24主役の不在
季節夏。7月の終わりが見えてきた。
期末試験が近づいてきた。
最近は私の方がドタバタとしていてなかなかユウちゃんやハル達には会っていない。
だけど連絡はちょくちょくしているのだ。
テレビ通話もするし、エマちゃんと洋服の相談なんかもする。
ナナちゃんとはあんまりしないがたまに。
:遊びにこいよ。
の一言。
返信しても一言で終わる。
ハルとケンちゃんとはまだ連絡先の交換はしていない。まぁ。男の子だし仕方がないか。
彼らは彼等で趣味が違うのだろう。
もう一つ報告だ。佳苗ちゃんにエマちゃんの十字架の話をした。
ただ、そっか!の一言である。そのあとはあまり会話はしていない。確かエマちゃんと仲良くしたいとか言ってたはずだったのに、あれから全く氷見の話題は無くなってしまったのだ。
んーん。もどかしい。
今度誘ってみようかな。
私は今日は給食当番なので、割烹着に着替えてる途中。
【ねむー!今日一緒なんだっ!】
話しかけてきたのはろう者の萌音ちゃんだ。
きらりと補聴器のアクセサリーが輝く。
【うん。あまり担当回ってこないから毎回当番は緊張するよ。】
【ねむは括りが私達と違うからねっ!ってまだ慣れてないの?】
【うん。病弱だったからね。カレーとか重いし。】
【だったって?】
【最近痰が出てこないの。】
【え?本当!?】
萌音ちゃんはパッと明るくなった。
すると私達の手話を見ていた愛弓ちゃんが話に混ざってきた。
【痰が出ないって本当?】
【うんー。絶対重要な所でこいつは裏切ると思うんだけどねぇ。ここ一月くらい出ないの。】
愛弓ちゃんは少し首を傾けたあと
【それ。ここに居る意味無くなってきてない?】
そこに萌音ちゃんが止めに入る。
【愛弓っ!何でそんな事言うの?ひどいよ。】
【いや違くて!私だって変な意味で言ってないっ!ねむと最近仲良くなってきたんだもんっ!ひどい事なんか含んでないよっ!】
おいちょっと待て。
【だって愛弓今ここに居る意味無いって!言ったじゃん!それってどんな思いでねむがここに居るのか知ってて言ってるの!?】
待て待て。
【知らないよ!私ねむちゃんじゃ無いんだもん!でもろう者でも無いし!ましてや、ここに居る唯一の理由(障害)がなくなったら、ここに居る意味……なくなっちゃうんじゃない!?って素直に思ったんだよ!】
【だからってねむの思いを知らないで、なんかねむをここから追い出すような発言はしちゃダメだよっ!愛弓おかしいよっ!】
【だからそんなふうに言ってないっ!】
「【こらぁ!!何で喧嘩してんのっ!2人ともっ!珍しすぎて目が飛び出るっつうの!!】」
割って入ってきたのは水橋先生だ。
「【どうしたの。2人ともいつも仲良しなのに。まだ私心臓バクバクしてるんだけど。話して?愛弓ちゃん。萌音ちゃん。ねむちゃんも関係あるの?】」
愛弓ちゃんと萌音ちゃんはピクリとも動かない。
っえ!!!
これ私が説明すんの!?
たた、確かに私が原因ではあるんだけど。
きまずいな……
◇
私は事の経緯を水橋先生に伝える。
「そっか……」
伝えたはいいものの、先生の表情は暗い。
いやいや。もっとなんか私にだけは優しくしろ。間に挟まれているんだから。
「【愛弓ちゃん萌音ちゃん。これは少しだけのすれ違い。優しいね2人とも。凄く良い喧嘩?だと思う。でもちょっとだけ飛躍しちゃったかな?】」
先生は優しく微笑み、2人に近づき手話で伝える。
「【いい?愛弓ちゃんはねむちゃんに出ていけ。この学校に居るなっていってないよ?でも最初の言い方が不味かったのはわかる。】」
水橋先生は続ける。
「【萌音ちゃんも少しだけ、興奮しすぎちゃったかな。ねむちゃんを思ってくれてるのは凄くわかるんだけど、落ち着くと愛弓ちゃんの本心はそこじゃ無いってわからない?伝え方が足りなかったけど、むしろ良い意味かもしれないよ?】」
次は愛弓の目を見て、手話をする。
「【愛弓ちゃんはもう少しだけオブラートに包むべきだったかも。ここに居る意味無いって。思っても、何でここにねむちゃんが居るかって背景を想像すると一言じゃ全然表しきられないくらいの理由があるんだよ?それはこの学校に通ってる子達みんなそうなの。】」
愛弓ちゃんは先生の目を見て、ようやく手を動かした。
【私はねむちゃんにいなくなってほしいなんて思わないっ!ずっとここにいてほしいもんっ!せっかく最近話すようになったんだから高等部に行ってもねむちゃんとは縁切りたく無いっ!】
愛弓ちゃんは、とうとう溜めていた涙を溢れさせてしまった。
すると萌音ちゃんが。
【愛弓ごめん。私が少し興奮して愛弓の言葉の意味を理解してなかった。私もねむと仲良くしたい。それは一緒。興奮してごめん。】
そう愛弓ちゃんに伝えると、2人はぎゅっと抱き合った。
その肩を包み込むように、水橋先生もそっと2人を抱え込む。
あれ?何これ。主人公私でしょ?
