18通知と筋肉
放課後の下校途中。
校舎を出た瞬間、肌にまとわりつくような熱気が私を包み込んだ。
あー。暑い。熱いぞ日本。
まだ6月だというのに、まるで真夏になりそこねた空気が地面からじわりと湧いてくる。
今は6月末。暑いのはわかっているけれど、
“わかってるのと体感するのは別問題だ”と叫びたくなる暑さだった。
私はスクールバスを待っている。
……が、バスがなかなか来ない。
早くしてくれぇぇ。
家の涼しい部屋でユウちゃん達とやり取りしたいのにっ!!
ピコーン。
——WhatsAppの通知音。
たった一音で、私のテンションは爆上がりだ。
だってこのアプリは、冰の子との連絡専用なのだから。
つまり、この通知は確定で誰かからだ。
胸を弾ませつつ画面を見る。
葵
:おい。ねむ。小太郎のご飯今日はお前に頼みたいんだけどいい?8時に間に合いそうもねえや。
テメェかよっ!!!
そうだ。
お兄ちゃんもWhatsAppダウンロードしてたんだった。
LINEで送れよ。
通知音でぬか喜びさせんじゃねぇ!!
ねむ
:はーい。尿マルチケア20グラムとK9トライプ2グラムを200mlの40°くらいの白湯を混ぜたやつでいいかい?
葵
:完璧。たのむわ。
ねむ
:了解スタンプ
やり取りを終えたタイミングで、やっとバスが到着した。
殺す気かぁぁ!!ぁぁ。
と叫びたい気持ちもあったがバスに入ると冷んやりした空気が私を包み込む。
あひぇぇ……気もちぃぃぜぇ。
さっきまでの怒りが一瞬で蒸発していく。
幸せとは温度差がもたらす快感なのかもしれない。
こんなんで幸せを感じてしまう私は単純なのか…さっきまで暑さとバスの遅さに激怒だったのに。
私。ちょろいのか?
まあいいやっ!
バスの冷気に包まれている間に、ユウちゃんに予定でも聞いてみよう。
グループチャットならエマちゃんも見れるし、
ここに送っちゃえ。
ねむ
:エマちゃんに会いたいな!!今週か来週のどこかで遊びたい。
送信っ!
ん!?こんな直球な文を送ってしまった!
ユウちゃんとナナちゃんの影響かも!
でも、なんかこの感じ悪くない。
かしこまるより楽だし、指が軽い。
こういう素直さって、案外いいかも。
するとすぐにチェックマークがつく。
お?誰か読んだっ!
エマ
:私もねむちゃんに会いたい。
……うわ……
短いのに破壊力がすごい。
そっか。
ユウちゃんはいつも素直に言うんだ。
だからあんなに明るくて、天然で、
みんなを幸せにしてくれるんだ。
私も見習わなきゃ!
ねむ
:わーい!!私。日曜日から土曜日まで全部空いてますっ!月曜日から金曜日は放課後ですっ!
エマ
:私も日曜の午前以外なら大丈夫です。
ユウ
:じゃぁ私が決めてあげる。今日金曜日だし。明日ね。明日のお昼から遊ぼう。ねむちゃんところ行く?それともこっちくる?
……いきなり割り込むユウちゃん。
頼りになりすぎて惚れる。
絶対私とエマちゃんでは決まらない流れを、一撃で整理してくる。
だけど、高岡か氷見かの二択になるのだろうが、多分の二択も私とエマちゃんじゃ決められない気がする……どおしよ…
ユウ
:うん。わかった。私達が高岡に遊びに行く。
エマもそれでいいよね!
まるでブルドーザー。優柔不断の私と多分そうであろうエマちゃんを無理矢理引き込む力。
流石だ。
ねむ
:良いよっ!そうしよう!そしたらママに明日ユウちゃんとエマちゃんと遊ぶって伝えるから時間と場所は後で良いかな?
ユウ
:りょー!
エマ
:了解です。
ねむ
:ほなまたスタンプ
よっしっ!!順調っ!!!
