知識の森のその奥に
最近、何も書いていなかったのでたまには、と思って短編を勢いで書いてみました。
大した内容ではないかもしれませんが、読者のみなさんの暇つぶしにでもなれば、と思っております♪
誰も寄り付かぬ森の奥、景色と同化するようにひっそりと佇む館があった。
空から見下ろしても、周囲の生い茂る木々でその全貌は見渡せないが、広い森の中で存在感を発する程度には大きい館である。
そこは遠く離れた人里からは、「タロスの森」と呼ばれる地だ。
嘘か真か、大昔に一人の魔法使いが魔法によって作り出した魔法の森だと言われている。
……ただ、それは大昔のことであるし、証明するのは今となっては難しい。
そもそも、ただ広いだけで特にこれといった珍しい物が手に入る訳でもない。
広さゆえに、名は知られていても行ったことのある人はそう多くない。
いや、森に入れる人間を国が選定しているからだろう。
その森には、手強い魔物も、希少な動植物も無い代わりに、「知識」があるのだから。
そして、その森の館では一人の男が今日も変わらずに存在し続けていた。
かつてこの森を作り、館を作った男――<知識の導師>がずっと変わらずに。
◆ ◆ ◆
「おや、今回のお客さんはずいぶんと……若いですね」
森の中の館。
その館は世間一般からは何も珍しい物の無い、広いだけと認識される森にある。
訪れる者は皆無な森なのだが、王国からの許可を貰った者だけが訪れることの出来る館があることが極一部では知られている。
館には大昔の大魔法使いが変わらずに済み続け、数年に一度ほど、訪れる客人にそれぞれの望む知識を授けることを趣味としているため、代々の王とも交友がある。
それゆえに、この館に訪れる者は王が自身の友である館の主に会わせるに足る人物だという証明になるのだが、今回の客人は、
「……はっきりと言ってくれて構いません。<知識の導師>様。
私は王から許可をもらい、ここまで来はしましたが、まだ子どもです。
見た目通りの対応で構いません」
男が見るに、今回の客人はおそらく齢十にも満たぬ子ども。
まぁ、もっとも、この館の主は、
「(自分よりも年上など、そうそう居ないのだろうが)」と考えているので年は問題ではない。
「<知識の導師>様。
私は自らの悩みを消すために王から許可をもらい、この館に来ました。
ご指導お願いいただけないでしょうか?」
少女の瞳に真剣さを感じ、来る者は罪人だろうと拒まない<知識の導師>はとりあえず館に招き入れることにした。
「(尤も、この館で知識をものにできるかは己次第ではあるが……)」
それでも男にとっては長い人生の極僅かな時間にしろ、「自分と違う人間を観察する」という自身の趣味のためにも今回の客人である少女が自分に何を教えてくれるのかも期待していた。
◆ ◆ ◆
「導師様、私は見ての通り女です。
それに小さからぬ領地を持つ貴族の娘として生を受けた者だ」
少女が語る言葉を肯きながら聴き続ける男。
彼女が言うには、自分は騎士のように気高く、誰かを守るために剣を手にする生き方を望んでいるが、それが女の身では叶わない。
そこで女性初の騎士になるための手段を問うために男の元を訪れたのだそうだ。
「私はまだ子どもですが、これでも剣の腕前は国内の有名な剣術家を一蹴出来るだけの実力はあるのです。
私自身も剣の道を好いております。
この生き方を貫く方法をお教えいただきたいのです」
男は少女を見て、少し考える。
「ふむ……」
確かに少女の言うように、以下に腕が立とうとも女の身で騎士として生きるのは難しいだろう。
彼女は家柄も腕前も申し分ない。
しかし、跡取りの兄や弟も居ないというのなら、彼女が家を継がねばならないだろうし、男の友人である王国の王個人が許可したとしても周りから認められるとしてもなれるものではない。
「貴族……なのは良いとして、女性の身で騎士……ですか」
導師は考える。
自分は魔法という学問に最ものめり込んだために自身のことは「ただの魔法使い」という認識だが、知識の収集を続ける傍らに剣術に関する知識も勿論持っている。
その中には彼女の悩みを解決する知識もあるのだが、
『ただ、答えを教えるだけではつまらないだろう』
導師が人間の寿命を超えてまで生きつづけているのは、ひとえに自分とは違う人間の知識や考え方を知るのが楽しいからだ。
楽しかったから、気がついたら魔法使いとして大成し、歴代の王とも身分や権力に関係のない友誼を結んできた。
まぁ、この館に訪れる者は「どんな問題にも答えを教えてくれる」と思ってきているのだから、こんな人を観察するのが好きなだけの男が館の主というのに驚くことになるのだが。
「ふむ、ではお嬢さん。あなたの問いは、女性の身で騎士として周りから認められるようになりたい。
そしてその答えが知りたい、でいいですか?」
「その通りです。私は自分が正しく評価された結果として騎士になることを望んでおります」
「そうですか……」
さて、どうしたものか。
男が見たところ、少女の性格は分かりやすすぎるほどに単純。
裏表など考えもしない直進型。
しかしその正直を貫き通すだけの力強さを確かに持っている。
……剣術も知識でしか知らないが、道は違えど、魔法使いとして大成した導師である。
強い者を見て、その者が強いかどうかを見抜くことに関しては導師は自信がある。
確かに彼女は強いし、貴族に向かない性格のようだ。
