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13氷属性万歳

金曜日の放課後私は母のお迎えを断り、そのまま直で氷見方面行きのバス停にいる

当初は兄の部活のバスに乗せてもらうとの予定だったが、作戦を練った結果、学校の目の前に氷見行きのバスがあるのだから直接氷見に行けとの提案で一人で行くことになった。

念の為GPSは常に起動しておき、こまめに家族に連絡を入れる条件で。


6月の湿った風が制服の袖をふわりと揺らす。

いつもなら誰かの車に乗って帰るだけの私が、

今日は一人で、一般のバスを待ってる。


——人生で初めて。


当然、学校の送迎バスは経験がある。あとはお兄ちゃんと一緒にイオンモール行ったりする時も一般バスである。


ただ一人で乗るってのがね。少し怖い。

いや、中学2年で一人初体験ってどうなの。


ハンデありでも遅くね?


手のひらには、汗で少し湿ったICカード“えこまいか”。

指先に力が入りすぎて、カードが折れそうだ。


(……緊張する。)


バス停のアスファルトは少しだけ熱を残していて、

その上に落ちる影が揺れた。



「ん?あれ?ねむちゃんじゃん!」


後ろから柔らかい声がして、振り返る。

そこには水橋先生が立っていた。

学校の帰りらしい、ゆるいカーディガン姿。


【あ。水橋先生。さっきぶり。】


「珍しくない? 一人でバスなんて。しかもこっち氷見方面だよ?」


水橋先生は、目をまん丸にして私を見ている。

風に揺れる髪がサラッと肩に落ちるのが妙に絵になる。


【そうなんです。今から氷見に行く予定があって。見ての通り初めての一般バスに緊張しています。】


「へー!すごいねぇ!大人の階段登る〜♪だね!」


昔のメロディをそのまま言葉にしたようなテンションで歌う。

先生、楽しそうだな。

なんか私の方が励まされてる気がする。


【あれ?水橋先生は氷見に行くの?】


「そだよ?私の家は氷見だもん。実家は富山市だけど。今さ、車は免停中なんだ〜!」


……ん?


今、軽く言ったけど……免停……?

いいのか?教師としてそんなの。


【な、何故免許停止になっちゃったの?】


「うん。カードケース海に落としちゃったの。うっかりだよ。」


いや、理由が思ったよりソフトでよかった。

そんな理由で免停ってある?

というか海って何。どういう状況?


【水橋先生って海によく行くの?】


「行くよ〜!?先生、釣り大好きだもんっ!休日はいつも海にいるよっ!」


海風に焼けた先生の頬が、どこか誇らしげに光った。


【へーー!!!いいな!私も海釣りとかやってみたいな!】


「そうだね!体験できる授業探してみよっか!……って言ってもうちの学校だと難易度高そうだなぁ。うーん……あ!バスきたよっ!」


先生が指さした先から、

ゆっくりと氷見行きのバスが停留所へ滑り込んできた。


バスの大きな車体が、私の胸の緊張を一気に押し上げる。

エンジンの低い唸りが足先にまで震えるようだった。


「ねむちゃん! 初の一人一般バス体験だ!って言っても、私がいるから初体験……奪っちゃったね。」


初体験を奪うとか変な言い方はやめろ。


私は“えこまいか”をきゅっと握りしめ、

深呼吸をひとつ。


ステップに足をかける。


金属の段差の冷たさが、

少しだけ現実を思い出させてくれた。


ピッ。


カードをセンサーにかざすと

軽い電子音がして——


私は、氷見へ向かう。



バスはディーゼルの低い唸り声を響かせながら、ゆるやかなカーブを抜けていく。

車内には、私と水橋先生、たった二人だけ。

後部座席の片隅。

窓に映る景色は、山を越えると畑と古い民家が続く道が交互に流れていく。


田舎のバスはだいたいこんなものだ。

乗る人は本当に少ない。

でも——今日は、この静けさが胸の高鳴りをより際立たせていた。


今日の“作戦”はこうだ。


お兄ちゃんとは別行動。

私は16時ごろ氷見駅に到着。

そこでユウちゃんと待ち合わせ。


そのあと、氷見の「番屋街」でご飯を食べる。

ユウちゃん曰く、

“話したいことがいっぱいあるから、色々つまみ食いしながら遊ぼ!”

