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Reep:Loop  作者: yua
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 耳に響く騒がしい音。一般人がここに来ると、その異様な空気、臭い、音に眉をひそめる事だろう。一昔前であれば、真っ当な人間がこの場所に足を踏み入れる事はなく、一般的に言われる「不良」などと呼ばれる素行に問題のある人間が集った場所として有名である。そのせいか、今でも快く思わない人間も多い。

 杏里と別れてから走って数メートル。その後、徒歩に切り替えて駅まで引き返し、定期券でまた電車に乗ると、乗り換えを行った駅まで戻る。そこで改札を出て、歩いて数分。巨大なアミューズメント施設は、その姿を現す。

 中に入れば、そこは音こそはうるさいものの、清潔感溢れており、手入れが行きとどいている。多くの人間が懸念している煙草の臭いなどもなく、喫煙ルームが設置されており分煙がなされている。

 今や、アミューズメント施設は、一昔前の小汚いイメージを払拭し、清潔で楽しい場所を目指して努力している。大衆にも親しまれる場所しようと努力している節が窺える。

 実際はそう上手く行っている訳ではなく、このようなアミューズメント施設の客の殆どは高齢の人間であり、メダルゲームなどで時間を潰して、夕方には帰って行く。若者のたまり場から、老人の溜まり場へと変化した。

 この手のアミューズメント施設を運営し、そして様々なゲームを提供する会社も、若者向けのゲームは作っており、そちらの方も人気があるらしい。しかし、最近のその手のゲームに悠は詳しくはなかった。

 悠がここに来た理由としては、単なる時間つぶしだ。現在時刻は一〇時。アミューズメント施設のオープン時間である。

 用事が始まるのは午後からなので、午前中は暇なのだ。一〇〇円玉が数枚あれば、この場所で二時間ぐらいは楽しむ事ができる。

 この建物は全部で七階構造になっており、一階がクレーンゲーム、二階が小型筺体、三階がメダルゲーム、四階が大型筺体のゲーム、五階、六階がボーリング場、七階がカラオケになっている。この手の複合アミューズメント施設は、この辺りでも珍しい類だ。

 暇つぶしの舞台になるのは四階。大型筺体と言いつつも、二階の小型筺体と同じぐらいの大きさの筺体が幾つか設置されている。

 筺体にはレバーとボタン。これも昔から変わらない。モニターや、細かい箇所の変わりはあるものの、作りこそは昔と一切変わっていない。

 コインを投入すればゲームは始まる。この時間帯は、まだ人は少なく、裏の同筺体から乱入して来る人間も少ない。ゆっくりと、自分のペースで練習をする事が出来るので、この時間でのゲームを悠は気に入っていた。

 もちろん、それは最初の話。少し時間が立ち、一一時を過ぎた辺りになると、様々な事情の人間がこの場所に溢れてくる。

 ある者は自分と同じように学校をサボってきている人間。ある者は今日が休日である人間。ある者は大学生、時間に縛られずに生きている人間。ある者はそもそも職などに就いておらず何らかの援助によって生きている人間。

 裏側の同一筺体に同じく一〇〇円を投入すれば乱入となり、対人戦がスタートする。今までの、CPUとの戦いとは訳が違う。真剣勝負だ。

 響くのはゲームのBGM、キャラクターの掛け声、そしてレバーとボタンを操作する音だけだ。息継ぐ暇もない。息を止めた状態での戦いは、不思議と苦しくない。それだけ集中している。

 ゲームの勝敗は、HPが0になった時点で終了する。戦いが終わり、筺体を立ち上がる頃には、一一時半を指し示していた。

〝そろそろ飯でも食って行くかな……〟

 予定より早いが先に食事をしていく事にしよう。


 悠が寄る店は基本的に固定されている。たまに、別のものが食べたくなり、浮気をする事もあるが、基本的には〝いつも行く店〟で決まっている。ここ一年ぐらい、三日に一回ほどは食べに行くが、飽きる事はない。

 かなりの頻度で行くので、店員の顔も、そして店員もこちらの顔を覚えてしまっているようであり、話こそはしないものの、いつもの席に案内してくれる。この案内も、この時間帯は人が少ないからだろう。昼時だと云うのに、この店はあまり人がこない。

 この店はカウンター席しかない。入口のところに食券機が設置されており、そこで注文を決めてから席に座る。誰も居ない店内に、立っている店員はふたりと、客である自分ひとりの合計三人だけ。

 食券をカウンターの上に置くと、サービスの水と入れ違いに食券が持っていかれる。

 ここからが長い。料理の作成時間自体は長くないのだが、肝心の「麺」がゆで上がるのに時間が掛かるのである。それがゆであがってしまえば、もう料理はすぐそこだ。

 五分ほど待つと、店内にアラームが鳴り響く。麺がゆで上がったタイミングで、それが鳴るように設定されているのだ。店員がすぐにゆで上がった麺を取り出して、水気を適度に切ってから、お椀の中に流し込む。

 運ばれてきた料理はラーメン……とはまた違う。悠自身も、最初みたときは驚いたが、今ではこの味が癖になってしまった。

 取りあえず、口に運ぶ前に、酢とラー油で味を調えるのがこの料理のルールらしい。そして普通のラーメンと違うのは、これをまんべんなく混ぜて、食べる。汁無し坦々麺とは違う。

 店内に響くのは、悠が麺をすする音と、店内BGMの代わりに流れているラジオ放送だけだ。平日のこの時間でも、ラジオ放送はしている。聴く人間は様々な層がおり、テレビが普及した今でも絶えず続く音声コンテンツだ。

『…………そういえば、皆、最近の出来事で一番衝撃的だったのはなんだった?』

 ラジオのパーソナリティがそんな質問をする。最近は、SNSにタグを付けて投稿すると、それに解答する事も出来るらしい。ラジオ放送も進化したものだ。

『僕はね、仲の良かった友人が僕に内緒で結婚してた事かな!』

「悲しいなおい」

 思わず口にしてしまった。

 …………と、そこで少しデジャヴ。

 似たような発言を、この間、しなかったか…………?

