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第17話 二組目

【side:探索者】




ギルドの掲示板に紙が一枚増えたのは、昼前だった。


「お、これじゃないか。噂の北の森ダンジョン」


木札で仕切られた受付の前。張り紙を覗き込んでいた若い探索者の一人が声を上げる。


革鎧に安物の剣。

まだ駆け出しのようだ。


【依頼:北部森林地域新規ダンジョン簡易探索】

・内容:入口付近の再調査、内部構造の補足、モンスター構成の確認

・報酬:情報買取、回収品の買取

・危険度:Eランク・推奨人数:3〜5名


「……よし、行くか。昨日の連中の話が本当なら美味しい仕事だ」


そんな短いやり取りのあと、三人は受付で依頼書に名前を書き、ギルドを出ていった。


森を抜け、監視隊の杭を目印に斜面を登る。

そして、ぽっかりと開いた入口の前で足を止めた。


【side:ユート】




「ここが北の森ダンジョン。ランクE。よかったな、稼ぎ場だ」

「カーク達、生きて帰ってたもんな。スライムと、ゴブリン1匹だけ見たって」

「なら、飯代くらいにはなるか」


そんな会話が行われているところを、俺はコア部屋から眺めていた。

ぽんこが、視界の端に小さなウィンドウを出して書き込む。


【外部情報メモ:危険度Eで確定】


「はい。ギルドの判定、Eランク確定です」

「……本当に初心者向け扱いなんだな」

「はい。今のところ、お小遣い稼ぎにちょうどいい穴ですね」


一階層、通路およそ500メートル。

曲がり角と段差、分岐が多数。

スライム20体、ゴブリン10体。

罠は、落とし穴を数基。


危険度E。

たしかに、ラベル通りと言えばそうだ。


「で、今日も来たな」

「はい。生命反応、三つ。入り口にいます。見た感じ、昨日とは別パーティです」

「ギルド、仕事早いな」


俺は支配域マップを拡大する。

侵入者三つ分の光点が、そこに光っていた。


三人は慎重に通路を進んでくる。今のところ、俺にとってはお客様だ。

丁重に扱って、お帰り願いたい。


「スライム反応、接近中です」


ぽんこが横で報告する。


「昨日と同じ配置です。角を曲がった先、足元注意ゾーン」

「死んだら死んだで構わんが、まだ早いよな」


スライムは20体。

うち一体に「少し前に出て、あっさり倒されろ」と命令を送ってある。


「命令内容がひどいですね」

「こっちは命がかかってるからな」

「まぁモブスライムさんには感情はありませんので、いいとしましょう」


通路の角。ぬるりと、透明な塊が光の中に出てきた。


「お、出た。スライム」

「一体だけか。さっさとやるぞ」


剣が振り下ろされ、ゼリー状の体が真っ二つになる。魔石が転がり、粘液が岩にべったり張り付いた。


その後も、二体目、三体目。いずれも大きな苦戦もなく、魔石を回収している。


「スライム三体で、魔石が三つ。街の買取なら、銅貨何枚くらいですかね」

「お前の飯代くらいだ」

「最高じゃん」


そんな会話を聞きながら、俺の視界には別の数字が浮かんでいる。


【スライム死亡×3】

【スライム:実体×17、再生成中×3】


「スライムさん、いい仕事してますね」

「褒められても嬉しくないだろうけどな」


使えるスライムはあと17体。


「マスター。ゴブリンさん、入口側に一体出ました」

「ああ、見えてる」


通路の先、倒しやすいように単独でけしかける。


「一体だけか。やるぞ」


探索者たちが構える。

短い攻防。棍棒の一撃を一人が受け流し、一人が横合いから腹を斬る。


ゴブリンが倒れ、すぐに静かになった。


【ゴブリン死亡】

【再生成時間:3日】


「んー、3日。十体で持つかなぁ」


声に出すと、改めて心許ない数字だと実感する。


「はい。これ以上倒されるようなら調整が必要ですね」


今さら言っても遅い。ゴブリンは十体。

そのうち一体が、今倒された。


その後も奥まで進み、同じように単独で出したゴブリンをもう一体狩ったところで、探索者たちが立ち止まる。


「探索者さんたち、そろそろ引き返しそうです」

「何メートル進んだ?」

「距離、100メートルです」

「すでに五分の一か……」


ぽんこがモニターを拡大する。


「スライム三匹、ゴブリン二体、洞窟の長さは100メートル以上。浅い範囲で軽く稼げるEランクの新規ダンジョンという評価で帰ります」

「……それ自体は、悪くない」


今後の評判を考えれば、むしろ望ましい。問題は、戦力不足だ。


「一パーティーで簡単にスライム三匹とゴブリン二体お持ち帰りだ。様子見が終わったら、さらにゴブリン数体はやられるだろう」

「ゴブリンさんは再生成に3日かかりますしね」


二階層の増築で時給DPは6まで上がったが、それでも1日144DP。


「ゴブリンの生成枠、増やさないと無理だな」

「ゴブリンさんは100DPですから、毎日一枠増やせますよ」


再生成が回り始めればなんとかなるが、それでもギリギリだな。


「探索者を殺さない限り、しばらく余裕は出来なさそうだな」

「はい。逆に探索者さんを倒せばDPは一気に稼げますが、その場合――」

「危険ダンジョン扱いされる」

「そうです。殺しすぎるとランク再評価、中級以上の探索者さんや、場合によっては勇者さんまで来ます」

「それは全力でお断りしたい」


探索者を殺さないと危険。殺せば格上が来て殺される。


「10回に1人くらいならいけるか?」

「統計上、探索者さんの年間死亡率が20%、ダンジョンに限ると30%、探索者さんの平均年間ダンジョンアタック数が100日なので、一回につき0.357%」


ぽんこのお団子がフル回転する。

チーン!とでもいいそうな光を発して、元気よく言った。


「つまり1回300人殺していい計算です!」

「絶対違うだろポンコツ。えーっと、1/300だとして、3人パーティで100回に1人か、予想以上に厳しいな」

「はい。現在の再生成使い捨て運用は、経営的によろしくないです」


「しかしこれ、普通どうやって稼ぐもんなんだ。無理ゲーじゃねぇか」

「普通は初期DP20万を運用資金として取り崩しながら黒字を目指すんですよ」


20万DP(ぽんこ分)か」

「はい!20万DP(ぽんこ分)です!」


ぽんこは屈託のない笑顔で続ける。


「マスター、ぽんこを選んでくれてありがとうございます」


選んでない、と言いたいところだが、不思議と後悔はないのでいいとしよう。

そうこうしている間に探索者三人は、慎重に引き返しながら通路構造を覚え、無事に穴から出ていった。


三人の後ろ姿が森の方へ離れていくのを確認してから、俺はゴブリンの現在数を確認する。


「さて。ゴブリンは八体になったわけだが」

「はい。ちょっと待ってください。数えます」


支配域マップの、ゴブリン表示を一つずつ数える。ぽんこが指で空中をなぞりながらカウントしていく。


「いち、に、さん……」


途中で、指の動きが止まった。


「……はち……きゅう」

「ぽんこ、さすがに数くらい数えられてくれ」

「はい。いえ、ですが……実際九体います」

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