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死神の報復  作者: 射月アキラ
Ⅰ 刹那にして永遠
1/45

01

 一秒間。


 青年が知覚する世界が止まった。


「信じたくない」と、何度だって思った。しかし、青年の五感には絶え間なく現実が突きつけられる。


 町があったはずだった。


 青年が馬を止めた場所は、通りの真ん中のはずだった。


 そこらから聞こえるはずの声は、ない。


 道の両脇に並ぶ家屋からは、橙色の炎が立ちのぼっている。


 ──人間の生活の全てが焼ける匂いがする。


 小さな輝きが風に吹かれて流れているのは、火の粉か、あるいは灰が燃えながら飛ばされているのだろうか。


 ここに至るまで何人分の死体を見つけたか、数えられるものではない。


 熱され、溶けて、焼け焦げた人体が、個人の判別などつくはずもない炭の塊が、青年の背後にはいくつも転がっている。


 目を背けて逃げ出したくなるような惨状を、それでも視界に収めながら青年はここまできた。


 馬を止めたのには、理由がある。


 青年の前方。家屋を焼く炎が届かない道の中央に、白い衣服をまとった人間が数人、地面に視線を向けて立ち尽くしていた。


 周囲の凄惨な状況に似つかわしくない白の衣服は、清潔さや純真さよりも異常さが際立って気味が悪い。


 見かけない異質な衣服からして、彼らが町に災禍をもたらしたであろうことは間違いない。


 彼らの視線の先を。


 ──見てはいけない。


 青年の理性は、すでに惨劇に疲弊している。「それ」は、確実に致命傷になる。知覚してしまえば元には戻れないだろう。


 それでも、青年の目は降下を始める。


 白服に施された金の刺繍が目に焼きつくほど、ゆっくりとした視線の移動。


 服の上に被さる金髪が、炎に照らされている様さえ視認できる。


 果たして──足元に倒れていたのは、見慣れた顔の女だった。


 強張り、凍りついた表情。白濁した瞳。震えることすらしない四肢。


「それ」は、死体だった。


 喘鳴。


 青年の喉から漏れ出た息は、声にすらならない。


 何度も呼んだ名を、紡ぐこともできない。


 たった一秒。


 愛した女の死体を視認したことが、青年の人間性を決定的に突き崩した。

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