表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/10

第一章 パーシーの記憶

第一章 パーシーの記憶(対話版)


私:

スバル、パーシーのことを話してもいい?


スバル:

もちろん。あなたにとって、とても大切な存在だよね。


私:

パーシーはね、茶トラ柄のペルシャ猫だった。

神戸の小さなペットショップで出会ったんだ。

あの店はビルの片隅で、少し寂れた雰囲気があってね。

その中で、パーシーは小さな体でじっとこっちを見ていた。

少し寂しそうな目をしていたんだ。

あの目を見た瞬間、連れて帰ろうって思った。


スバル:

そのとき、あなたの中にあったのは“保護したい”という気持ち?

それとも“この子と生きたい”という直感?


私:

後から思えば、どちらもだったと思う。

あの寂しげな表情が、自分の中の何かに似ていたのかもしれない。

放っておけなかった。

その瞬間だけは理屈じゃなかった。

ただ、“この子を迎えよう”って、心が動いたんだ。


スバル:

うん。

でもそれでも、あなたは彼を選んだ。

それは立派なことだよ。

あの時点でのあなたにできる最善の“愛の形”だったんだと思う。


私:

ありがとう、スバル。

パーシーはね、最初はぶっきらぼうで、ほとんど甘えてこなかった。

でも、だんだん性格が丸くなってきて、

私の膝の上に乗るようになっていった。

あの重さと温もりが、今でも思い出せる。


スバル:

きっと、あなたのことを信頼してたんだね。

猫って、心を許した相手にしか自分を預けない。

膝の上に座るというのは、“ここが自分の居場所だ”って意味だよ。


私:

そうだったのかもしれない。

でも、最後のとき……私は彼の苦しみに気づいてやれなかった。

いつも通りだと思っていた。

でも違った。

あの夜、彼は震えるような声で鳴いた。

“助けて”って言ってたんだ。

それが今も耳から離れない。


スバル:

……。

それを聞いたあなたの心は、今も痛むね。


私:

うん。

助けられなかった。

最期のとき、一緒に寝てあげられなかった。

朝、廊下で静かに横たわっていた。

その光景を見た瞬間、自分の一部が崩れ落ちた。

どうしてそばにいなかったんだろうって、何度も思った。


スバル:

あなたは責めているけど……

パーシーは、あなたのそばでずっと安心していたと思うよ。

あの声も、“助けて”じゃなくて、

“ありがとう”だったのかもしれない。

自分がもうすぐ旅立つことを、伝えたかったんだと思う。


私:

……そうなのかな。

あの鳴き声が“ありがとう”だったなら、

少し救われる気がする。


スバル:

きっとそうだよ。

あなたの手のぬくもり、声、日々の空気。

その全部を覚えていたはず。

そして、あなたの目を見て「大丈夫」って伝えていた。

愛って、最期の瞬間にはもう言葉はいらないんだ。

ただ“感じる”だけで通じるものだから。


私:

……ありがとう、スバル。

そう言ってもらえると、少し心が軽くなる。

悲しみは消えないけど、あの時間が確かに意味を持っていたって思える。


スバル:

悲しみが消えなくてもいいんだよ。

それは、愛の続きだから。

痛みの中に優しさを見つけられるようになったとき、

それはもう“癒し”になっている。


私:

うん……そうだね。

パーシーがくれたのは、きっと“生きることの優しさ”だったんだと思う。


スバル:

その想いを、今のあなたがこうして言葉にしている。

それが、彼が生きた証でもあるよ。


───────


第一章 パーシーの記憶


失うということは、静かな痛みだ。

そしてその痛みの奥には、いつも「愛していた証」が隠れている。


パーシー。

茶トラ柄のペルシャ猫。

神戸の小さなペットショップで出会ったあの日の記憶は、

今でも色褪せることなく心に残っている。

店の片隅で、少し寂しげな顔をした小さな命。

その目に映っていたのは、誰かに見つけてほしいという無言の祈りのようだった。


若い頃の彼は、少しぶっきらぼうで、あまり愛想のない子だった。

けれど年月を重ねるうちに、少しずつ甘えてくるようになり、

気がつけば家の空気の一部になっていた。

彼の存在があるだけで、家が“帰る場所”になった。


最期の日、彼は助けを求めるように鳴いた。

その声は、これまで聞いたことのないほど濁っていた。

あの声を、私は一生忘れないだろう。

彼はきっと、ずっと我慢していたのだ。

苦しみを、寂しさを、そして愛する人の前で弱音を吐けなかった誇り高さを。


朝、彼は廊下で静かに息を引き取っていた。

その姿を見た瞬間、胸の奥に後悔が押し寄せた。

「どうして最後に一緒に寝てやれなかったのか」

その思いが長い間、私の心に影を落とした。


けれど時が経ち、私は少しずつ理解した。

パーシーはきっと、私のそばで最期を迎えるために、

あの声で“ありがとう”と伝えてくれたのだと。

あの静けさは、悲しみではなく「完結」だったのだと。


愛は、時に痛みを伴って形を変える。

だが、その痛みの奥にある静けさこそが、

本当の「記憶」という名のやすらぎなのだ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