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Reep:Loop  作者: yua
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 -prologue



 鈍い音が響いている。地鳴りのような、音。時折、小さく上下に揺れて、自分の足場が不安定になる。バランスを取って、その場に立ち続けていると、今やっと、自分が電車の中にいるのだと解る。

 電車の中だと云うのに、誰もいない。乗客は、自分ひとりのようだ。人のいない電車と云うのは珍しい。

 窓の外の景色は夕焼けの光でよく見えない。まぶしくて、瞼をひらいていられないぐらいまぶしい。反対側を見ると、そちらは暗過ぎて逆になにも見えない光景が広がっていて、現実離れしている。

 ゆっくりと、近くの座席に席を降ろす。どうせ貸し切りのようなものだ、少しぐらい脚を広げて、腕を広げて座っても文句は言われないだろう。

 …………しかし、この電車はどこに向かっているのだろうか? 動いていると云う事はどこかに向かっているのであろうが、どこの路線だろうか? それより、いつ自分は電車になど乗っただろうか?

 思い出せないが、電車に乗る事など日課のようなもので、あまり気にしていない。無意識の内に乗っていたのなら、この電車は間違い無く、自分の通っている学校のある駅へと向かっているのだろう。恐らく。

 この場所が電車だと気づいたのはつい先ほどの話だと云うのに、ずっとこの電車に乗っている気がして、本当にこの電車は目的地に向かっているのだろうかと不安になる。いつもは賑やか過ぎて、人が多過ぎて腹が立つ時間だが、人が居ないと逆に寂しく感じる。

 座席の上でくつろいでいると、少し、減速したような気がした。ぐん、と腹の下に力が入って、先ほどよりも明らかに体に掛かっている負荷が軽くなっているような気がした。

 そうしていると、完全に電車は止まった。目的地にたどり着いたようである。

 腰を上げて、扉の前に立つと、そこから見える駅の光景に目を点にする。そこにあるのは、いつも自分の降りている電車のホームではなかったのだ。いや、そもそも自分の住んでいる町ですらない。こんなに何もない田舎には住んでいない。

 寝過してしまっただろうか。

 頭を掻いて、取りあえず、電車から降りて見る事にした。電車から外に出ると、それを待っていたかのように電車の扉が閉まって、走りだして行ってしまった。

 しかし、ここはどこだろうか? 駅名のような看板もかすれてしまっており読めない。無人駅のようだが……

 手ごろなベンチに腰を掛けて、辺りを見渡して見る。手前に広がっているのは海だった。夕焼けに照らされて、光っている。後ろを見れば、山があった。町のようなものも無く、改札機も、自動販売機もない。人が住んでいるようには見えなかった。

 ふと思い出したかのように、ポケットの中にある携帯電話を取り出してみると、電源はまだ生きていた。バッテリー状態は良好で、電源はまだ七〇パーセントほど残っている。

 最近の携帯電話は技術革新によって飛躍的に進化した。GPSの発展によって、携帯電話を使ってディジタル上の地図に位置情報を写す事が出来る。

 地図アプリケーションを起動して、現在位置を取得しようと試みるのであるが、GPSが作動しない。現在位置情報を取得できないと云うエラーだけ吐いて、強制終了してしまうのである。それどころか、その一連の操作をしただけで、携帯電話のバッテリーが四〇パーセントまで落ちた。

 見ると、アンテナマークが圏外とだけ書かれている表記にいつの間にか変わっていた。圏外になってしまうような場所に来てしまったとでもいうのだろうか。

 ため息をひとつついて、携帯電話をポケットの中に入れると、電車が来ないかどうか辺りを見渡してみる。今行ったばかりだ、来る気配はない。電車の時刻表は、駅名の看板と同じですり減って何も見えない。

 再び、ベンチに戻ってきた。

 すると人が座っていた。自分が時刻表をみるほんの数秒の間に、自分に気づかれる事なく、そこに来たのだろうか……

 六〇代ほどであろうか。深い皺が幾つもある老人が、スーツを着て、杖を持ってそこに座っている。なにか、映画や舞台の登場人物と間違えてしまうような風貌である。

「こんにちは」

 老人がこちらの方に顔を向けて、そう言った。

 慌てて、言葉を返そうとするのだが、どうやら声が出ない。最初から、声を出す方法など氏らなかったかのように、何をどうやっても、自分の喉から音が出ないのである。

「無理をしない方が良い。この場所ではよくある事なのでねぇ」

 座っている老人は人の良さそうな笑顔で、そう言った。

 老人が右手で隣の席を叩いた。どうやら、座れ、との事らしい。

 頷いて、老人の横に座る。

「すまないね。本当はすぐにでも戻してあげたいんだけど」

 申し訳なさそうに、老人は言った。

「どうやら出来そうにない。変わりと言っては何なんだが……別の、似た場所を用意したよ」

 なにを言っているのか全く解らない。取りあえず、何か自分に対して誤っているのだけは解る。

 すると老人は懐から一枚の切符を取り出して、渡す。

「それじゃあね」


 気づくと、また電車に乗っていた。

 そこまできて、これは夢なのではないのだろうかと思ってしまった。

 寧ろここまで不可解な出来事ばかりだと、夢以外考えられない。

 電車はまた揺れているが、先ほどとは方向が少し違うらしい。走っている方向が逆方向に鳴っている。元来た道を戻っているのだ。相変わらず、外の風景は見えないが、電車の中は次第に人の姿が見られるようになってきた。

 途中、見慣れた光景に景色が変わって、安心する。いつの間にか、戻ってきたようである。


《切断》


 拝啓。

 三〇年前の『     』。

 いつか、空から会いにいきます。


《接続》


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