プロローグ
12月25日。
世間はクリスマスだなんだと大騒ぎしている。イブには奇跡的に初雪が降り、積もった雪のせいで「ホワイトクリスマス」なんて言われていた。
俺――中村陽介には、まったく関係のない日だ。
恋人どころか友達もいない。親は転勤族で共働き、妹はバリバリの陽キャで、今日は友達とパーティーらしい。
今年のクリスマスは土曜日だというのに、両親とも仕事が入っていて今日は一人。
明日も休みで、予定は何もない。
なら、やることは一つだけ。
俺の趣味は星の観察だ。
近くの丘に登り、満天の星空を眺めるのが好きだった。
特に田舎の夜空は、手を伸ばせば届きそうなほど星が近い。
厚手のジャンパーを羽織り、雪でも歩けるように長靴を履いて家を出る。
少し歩いた先の小さな丘。
ここが良い。
レジャーシートを一応持ってきていたが関係ない。
積もった雪の中に、背中からダイブした。
雪に埋もれながら空を見上げる。
――綺麗だ。
満点の星空。
そのとき、ザッ、ザッ、と雪を踏む足音が聞こえた。
この丘に人が来ることは、ほとんどない。
振り向くと、サンタの格好をしたおじさんが歩いてきた。
ふぅ、と白い息を吐いたかと思うと、そのまま雪の上に寝転ぶ。
クリスマスの仕事なのか、ただはしゃいでいるだけなのか。
よくわからないが、このおじさんも星を見るのが好きなのかもしれない。
二十分ほど、俺はただ星を眺めていた。
そろそろ寒さが限界で、帰ろうと立ち上がる。
ふとおじさんを見ると、いびきをかいて寝ている。
さすがにこの寒さは危険だ。
恐る恐る近づき、肩を揺する。
「あの……起きてください。危ないですよ」
するとおじさんは、むくっと起き上がり、しばらく俺のほうをじっと見つめた。
そして、一言。
「ん〜……もう他のとこ行くのも面倒だし、君に決めたわ」
「え?」
戸惑いから、間抜けな声が漏れる。
「手、出して」
意味がわからない。
ためらっていると、突然おじさんが俺の腕を掴んだ。
驚く間もなく握手をされ、ポケットから出した紙を手にねじ込まれる。
「一年後、いらないなって思ったら、またここに来な。
紙にプレゼントの詳細、書いてあるから」
そう言い残し、おじさんは足早に去っていった。
あまりにも突然で、俺はその場に立ち尽くす。
やがて耐えきれない寒さに、家へ帰った。
家に着いて、すぐに紙を広げる。
そこにはこう書かれていた。
――超人的な身体能力
――浮遊能力
――飛行能力
――自然治癒能力
――すべての病気や怪我を治せる能力
――瞬間移動
意味がわからない。
変なおじさんに会ったな、と思いながらも、紙に書かれている内容が頭から離れない。
もしかして――俺に特殊な能力をプレゼントしてくれたのか?
サンタさんが。
そんなことを考え、ふと「浮けるのか?」と軽くジャンプする。
――身体が、軽い。
浮いた。
浮いてしまった。
俺はクリスマスに、サンタからスーパーパワーをもらった。




