第31話 バグ
掲示板を閉じたはずなのに、頭の中がまだうるさい。
軽口、煽り、草。嘘か本当か分からない情報が、好き勝手に流れていく。
その時、ふと疑問に思う。
「……なんでこいつら、こんな掲示板慣れてるんだ?」
思わず口に出た。
どうでもいい話だ。
しかし、考えてみたら確かにおかしい、なんだこの状況は。
それにぽんこが、いつもの顔で答える。
「他のダンジョンマスターさん達は、生前はこの世界の人間です。そしてこの世界には掲示板があります」
「は?」
短い声が出た。それは……前提がひっくり返るだろう。
ぽんこはあっさり続ける。
「魔導通信と呼ばれるエーテルネットがありまして、個人で所有はできませんが、教会の石板からアクセスできます。なので大抵の方は触れたことがあります」
「教会の石板で掲示板……?」
絵面がおかしい。神聖な場所で、草とか生やしてる連中がいるのか。
「教会って、もうちょい静かに祈るとこじゃないのか」
「静かに祈る方もいますし、静かに煽る方もいます」
「嫌すぎるな」
ぽんこは気にせず続ける。
「この世界では、情報が力です。魔導通信は公的な設備なので、誰でも触れる機会はあります」
なるほど。だから、あのノリが自然に生えてくる。
俺はさっきの総合スレを思い出す。おすすめモンスター、最初のDP、幹部モンスター。雑談みたいな振りして、全部が探り合いだ。
「ってことは……掲示板の文化も、元からあるんだな」
「はい」
俺は指で机を軽く叩いた。
「他のマスターはこの世界の住人……」
ぽんこが、そこで一拍置いた。瞳のリングがゆっくりと回る。
「そうです。普通は、この世界で亡くなった方が再構築され、ダンジョンマスターが生まれます」
ダンジョンマスターは死んだ知性体が再構築され、任命される。
確かに説明された。
あの時は自分のことにしか頭がいかなかった。
「死者の情報は全てリングの基幹層に保存されています。そこから亡くなった方の情報を使い、再構築されます。記憶や人格は全て再利用される形です」
俺は眉間を押さえた。
「……じゃあ、俺はなんだ?」
「マスターは多分バグです」
「バグって」
口調が軽いが、内容は軽くない。
ぽんこは悪びれずに頷く。
「マスターの記憶は全て見ましたが、この世界のものと噛み合っていません。地球も、社会も、仕事も、技術体系も。ぽんこにはマスターの記憶が本当にあったことなのかもわかりません」
「バグでダンジョンマスターか」
「褒めています」
「どう解釈したら褒めてるになるんだ」
「まあ、マスターが重度の妄想家という線も捨て切れませんが」
「捨てろ」
「これは褒めてません」
「知ってる」
俺は椅子に深く座り直す。
自分だけ、前提が違う。この世界の常識を知らないまま、ここに放り込まれている。
そう考えると、掲示板の見え方が変わる。
あいつらはこの世界に慣れてる。慣れてるから、嘘も混ぜるし、見破れる。
「とんでもないハンデだな」
ぽんこのお団子が回る。
「はい。ただそれは強みでもあります。マスターからは普通のダンジョンマスターには無い発想がポンポン出てきます!」
回りに回っていたお団子がピタリと止まる。
「……ぽんこはマスターが一番になると、信じています」
この世界も俺の世界も知っているぽんこがそういうのであれば、そうなのかもしれない。
「……で、ぽんこ。こっちにはあの言葉はあるのか?」
「はい?」
「『うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい』」
ぽんこはぱちっと瞬きしてから、笑った。
「はい。掲示板は、そういう場所です」
俺は軽く笑った。
「どこの世界も同じだな」
「はい、掲示板さんは世界をこえます」
息を吐いて、もう一度画面を開く。
第三大陸スレ。総合スレ。
「……まあ、見るだけならタダか」
言ってから、思い出す。
「ぽんこ、教会の石板って……この辺の街にもあるのか?」
「あります。一般の方も使います」
「うわ、現地で『草』って刻まれてそうだな」
「刻まれます」
「最悪だ」
少しだけ笑ってしまった。
「街か、見てみたいな」
「そうですね、街に行ったら案内してあげますよ」
そのためには、ダンジョンを安定させないといけない。
シャドウのマスターはすぐに来るだろうか。
考えることは山積みだった。
【重要】全面改稿版への移行について
本話で2章が終了し、次話より3章へ突入します。
このタイミングで、本作は全面改稿版へ移行します。
話数なども変わりますので、新しく別で投稿しなおすことにいたしました。
タイトルは変わりません。
新版URL
https://ncode.syosetu.com/n0613mm/
改稿によって描写や話数構成を見直していますが、第2章までに起きた出来事や、登場人物に関する事実関係は基本的に変わりません。
そのため、旧版をここまで読んでくださった方は、第1章から読み直さず、そのまま新版の3章から読んでいただいても問題ありません。
一部設定を変更しています。
変更点は以下の通りです。
・支配域化に必要なDP
旧版:1平方メートルにつき1DP(1m×1m×4mが最小単位)
新版:9平方メートルにつき1DP(3m×3m×4mが最小単位)
・ダンジョンの規模
上記の変更に合わせて、各時点でのダンジョンの広さや通路の長さが大幅に拡大しています。
描写の違いや、新版での構成を確認したい方は、第1章よりお読みください。
今後は新版を正式版として更新していきます。




