No.10 初日
「彼方。そろそろ行くぞ。」
「今行きます。」
そう返事をして、彼方はバックを掴んだ。
バックには、スマホ、筆記用具、財布、家の鍵、そして昨日貰ったメモが入っている。
昨日同様、海斗から財布は要らないと言われたが、今日は持っていくことにした。
「俺が全部払うから要らねーだろ。」
と、海斗は何やら不貞腐れていた。
また適当なところで昼ご飯を食べて、Talentの事務所についたのは十二時だった。
「あ、海斗さん。彼方さん。こんにちは。」
「こんにちは。」
「これ社員証。」
「はい。それでは、名前と年齢をお願いします。」
昨日と同じように言葉の承認を受けて事務所の中に入る。
海斗に連れられて今回は階段で上に上がる。
着いたのは、二階の「203」という標識がある部屋だった。
「ここが初層部の部屋な。」
昨日同様、マンションの一室のような外装。
海斗に言われてドアノブに手をかける。
引いて中を見ると、昨日の内装とは違い、すぐに部屋はなく、その間は引き戸で仕切られていた。
そして、二つの靴が玄関にあたるであろうところに揃えられていた。
「一番最初だと思ってたんだけどな。まぁいいか。」
そう言って海斗は靴を脱いだので、続けて彼方も靴を脱ぐ。
それを確認して、海斗が引き戸を開けた。
中には二人、どこか似たような顔付きをした人がいた。
一人はスラリとした細身で、たぶん彼方と同じくらいの身長だろうか。
深紫色のボブで同じ色の瞳をしている。
もう一人は、同じく深紫の髪と瞳をしており、右目を髪の毛で隠していた。
「なんだ、凛。もう来てたのか?」
海斗が声を掛けたのは細身な方の人だった。
その人は声を掛けられるなり、こちらへ近寄った。
「海斗も早いじゃん?こっちは家が近いからさぁ。」
「そうだったな。」
忘れてたと言わんばかりの顔をした海斗は、次に近くに来ていたもう一人に声を掛けた。
「久しぶりだな。」
「おん!久しぶり!」
もう一人の彼は、そう答えて、彼方の方を見る。
そして満面の笑みを浮かべて彼方の手を取った。
「よろしく!俺、真っていうんだ。」
「彼方。よろしく。」
そう言って彼方は真の手を握り返した。
どうやらこちらが彼方の同期になる人なのだろう。
どこかで見たことがあったような気がする。
果たしてどこだっただろう。
どことなく、彼とは仲良くできそうな気がした。
とりあえずはやっていけそうだ。
そう安堵していると、何を思ったか真は突然彼方に抱き着いてきた。
瞬間。真の頭に拳が落とされる。
それは、先ほど海斗から凛と呼ばれた人のものだった。




