「では、この神殿に入ったときに、真っ先に感じたのは?」


「……風の流れが悪かった」


 ニコラは頷いて応える。


「【世界】が神殿全体に、不変と停滞を望んだのです。アルカナと同一化できなかった弟子が全員死んでから、本当に長い間……風すら流れることを忘れるように、建物全体を維持し続けてきました」


 十三番が思い出したのは、異常さに満ちた昨晩の神殿だ。


 管理の行き届きすぎた石壁。蜘蛛の巣はおろか埃すらない廊下。


 そのくせ、この神殿には、今だって恐ろしいほどに人の気配がない。

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