 そんなはずはない。このラジオは生放送。録音放送ではない。もしかしたら、似たような話題で、同じような反応を自分がしたのかもしれない。そこでデジャヴを感じたようなら、単なる勘違いだ。

 手元の麺の方に意識を戻すと、その横に、餃子がひとつおかれた。

「そろそろ欲しくなるころかと思いまして」

「……」

 いや確かに餃子は食べたかった。この店の餃子は、ニンニクを使わない餃子なので、これから行く用事の場所でも気にする必要がないのが良いところだが。

 はて、このようなサービスを自分は受けていただろうか?

 向こうは至って普段通りの顔だ。まるで、毎日のように自分がこのひとつだけの餃子を受け取って、食べているかのような。

 まぁ良いだろう。サービスなら、快くそれは受け取っておくのが礼儀である。

 餃子を口に運んで、その味をかみしめると、そのまま麺の方も一気にすすり、最後に水を飲みほして食事は終了。

「ごちそうさま」

 お椀をカウンターに乗せてから、悠は店をあとにする。

 ラジオのパーソナリティは、良くも解らない言葉を羅列していた。

 ……あのようなキャラ設定だっただろうか? 悠は不思議に思いながら、道を歩いて行く。



 くるくる、とペンを回しながら、杏里は窓の外を眺める。授業中、暇な事はないが、それでもやる気が起きないときもある。と、言うよりも彼女が勉強にやる気を出した事などまずない。

 勉学が重要な事は解っているが、それを真面目にやろうと頭で解っていても行動は出来ない。楽な方に流れてしまうのは自然な事だ。

 今日もどうやら、悠を学校に連れて来る事はできなかったようである。これで彼が学校に来なくなってから、彼此一年ほどが経過しようとしている。元々、学校にあまり登校していなかった彼だが、自分と付き合うようになってから、さらに疎遠になってしまった。

 その理由を知っているが故に、あまり言えないが、こうも休みが多いと、卒業できないのではないのだろうか……。そもそも、それなら、高校に入る必要性もなかったのではないのかと思ってしまうのだが、それはそれで彼にも事情があるらしい。

 テストや、卒業に関わるときには登校する。ここ最近は、卒業に関する行事やテストも無いので、彼は登校していない。

 学校にこない彼がテストだけ受けてもまともな点数が取れる訳がない。―――と言うのは大きな間違いであり、それでも彼は赤点ギリギリの点数をキープする。数学に至っては、それなりの成績を収めている。

 頭が良いと言うよりは、要領が良いのだろう。何でもそつなくこなすのではなく、自分の出来る範囲でこなすのだ。

 尚、彼が勉強するノートはすべて杏里がとっているので、彼女が授業をサボると、彼が困る事になる。しかし、自分がノートを必ず取るとは限らない上に、そうする必要性も感じない。その場合は、彼の友人に頼む事になる。

 …………授業終了を知らせるチャイムが鳴り響き、中年の教師が黒板を律儀に消してから教室をあとにすると、背伸びをひとつする。時刻は一二時半。昼休みだ。

 大半の高等学校がそうであるように、この学校も給食と云う代物はでてこない。弁当を持ち込んでの食事となる。だがすべての人間が弁当を持って来ているはずもなく、この学校に一個しかない食堂は、この時間大盛況となる。

「杏里。お昼ご飯どうする?」

 後ろの席にいる、横田広美が声を掛ける。この高校に入ってから出来た友人であり、よく休日は共に遊びに行ったりする。悠と付き合い始めてからもその関係は続いており、休日にも用事が入る悠がいないときは、基本的に彼女と出かける事になる。

「んー……今日はお弁当無いし……かといって食堂はヤバめっしょ?」

「そりゃあ……大盛況ですよ」

 当然と言えば当然だ。

「倫太郎はどうせ授業中抜けてるから食堂で飯買って来るんでしょうねー」

 教室の入り口を見ると、丁度、当の本人である坂口倫太郎が姿を現した。

 彼は正確に言えばあまり面識はないのだが、悠の友人と云う事もあり最近では話をする機会も増えてきた。

「おう。どうした? そんな口を「へ」の文字にして」

「……本当に倫太郎ってタイミング悪いわよね」

「坂口のいつもの事じゃない」

「え? え? 俺?」

 抱えている弁当を自分の席に置いて、倫太郎は杏里と広美の方を見る。

「なんだよ。だったらお前らも行けば良いだろう。……つか猪狩は今日も休みかよ」

「悠ならいつも通りだよ。今日は学校前まで来ただけマシー」

「大きな進歩ね」

 如何に、悠が学校に近寄らないかが窺える。

「まぁほら、色々とあるのは解ってんだけどなぁ」

 頭を掻きながら倫太郎は苦笑する。時間に拘束される事の息苦しさは学校もそうだが、悠のやっている事もそう言う事だ。しかし、倫太郎にとってみれば、それは悠の方が幾分か楽なように見えたからだ。

 勿論、そんな事は決してない事も解っている。が、自分たちと同じ「普通」をしていない以上、彼が「特別」に思えてしまう。

「まぁいいや。……あ、そうだそうだ」

 思い出したかのように、弁当の箱を開けつつ倫太郎は昼食をどうしようかと悩んでいる杏里を呼びとめる。

「猪狩にこれ、渡しておいてくれ。―――〝例のヤツ〟って言えば解るからさ」

 そう言って手渡されたのは、USBメモリだった。


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