一人きりの世界 ~イロのない世界~
青は空と海の色
赤は太陽の色
緑は植物の色
みんな聞いたことがある
それでも僕は知らない
空?どこにある
太陽?そんなもの見たことがあるわけない
いや……見えるわけがない
僕、浅葱 修は生まれつき目が見えない
素晴らしい景色に感動する声は聞こえても
素晴らしい景色の音は感じることができても
その景色自体を見ることは出来ない
でも想像したり、全身で感じることは出来る
ここは
今、空気の澄んだところにいる
この風景は何色なんだろう
この気持ちは何色なんだろう
ここには何がいるのだろう
修は使いすぎてボロボロになったバックからスケッチブックと色鉛筆を取り出した
姉…美樹からプレゼントされたものだ
「聞いて感じたことをこれに描いてみればいいよ。
直接は見えなくてももっと新しい世界が見えるから
色は見えなくても感じたままに描けばいいさ」
美樹はそういった
何も描かれていないであろうスケッチブックの面をだし
色鉛筆の中から一本選んだ
当然色鉛筆なんてどんな色か知らない
これがいいかな、と思ったものをスケッチブックに描いていく
何かがすうっと流れる感じがする ということは曲線
ぶわっと強い流れを感じた ならもっと荒々しく
少し寝転んでみると頬をなでる感触があった 優しい動きを感じる
耳を澄ましていると何処かで不思議な音が鳴っていた
いや…この音は……
「バイオリンだ…」
切ないけれど何処か体の芯に響く旋律
高くなったり低くなったり
ふわり、ふわりと踊っているようだ
しばらく旋律を描いていると、突然バイオリンの音がやんだ。
「ねぇ、止めないでおくれよ。
もっと聞かせて?」
修は声を上げた。
バイオリンの音が聞こえるということは誰かいるのだと思ったからだ
しかし、バイオリンの音がまた鳴り出すことはなく
修は肩を落として家路についた