No.6 鳥月風花
「驚いた?」
「はい。想像していた人とはだいぶ違ったので。すみません。」
海斗さんみたいにもっと体格がよくて威圧感のある人だと思ってました。
その言葉を飲み込んで、彼方は握手のために差し伸べられた手を取った。
「よろしくお願いします。」
「うん。彼方くんって呼んでもいいかな?」
「お好きにどうぞ。」
「ありがとう。早速で悪いんだけど、ちょっと書類にサインしてもらえる?」
そう言って風花は一度デスクに戻り、引き出しから一枚の紙を取り出した。
彼方をデスクの方に呼び、その紙を渡す。それはTalentに加入するための契約書だった。
「仕事に関しては知ってると思うけど、一応ちゃんと読んでからサインしてね。」
「はい。あの・・・。」
「どうしたの?」
「面接とかはしないんですか?」
通常こういう採用か否かを決めるためには面接などを通して行われることを彼方は知っている。
それがあると思って、服のことを海斗に聞いたのだ。
しかし、風花は面接もせず、少ししか話をしていない段階で契約書を彼方に渡してきたのだ。
風花はその言葉に少し驚いたように見えた。
そして、海斗の方をちらりと見る。海斗が顔をそむけたのを見て、風花は深いため息を吐いた。
「海斗さぁ。なんも説明してないわけ?」
「そうだけど。」
憮然としたその態度に風花はあからさまに眉間に皺を寄せた。
そして続けて聞いた。
「じゃあ、彼方くんに話を持ち掛けたのは?」
「昨日。」
そう声の調子を変えずに言った海斗の言葉に風花は絶句するような衝撃を受けた。
「しかも、真夜中です。」
そう続いた彼方の言葉に、風花は衝撃のあまり、海斗の胸ぐらを掴みにかかり、そして叫ぶように海斗を問い詰めた。
「昨日!?真夜中!?何考えてんだよ!?」
「ちょ、ちょっと…。苦しい。」
「で、そんで?今日連れてきて?何も説明してない?馬鹿じゃねーの!?明らか詐欺師のそれじゃねーか!?」
そう叫ばれながら頭を揺さぶられ、三半規管がやられたらしい。
海斗は解放された後、近くの机に手を置いて青くなった顔を下に向けていた。
海斗のことだ。どうせすぐに持ち直すだろう。彼方はそう思っていた。
そして同時に、大人にしては随分と可愛らしい顔をしておいて、風花より確実にひとまわりは大きく、筋骨隆々な海斗の胸ぐらを躊躇なく掴み、それを簡単に揺さぶった風花に対して、若干の恐怖を覚えていた。
「ごめんね。そりゃそんな反応するよ。」
「こちらこそ。驚かせてしまったようで。」
「いいのいいの。このアホがいけないんだから。」
そう言いながら風花は話し合い用と思われる柔らかそうな椅子に腰を下ろした。
手招きされて彼方は机を挟んで風花の真正面の椅子に座った。




