孤独の蛇
窓にうつる己の瞳が
どこにも辿り着かぬ空洞のようで
苦し紛れに外を見る
透けたそのむこうで青い車が一台出て行く
風の流れを子供が絵に描いたような
そんな速さで遠ざかる
寂しさにまかせて隣人は菓子を焼くと言った
それを思い出しながらも抗うばかりの私は
卵や粉で心を鎮めることもせず
海をめざして独り車を走らせる
着く頃には孤独も焦燥も焼け落ちて
灰になったばかりのそれらが
カラカラと腹の中を揺らした
海の真上から落ちそうな月
それを待ち構えるような長い橋
橋の上を車が通過する度に
誰かを運んだ箱のヘッドライトが
蛇のように静かに海を渡る
それをただ黙って見つめた
どこへ行くどこまで行く
私を置いて
声なき呟きのあと
青い車の幻が光の蛇に食われる
静かなはずの海辺を
心ひとつで騒がせながら
別れのその日はじめて泣いた