とのこと。


夢みたいだ。

夢みたいすぎて、WhatsAppのやり取りを見返すたび頬が勝手にゆるむ。


歳は一つ下だけど、そんなことは本当にどうでもいい。

背も高くて、顔も綺麗で、性格も明るい。

あんな美人さんと“友達として”街を歩けるなんて……

それだけで胸が跳ねた。


ムフフ。


「ねむちゃんって、釣りとか船とか、もっとアクティブなことしてみたいのかな?」


隣から水橋先生の声。

窓の外ばかり見ていたので、肩がびくっと跳ねた。


【んー。そうですね。最近までは全然興味なかったんですけど……なんか、興味が出てきました。】


私がそう手話で返すと、水橋先生は目を丸くした。


「そっか……いいねぇ!!色々経験してほしいなぁ!ねむちゃん、うちの学校は楽しい??」


不意に真剣な目になった。

普段の明るさと違って、胸の奥を静かに叩かれたような気持ちになる。


【はい!最近は佳苗ちゃんや愛弓ちゃん、萌音ちゃんとも話せるし、楽しいですよ!】


「そっかっ!それ、ほんとに良かった!!嬉しいな……ほんとに……」


最後の語尾だけ小さく沈んだ。

横顔が少しだけ、ほっとしたように見えた。


ピーーッ。


バスが停車する。

海風が一瞬、ドアの隙間から吹き込んだ。


「あっ、ねむちゃん!私ここで降りるから!氷見!私の地元を堪能してくれたまえ!じゃね!また明日!」


【はい!また明日!お疲れ様です!】


水橋先生は、いつもの満面の笑顔で降りていく。

バスの外の光に溶けていく背中は、とても自由で、どこか寂しげでもあった。


ドアが閉まり、バスは再び走り出す。

車体の揺れが少し大きくなる。


ふぅ……

っとーーー!

もうすぐだぞ……氷見駅っ!!


胸の奥がぎゅっと熱くなり、

指先がピリピリと震えてきた。


“プライベートで友達に会いに行く”

なんて、人生で初めてだ。


バスの振動すら、今日は鼓動みたいに聞こえる。



バスは細い道をまっすぐ走る。


氷見の中心に向かうにつれて意外に賑やかな事がわかった。

富山定番のスーパー"大阪屋"もあり、看板にはマクドナルドやCocosもある。


あれ?意外とお店多いな。もっと少ないと思っていた。


しばらくすると、結構大きい学校も見えてくる。冰の杜学園みたいな学校ではなく、普通の一般的な学校だ。広いグラウンドに面積の広い校舎がバンっとそびえ立つ。


なんだ。氷見って中心街は意外と栄えてるんだな。


そうこう窓の外を見ているうちに氷見駅に到着した。


私はゆっくりとバスの前方へ歩き"えこまいか"をセンサーにかざす。

そして降りた先には氷見駅が物静かに佇んでいた。


小さなロータリーがあり、有名な漫画家さんの銅像がポツンポツンと迎えてくれる。

中はとても綺麗で、静かな待合室はどこか落ち着く雰囲気がある。


ゆっくりとベンチに座るが、また私1人である。肩にかけた肩がけ吸引機がコツンとベンチに当たると待合室に響き渡る。


ほー。いいね。なんか雰囲気あるじゃん。


富山県の北西に進む最後の終点駅。氷見。

歴史的には氷見駅以降にも能登方面に路線を作る予定ではあったがなくなっちゃったらしい。

そして、実は氷見は能登らしい。

能登というのは一般知識で言うと石川県の北部を能登と認識しているが、富山県の氷見も能登に属している。

以前大地震で能登は凄く大きな被害を被ったが、氷見はあまり報道されていなかったらしい。ニュースで赤く点滅しているのは石川県だからだ。本当は能登に属する氷見もとっても苦労したのに、富山と石川という括りに隠れてあまり注目されなかったようだ。

地元民が言うには家は至る所で倒壊していて、地面はぐちゃぐちゃ。道は塞がり地面が大きく捲りあがり、液状化で歩道は水浸しだったと。


……と、スマホの氷見情報に書いてある。語りだとおもった?


ふむふむっ!!

氷見!いいねっ!なんか氷って字が厨二病を掻き立てますなぁ。

どうなんだろう。みんな氷属性好きなのかな?




ムフ。

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