No.2 勧誘
「・・・はい。これでいいか?」
「はい。ちゃんと服は着てから出てきてください。」
「そう言われても、癖だからなぁ。」
そう言って海斗はソファーにドカッと腰を下ろした。
三十分前に仕事から帰ってきたばかりで、相当疲れているのだろう。
特に最近は職場のことで何やら悩んでいることがあるようだった。
「何かご飯食べますか?」
「いや、仕事の途中で食ってきたからいい。お前はもう食ったんだろ?」
「はい。コロッケありがとうございます。おいしかったです。」
「そりゃどうも。」
そう言って何やら黙り込んでしまった。
いつになく海斗は思い悩んでいるようで、彼方は声をかけていいものかわからずにいた。
海斗から彼方に声がかけられたのはそのすぐ後のことだった。
「彼方さ。明日終業式だったよな。」
「はい。夏休みにはいります。」
「・・・。俺の仕事は知ってるよな?」
「Talentですよね?はい。知ってます。」
そう言えばまた海斗は黙ってしまった。
彼方の言った『Talent』というのは、現在海斗が勤めている会社の名前である。
どんな会社かと聞かれると、それはかなり公言しにくい。
その『Talent』という会社は殺人依頼や犯罪組織の制圧などを主に請け負う、何でも屋なのであった。
彼方は何回も海斗の職場での話を聞いている。
海斗が返り血まみれで深夜に直帰してきたこともあった。
だからこそ、海斗の仕事について彼方が知らないはずもなかった。
海斗が深く息を吐く音が耳に入る。
そして何やら腹を据えたような顔で彼方に言った。
「俺の仕事に興味はないか?」
そう言われた彼方は一瞬固まった。
どのように答えるべきかわからなかったわけじゃない。
想像もしていなかった意味の言葉は海斗の口から発せられたからだった。
先ほどの言葉の、海斗の意図することは言われずともわかる。
「勧誘ですか。」
そう彼方が問いかけると海斗は明らかに眉をゆがませた。
そして、黙って彼方の目を見ていた。
海斗は先ほどの問いに対する、彼方の回答を待っていた。
彼方は、なんとなく彼がどのような答えを望んでいるのかわかっていた。
それでも、彼方は素直な感情を答えた。
「とても興味があります。」
そう言ったとき、海斗は諦めたように笑った。
きっとこの回答は、彼にとってわかっていたことなのだろう。
期待していたものとは違ったようだが。
海斗に手招きされて、彼方は海斗の隣に腰かけた。
「少し頼まれて欲しいことがあるんだけどさ。」
「はい。」
「Talentで働いてくれないか。」
「わかりました。」
そう彼方が返すと、海斗はもう吹っ切れたようにソファーから立ち上がった。
どうやら自分の家に帰るようだ。
隣なのでとても近い場所ではあるが、一応彼方は玄関までお見送りをした。
「詳細は明日話す。」
「はい。」
「明日の午後、職場に連れて行くから。」
「何か準備は要りますか?」
「いらない。夏休みの予定、全部開けといて。」
「もう空いてます。」
「うん。じゃあおやすみ。」
「おやすみなさい。」
そう言って海斗は玄関のドアを閉めた。
彼方は海斗が帰った後、真っすぐ自室のベッドに向かった。




