第七話
「私、不安で……」
マリコ先輩は、不安だったのだ。不安で不安でしょうがなかったから、その不安を解消するために、必死で練習をしていたのだ。
「大会1ヶ月前なのに、全治3週間のケガをして、もうダメだと思って……」
全治3週間のケガ、全国大会までの残り少ない時間、焦り、不安、ストレス、親の甘やかし、甘いお菓子、食べる、食べる、食べる、動かない、食べる、食べる……太った。ということらしい。要するに、食べすぎて太ったのだ。
「気づいたらこんなに太っていて……こんな体で大会に出たって勝てるわけがない…………それに、こんな醜い姿を見られたくないから」
私は後半の方が部活に出たくない本当の理由だなと思った。キープフィギアというスポーツは重い<フィギア>を長く持ち続けるというスポーツだ。だから、むしろ太っている方が有利なのだ。昔から言うでしょ? 「デブは力持ち」ってね。
「マリコちゃん、大丈夫だよ。むしろ太っている方が勝てるよ! 昔から言うでしょ、『デブは力持ち』だって」
美咲先輩が本日二度目の天然爆弾を炸裂させた。
「で、で、で、デブって言うなぁーーー!! 出て行け!!!」
私と美咲先輩は家から追い出された。
「美咲先輩! いい加減にしてくださいよ! 追い出されたじゃないですか!」
「ごめんねぇ……」
美咲先輩は悲しそうにうつむいた。美咲先輩が“うつむいたら”ゲームセットだ。うつむいた美咲先輩に何を言っても意味がない。非難中傷の言葉はうつむいた美咲先輩の耳には一切届かない。うつむいた先輩の耳には“優しい言葉”しか届かないのだ。最強にずるい、天然だけが使える大防御。まったく、美咲先輩は自分の都合が悪くなると直ぐにうつむいて逃げるのだから……。
「はぁー……とりあえず、今日は帰りますか。また明日説得しに来ましょう」
結局、マリコ先輩の説得に3日かかった。
「マリコ先輩、これ見てください! ほら、ここに書いてあるでしょ?」
マリコ先輩説得の決め手は、とある女性誌に載っていた言葉だった。
【ぽっちゃりが、今、モテる】
マリコ先輩は“ぽっちゃり”という言葉を非常に気に入り、
「私はデブじゃない、ぽっちゃりだ。私はデブじゃない、ぽっちゃりだ。私は……」
と何度も何度も呪文のように唱えていた。まぁ、何はともあれ、マリコ先輩はやる気と人前に出る自信を取り戻してくれた。これでようやく部活ができる。全国大会まで残り4日。よし、がんばるぞ! あと4日もあるんだ…………ん? 4日も? いや、4日しかない? ………………ピンチだぁあああああああああああ!!!! どうしようぅううううう!!!
私はついに発狂した。