3人の輪とのあいだに、ぽっかりと2メートルの距離が空いている。
なぜか舞台みたいに暗転した中で、スポットライトは3人だけをまぶしく照らしていて、そのこぼれた光だけが、少し離れた私を虚しく照らしている。
私ワイっ!!!
◇
水橋れあ視点
今は3人仲良く給食を食べている。
とりあえずよかった。
でもさっきの喧嘩はねむちゃんの核心的な部分を突いている。
もしかしたら、もうそろそろねむちゃんはここを卒業しても良いのでは無いかと、私も思ってるのだ。
一月前からそんな予感はしていた。
とっても元気でアクティブになってきたねむちゃん。そして背筋も伸びて、表情も豊かになり、側から見て本当に普通の女の子になったのだ。
悪い事なのかもと思いながらコソコソ実行する姿は以前のねむちゃんには一切見られない可愛い光景だった。
事は冰の杜学園の交流授業から。
もう以前のねむちゃんのかけらはほとんどない。
ましてや最近は痰からの解放もあり、もしかしたらスポーツもできてしまうかもしれないのだ。
ねむちゃんは言ってた。釣りもしたい。海に入りたい。登山もハイキングもしたいとか。
もちろんこれはろう者クラスにいけば結構叶う部分がある。ただ。ろう者とは違うのだ。
彼女はとても素晴らしい感性と聴覚があるのだ。音楽が好きで、アニメの声優なんかも好きだ。声がない分、音の意味も声の感情も彼女には繊細に聴こえているはずだ。
そう考えると行くべきところはろう者のクラスではなく"普通の学校"だ。
そして今全てが整ってる場所もある。
冰の杜学園。
あそこはほぼ全員の子達が手話が使える。
先生も、親達もだ。話を聞くと村の一部も子ども達の遊びに混じって手話をするコミュニティができつつあると聞く。
こんな完璧にねむちゃんを抱え込んでくれる環境は今後出てくるのか。
いや、絶対にない。
「はぁ。香椎さんと話すかぁ。」
ピクっとねむちゃんが私を見る。
【香椎って言った?】
ほらね。耳が良い。
◇
期末試験。前日。
勉強机で私はせっせと勉強始めようとしていた。
正直言おうっ!!
私は頭が悪いっ!
ずらっと教科書を並べる。
ふっふ。
じゃじゃーんっ!
中学二年生なのにどれも小学6年生の教科書なのだよっ!!
ぬはははは!!
普通の子のハルとケンちゃんより2年も遅い。
ひえー!!
って事はナナちゃんやレオ君と同じ所やってるて事!?そしてユウちゃん、エマちゃんより一年遅い。
いやね?良いんだよ?自分のペースに合わせてできるのは。
でもこれって私が普通の学校に行ったら詰みじゃんっ!!
行けるわけねぇって!!
てな訳で。このままゆっくりこの学校でのんびりやりますかっとっ!!
でも国語はいつも100点なのだっ!
これもラノベのおかげかな。
算数はー。んー。無理。
理科?無理。社会?無理。
今回のテストも国語だけ無双して他は適当にやるか。
ほうほう。
走れメロスか。授業中は寝てるからまだページが綺麗である。
こんなの私は太宰治のを読んでるから余裕なのだよ。
どれどれ?ふむふむ。
短かっ。
こんなマイルドだっけ?
もっとドロドロした話だと。。
これって。。全然違う話やんっ!
邪智暴虐の王を殺してやるって決意表明のシーンどこよっ!
酒場で暴れてるシーンほぼないやんっ!
教科書版…端折りすぎやしねえか?
ただの感動物語ですがな。
もっとこう!メロスのゾクゾクした心境とか複雑な感情ないん?
あの絶望と希望のギリギリのせめぎ合いが沸るのにっ!!
良いや!問題見てみるかっ!
どれどれ?
1. メロスが町に入ったとき、最初にどんな気持ちになりましたか。( )にあてはまる言葉を教科書から書き抜きなさい。
ほうほう。これはね。
A.殺意。邪知暴虐の王を今すぐ刺し殺してやりたい
よしっ!答えはなんぞな?
A.怒り
何でやねんっ!!それだけ!?
くそ。やばいぞ?
勝手に私の頭の中の走れメロスが暴走している。
2問目っ!
2. メロスが山賊に襲われたとき、どんな気持ちで走り続けましたか。理由も一緒に書きなさい。
良いね。これはメロスの根幹の部分だね。
A.もう人間なんて信じられねえ……でもセリヌンティウス、お前だけは裏切るんじゃねえぞ……
答えは!?
A.友だちを信じてくれるだろうか不安だったけど、友だちのためなら命を投げ出してもいいと思った
とんだハッピー野郎だなっ!メロスっ!!
お花畑かよっ!!
待てよっ!このままじゃ今回国語もやばいっ!
そうじゃなくても1学期は遊び呆けてたから全然勉強してないっ!
中学二年なのに、小学6年生の問題が赤点とか取ったらみんなに笑われるっ!
とんでもないピンチだっ!!