◇
家に帰ってきた。
玄関を開けた瞬間、もわっとした蒸し暑さが肌にまとわりつく。
夏の手前特有の、生ぬるい空気だ。
ただひとつ、家の中で涼しい空間がある。
——お兄ちゃんの部屋だ。
小太郎が熱中症にならないように、留守中でも冷房を切らずに出かけるのが我が家のルール。
そのせいで夏になると電気代がとんでもないことになっていそうだが、
背に腹は代えられない。小太郎最優先だ。
私は先に小太郎のご飯を作ることにした。
キッチンに入り、まずはウォーターサーバーの冷たい水をぐびっと飲む。
それから測りを取り出し、小太郎のお皿を洗って、しっかり布巾で拭きあげる。
乾いた皿を測りに置き、尿マルチケアを20グラム落とす。
カラカラッと、アルミの袋が軽やかな音を立てた。
この音が聞こえると、決まって小太郎はお兄ちゃんの部屋の階段を下りてくる。
まるで合図のようだ。
次に、K9トライプを二つまみ。
測りは2.3グラムを示したが、私は“誤差だ誤差”と気にしない。
K9ナチュラル・グリーントライプ。 羊の胃袋をフリーズドライにした、いわゆる“酵素の塊”だ。 猫の腸内環境には最強のスーパーフードなんだけど、その代償として匂いが強烈なのだ。
ウォーターサーバーのお湯をカップに注ぎ、温度計を差し込む。
70℃。
ここから水を少しずつ足して、40℃になるまで温度を下げる。
数字が40を指したところで満足した。
その白湯を、トライプの上からそっと注ぐ。
ふわりと獣っぽい香りが立つ。
クサッ!!
もう慣れたけどね。
「ミャーン」
足元から高い声が響く。
見ると、小太郎がいつの間にかやってきて、私の足に首をすりすりと押しつけ、喉をゴロゴロ鳴らしていた。
(ちょっとまってねー。)
沈むトライプを指で軽く潰して混ぜ、飲みやすいように整える。
白湯の湯気が立ち、お皿の中がほんのり暖かい色になる。
クサッ!
慣れてるけど。(2回目)
完成。
(どうぞー。小太郎ー。)
床に皿を置くと、小太郎は「ナーン」と必ず一言だけお礼を言う。
これがたまらない。
あとは、小太郎がご飯を咀嚼する音を静かに堪能する時間だ。
くちゃ……くちゃ……と満足そうに食べる音が、耳に心地よい。
可愛い。
世界一やな。お前は。
◇
部屋に戻った私はすぐさま冷房をMAXで冷やす。
さて寝巻きに着替えるか。
いつでも寝れるように。ヒッキーの基本やで。
と前までの私はそうしていただろう。
フッフ
最近はなんと私は筋トレをしているのだっ!
驚いただろう!お前ら!!………
って誰もいないが。
お兄ちゃんに貰ったダンベルを使って適度に運動。
絶対に息を荒げぬように気をつけて私は二の腕を中心に鍛え上げる。
あとはお尻と腹筋。そして腕立て。
息が上がるとゼェゼェする可能性が高くなるのでそこは制御しているつもりだ。
あ。そういえば。
ナナちゃんが言ってたな。ケネス君に筋トレの事は聞けって。
そう。氷見の子は1人残らずスタイルが良いのだ。あのね。スタイルが良いって言うのは潜在的なスタイルじゃないの。
例えばユウちゃんはもう凄い引き締まっててボンキュッボン!ナナちゃんはいかにも鍛えあげてて腹筋バッキバキ。エマちゃんもお尻がキュッとしてた記憶だな。
ケネス君は言うまでもない。きっと今後カプコンのストリートファイターのキャラを狙ってるんだと思う。
それにハルもレオ君もなんか筋肉質でカッコ良かったな。
多分筋トレしてるんだよ。私はそう勝手に決めつけている。
あの子達の隣を歩くなら、それ相応の最低限の身体は欲しいものだ。
きっと彼等はそんな事する必要ないって絶対言うけどね。
個人の自由だ。自己満。
その前にとなりのヤングジャンプでも読もうかな。ワンパンマン何話まで読んだっけ。
………
2時間後。
あはははっ!おもろぉ!キングのキングエンジンってそういう事だったのねっ!あははは!
ってこれADHDの症状やないかいっ!




