表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

ボディガード

家に帰っても、なかなか緊張が抜けなかった。


一ヶ月の“お願いを聞く”という条件付きとはいえ、

あの学校のマドンナ――高梨聖の連絡先が、俺のスマホに入っている。


それだけで、現実感が薄れる。


画面を開いては閉じ、また開いてを繰り返し、気づけば口角が勝手に上がっていた。


……やばい。完全に浮かれてる。


すると、そのタイミングを見計らったかのように、通知音が鳴る。


『学校では、普通に接してね。

 放課後、また旧校舎の裏に来て』


短い文章なのに、胸が跳ねる。


立場的には、完全に俺の方が弱い。

秘密を握られているのだから。


それでも――

女子と一切縁のなかった俺にとって、この距離感は刺激が強すぎた。


その日は、なかなか寝つけなかった。



翌朝。


学校に着くと、やけに周囲が騒がしかった。


昇降口付近では、女子たちがスマホを見ながら小声で盛り上がっている。


「ねえ、聞いた?」

「磯貝先輩、昨日振られたらしいよ」


「え!? あの磯貝先輩が?」

「誰に?」

「小林渚。学校二位の」


一気にざわつく。


磯貝先輩――野球部キャプテン。

顔よし、性格よし、運動神経抜群。

学校一の人気男子と言っても過言じゃない存在だ。


……そういえば。


昨日、旧校舎の裏で見かけた告白。

あれ、よく見てなかったけど、磯貝先輩だったのか。


相手の小林渚は、美少女ギャルとして有名で、男子人気も高い。

校内ではよく、


「清楚でスタイル抜群の高梨派」

「元気で距離近めな小林派」


で分かれていると聞く。


そんな彼女に振られるとは……。


そのとき、当の本人――磯貝先輩が廊下を通り過ぎた。


無表情。

……いや、よく見ると拳が強く握られている。


「ちっ……」


小さく舌打ちする音が聞こえた。


プライドを、思いきり傷つけられたのだろう。


正直、俺には関係ない話のはずだ。

……はずなのに、なぜか胸騒ぎがした。


俺は気持ちを切り替え、教室へ向かう。


だが――

その日は、授業がまったく頭に入らなかった。


放課後。

高梨聖。

旧校舎。


その三つの単語が、頭の中をぐるぐる回っていた。



放課後。


俺は少し早足で、旧校舎の裏へ向かう。


誰もいない。

風で枯れ葉が転がる音だけが響いていた。


しばらくすると、後ろから軽い足音が聞こえる。


「おっ、もう来てるね!」


振り向くと、高梨さんが手を振っていた。

今日も、無駄に眩しい。


「早速なんだけどさ」


彼女は少しだけ声を落とす。


「今後一ヶ月のお願いなんだけど……

 私の“秘密のボディガード”になってほしいんだよね」


「……ボディガード?」


思わず聞き返す。


「うん。私、一応こういう仕事してるでしょ?

 最近、この辺ちょっと治安悪いし」


確かに、妹が絡まれた件もある。

納得はできる。


……ただ一つ気になるのは。


「俺、飛べるだけだけど?」


「あはは、それで十分じゃん」


軽い。


「何かあったら、一緒に逃げればいいし。

 最悪、空飛べるでしょ?」


この人、本当に俺をヒーローか何かだと思ってないか?


とはいえ――

断る理由は、最初からなかった。


「……わかったよ」


「でしょ?」


彼女は、勝ち誇ったように笑う。


「秘密ばらされたくないもんね」


その言葉に、背中がひやりとする。


こうして、“秘密の契約”は成立した。



下校は、並んで歩いた。


距離が、近い。


「ね、好きな食べ物は?」


「え? ハンバーグ……かな」


「王道だね。嫌いじゃない」


「じゃあ、趣味は?」


「星を見るのが好きで……近くの丘に行く」


「え、なにそれ。ロマンチックじゃん!」


彼女は目を輝かせた。


「今度、一緒に行こ?」


……今度?


それ、普通にデートじゃないか。


「き、機会があれば……」


「約束ね」


無邪気に言われ、返事を断れなかった。


そのまま彼女の家まで送り届ける。

立派な一軒家だった。


「じゃあ、明日もよろしくね。

 何かあったら連絡するから!」


手を振る彼女を見送り、俺は一人で帰路につく。


……やばい。

この一ヶ月、絶対に平穏じゃ終わらない。


そのとき。


「ふーん」


背後から、誰かの声がした気がした。


振り返る。


――誰もいない。


ただ、暗闇の奥で、

何かが“こちらを見ていた”ような気がして。


俺は、無意識に拳を握りしめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