No.9 明日から
「これで所属前の説明は終わり。何か質問はある?」
そう言われた彼方は、少し悩んで、結局質問はしなかった。
知りたいことはもちろんあるが、そのすべてが所属してから知るべきことだと判断した。
首を横に振った彼方を見て、風花は再度契約書を差し出した。
「大丈夫なら、サインをお願い。一応だけど、ちゃんと読んでね。」
彼方は契約書を受け取り、文章を一通り確認した。
やはりそういう職種なだけあって、危険が伴うことや、情報管理について、さらには死んだときの責任の所在についても書かれていた。
それを読んだうえで、彼方は迷わずにその契約書にサインをした。
未成年であるため、それが契約として成立しているかは正直不明瞭であるが、なんにせよ彼方の場合、現在は親との関わりがないため、あまり気にすることではなかった。
「できました。」
「はい。ありがとう。」
そう言って風花は彼方がサインした契約書を受け取った。サインが彼方の名前であることを確認すると、それを丁寧にファイルに閉じた。
「じゃあ、早速で悪いんだけどさ。明日の十三時、また来てもらえる?」
「明日ですか?」
「そう。明日、初層部の顔合わせがあるんだよ。急でごめんね。」
風花は言いつつ、だんまりを決め込んでいる海斗の方一瞬だけ鋭く見た。そしてまた彼方に向き直る。
「どこかの誰かさんのせいで伝えるの前日になっちゃったからさぁ。」
「悪かったって。」
「苦情ならそっちに言ってね。」
「聞けよ!」
そう耳元で喚く海斗を風花は徹底的に無視をしていた。
彼方はそれを見て少しだけ苦笑する。
海斗はそれを見て、何やらほっとしたような表情をした。
「まぁ、気楽に来てくれればいいよ。」
「わかりました。」
「それじゃ、また明日ね。今日はありがとう。」
「こちらこそありがとうございました。」
風花はわざわざエントランスまで出て来て、彼方を見送ってくれた。
海斗はというと、彼方たちが先ほどまでいた部屋に残っていた。
どうやら、海斗が処理するべき仕事が入ってきたらしい。
彼方と一緒に帰ろうとして、風花に止められていた。
幸い何かを覚えることが得意だったため、道に迷うことはなく、彼方は明日のことを考えながら家に帰っていた。
もちろん楽しみではあるのだが、一つだけ、不安なことがあった。
同期になる人、初層部の人たちと仲良くできるのかということだ。
職種もあるが、海斗と風花の様子を見ていてわかる。
今後は信頼が必要不可欠なものとなってくるのは明白だ。
彼方は人と仲良くする経験に乏しい。
彼方には、仲間になる人を信頼しきることができるほどに仲良くなれる自信がなかった。
その日、彼方はかなり疲れていたらしい。
家に帰り、軽く夜ご飯を食べた後、海斗の帰りを待たずに寝てしまった。




