第五話
「ピンポーン」
呼び鈴を鳴らして数秒、玄関の扉が開いた。
「あら、美咲ちゃん。それと、えーっと、マリコの後輩の、えーっと……」
「奈々子です。いつもマリコ先輩にはお世話になっています」
「そう! 奈々子ちゃんだ! 思い出した。いつもマリコがお世話になっています」
マリコ先輩のお母さんはそう言うと、少し申し訳なさそうな顔で話を続けた。
「ごめんなさいね、マリコは今、誰にも会いたくないんですって。もうずっと部屋にこもったきりで……」
「まだ体調が優れないんですか?」
美咲先輩が不安そうにたずねた。全国大会まであと1週間しかないのだ。もしもマリコ先輩の体調が戻らなければ、最悪出場することすらできないかもしれない。
「いや、体調はもういいんだけどね……」
マリコ先輩のお母さんは急に口ごもった。
「じゃあ、いったい何があったんですか? 全国大会まであと1週間しかないんです。私達にはマリコ先輩が必要なんです! お願いします、マリコ先輩に会わせてください!」
私は、一生懸命頭を下げてお願いした。
「実は……」
「実は?」
マリコ先輩のお母さんは私達の熱意に負けたらしく、ついに重い口を開いた。
「実は…………マリコ、太ったのよ」
「え? 太った?」
“太った”という想定外の理由に、私も美咲先輩も口をポカンと開けて唖然とした。
「ストレスで、食べ過ぎちゃったのね。だから、誰にも会いたくないんですって」
「はぁ……そうですか」
私はそれしか言えなかった。