放っておいても、その内正当な手続きとして騎士になれるだろう。
今代の王は勿論だが、今の騎士団の人間の中にも男の<観察>を受けた――もとい相談に来て答えを見つけていった者はいる。
しかし、それらの正当な手順を踏むには時間がかかるものだし、いかに魔法が使える男と言えど、たとえば料理のように時間を必要とするものには必要なだけ時間を掛けるが、今回の少女は今すぐにでも答えが欲しいようだ。
男にとってはそこそこ長い時間――目の前の少女からは一瞬に過ぎない時間考えた結果「よし、こうしよう」という男の知識欲と観察欲を満たす方法を思いついた。
「それではお嬢さん。
この本を読んでみてはどうかな?」
近くにある本棚から一冊の本を抜きだし、彼女に渡す。
「これは……?」
「女性騎士を主人公にした物語です。
あなたの理想とする生き方が書かれているでしょうけど、お読みになったことは?」
「この本を知らない者が騎士を目指すはずがないだろう。
この本こそ、私が騎士道に目覚めた一冊だ!」
本のタイトルは『女騎士ノクターナル物語』と、シンプルかつ、内容が一目で内容が想像できるものだ。
この本は数年前に出版され、かなりの人気を得た一冊である。
「ええ、その本はまさしく貴女のような女性が我が身も厭わず、国に降りかかる火の粉を払い、主人公の女性が騎士になるのを邪魔する他の騎士団人たちからの無理難題を全てこなして名実ともに騎士となり、騎士として生きる小説です。
お嬢さんなら読んでいると思いましてね」
ここでお茶を口に含み、少しの間を作る。
男が語る言葉に肯き、
「この本こそは私のバイブルと言っても過言ではないだろう。
私はこの本の主人公のように生きたいのです」
「結構、では話しを進めましょうか」
少女の性格はやはり直情型。
そして導師の思った通りのために、これからの展開を想像すると思わず笑みがこみ上げてくるが、その結果に問題が無ければ過程は気にする必要もあるまい。
「では今度はこちらの本を読んだ事はありますか?」
導師が次に少女に手渡したのは別の本。
タイトルは『女騎士アルゴニーア物語』とある。
「……いえ、この本は読んだことがないです。
これも女性の騎士が主人公の物語なのでしょうか?」
「うむ、まぁ、読めばわかる。
とりあえず君の抱える問題はその本を読むことで解決するかもしれんしの」
「なるほど……、では早速読ませてもらいます!」
そうして本を読み始める少女。
導師はこの少女の行く末がどうなるのか……はまぁ、予想がつくので、その予想と違う展開になれば面白いなという感覚でいるのだが、少女が本からどのような知識を得るのかは少女次第なのである。
「(さぁて、どうなることやら)」
導師の予想は当たるのか外れるのか、それはお楽しみ。
◆ ◆ ◆
「導師ッ! 私は目覚めました!!
私の目指すものはこの本にありました!!!」
しばらく時間を置いて少女を残した部屋に戻った導師に、開口一番にそう言う少女。
「ふむ、どうやら気に入ってくれたようだね」
「ええ、この本のような騎士に私はなりたい!
私の生き方を極めるような一冊でした!
これからの私はアイドルとして生きていきます♪」
とても良い笑顔で語る少女。
導師の予想は当たっていたわけだが、それでもここまで効果的とは思わなかった。
『女騎士アルゴニーア物語』……内容を簡単に言うなら、騎士を目指していた女性が、ある日歌って踊れるアイドルも目指すようになり、ビキニアーマーを身につけて歌って踊れる騎士を目指すというものである。
導師の見立てでは、この少女はある意味単純。
騎士になりたいという彼女の夢は、分かりやすい生き方を望んだ結果として生まれた願望だと思った。
それはちょっとの刺激で方向性が変わっても気付かず、最終的に本人すら自分の夢が変わっていても気づけない性格とも言える。
こうして少女は、立派な歌って踊れるアイドル騎士としての道を歩みはじめ、『女騎士アルゴニーア物語』の著者である<知識の導師>様がウハウハな衣装を身につけた可愛らしい女騎士が誕生したのだった。
「やっぱり長生きはするもんだな♪」
<知識の導師>……それは果てしないエロスを求めた結果、寿命が延びまくった男である。
ちなみに本人が長生きなのは延命魔法だとか、不老不死の魔法ではなく、単純にエロパワーで老化を止めているだけだったりする。
歴代の王ともエロエロな話で盛り上がり、導師が書いた大人向けの小説などで盛り上がった友誼が導師の平穏につながっていたりもするのだ。
こうして少女は、無事に民衆から愛される女騎士としての路を歩み始めることができましたとさ。
……真面目な話だと思いましたか?
残念、私はギャグが好きです♪
最初こそは真面目に長編として主人公が知的に一話完結で知識によって人助けをしていく話を考えていましたが、その設定だと「自分らしさ」が無かったので自分らしさを少しだけ足そうとしたらこうなりましたw
私の「自分らしさ」は笑える話を書くことです!
連載作品として、三作品の執筆中小説が全部で20話くらい書き溜まっていますが、まだ完結させる自信が持てない作品なので、投稿するのは先になると思います。
もしかしたらまた短編を書くかもしれませんが、これからもゆるりと楽しめる小説を書いて行こうと思います^^
読んでいただき、ありがとうございました。




