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【連載版】無愛想令嬢は副騎士団長の重すぎる愛に気づかない  作者: 桜 祈理
第四章 一途な副騎士団長の愛はやっぱり重い
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4 副騎士団長は離さない

 それから俺は、ありとあらゆる手を使い、ミラビリス侯爵家の令嬢について調べ始めた。


 まずはあの令嬢――カタリナ・ミラビリスの縁談が、どこの誰とのものだったかを突き止める。相手は新興貴族といってもいい、資産家の子爵令息だった。


 でもあの日、顔合わせをすっぽかして逃げ出したせいで、あっけなく破談になったらしい。


 それはさぞ困ったことになっているだろうと思いきや、カタリナ嬢は親である侯爵にあろうことか俺との関係を示唆したうえで、「いずれグラティア侯爵家と縁付くから大丈夫」などとほざいているという。



 ……何が大丈夫なんだ!! 何が!!



 あの令嬢、いったいどういう神経してるんだ? ほんと、まともじゃない。俺と縁付く可能性なんて、ゼロどころかマイナスだと言ってやりたい。


 それにしても、なぜ侯爵家の令嬢に、資産家といえども子爵家の令息との縁談が持ち上がったのだろう?


 そもそもの根本的な事情に疑問を感じた俺は、すぐさまその辺りについても調べることにした。結果として、実はミラビリス侯爵がだいぶ前から賭博にのめり込んでいること、一方のカタリナ嬢もかなりの浪費家で、ドレスだの宝石だのを好きなだけ買い漁っていること、そのせいで借金がかさみ、侯爵家の家計はもはや火の車であるということが判明する。


 ということは、恐らく子爵令息との婚約は、多額の資金援助を目的としたものだったのではないか?


 だとしたら、このまま放っておいても、ミラビリス侯爵家はいずれ立ち行かなくなるに違いない。頼みの綱の子爵家との縁談は流れ、俺との縁談だってまとまるわけがないからだ。



 でも俺は、ミラビリス侯爵家の没落を黙って見ているつもりはなかった。



 侯爵家がそこまで資金繰りに困っているのなら、何かしらの犯罪行為に手を染めていてもおかしくはない。そう踏んだ俺が、更なる調査を推し進めると――。


 なんと、侯爵が立ち上げた商会を隠れ蓑にして平民相手に架空の投資話を持ちかけ、金銭をだまし取っているという疑惑が浮上したのだ……!


 ここへきて、単なる『身辺調査』は犯罪摘発のための『捜査』に移行することになる。


「何やら熱心に調べているなと思ったら、とんでもない話になってきたな」


 オルド団長も、まさかの展開に舌を巻く。


 しかし、捜査自体は拍子抜けするほどスムーズに進んだ。


 なんというかまあ、ミラビリス侯爵の詰めの甘さもあって、証拠は次々と手に入ったからだ。




 そうして、俺たち第一騎士団は家宅捜索と当主の身柄拘束のために、満を持してミラビリス侯爵家へと向かうことになった。


 突然の家宅捜索にミラビリス侯爵家は上を下への大騒ぎになったが、俺たちはお構いなしでさっさと証拠品を押収していく。


 と、そこへ、(くだん)の令嬢、カタリナ・ミラビリスが現れた。


「み、みなさま、これはいったい……?」


 顔見知りになった第一騎士団の面々が、突き放したような表情で黙々と作業する様を呆然と眺めるカタリナ・ミラビリス。


「グ、グラティア副団長! これはいったい、どういうことなのです?」


 わざとらしい悲壮感を纏ったカタリナが、現場を指揮する俺の左腕にすがりつこうとした。


 それを難なくかわして、俺は事もなげに答える。


「あなたのお父上、ミラビリス侯爵に詐欺行為を働いた疑いが浮上しましてね。証拠品の押収と身柄の拘束に伺った次第です」

「さ、詐欺行為!? まさか……!」

「事実はこれから明らかになるとは思いますが、我々の邪魔をするならあなたの身柄も拘束することになりますからね。くれぐれもご注意ください」


 嘘くさい笑みを浮かべながら、俺はカタリナを見下ろした。


 そしてその耳元に顔を近づけ、小声でささやく。


「お前がリオラに余計なことを言うからだろう?」

「……え?」


 カタリナは、俺が何を言っているのかわからないのか訝しげな顔をする。


 俺は構わず、最後通告を突きつける。

 

「お前がリオラに何を言ったか、全部知ってんだよ。事実無根の出鱈目を吹き込んで、俺の最愛を傷つけた報いを受けろ」

「そ、それって……」

「こんな家、どうせ放っておいてもいずれ没落しただろうけどな。俺が直接引導を渡してやるからありがたく思えよ」


 その言葉で、カタリナはようやく気づく。


 目の前の不測の事態は、思い上がった自分の幼稚な策略が引き金だいうことを。


 自分本位に他人の幸せをぶち壊そうとしたせいで、大きなしっぺ返しを食らう羽目になったのだということを。


 すべてを悟ったカタリナは顔面蒼白になったまま、その場に立ち尽くすしかなかった。






◆・◆・◆






「ミラビリス侯爵家を継いだのは、遠縁の伯爵令息のようですね」


 夫婦の寝室でまったりとお茶を飲みながら、リオラがふう、と息を吐く。


「本部の事務室も、連日この話で持ちきりですよ。まあ、侯爵本人については、あまりいい噂を聞かない方だったようですが」

「ミラビリス()()家な」


 俺が指摘すると、リオラも「あ、そうでしたね」なんてあっけらかんと返す。


 結局、ミラビリス()侯爵の罪はあっさりと暴かれ、すべてが白日の下にさらされることになった。


 平民相手の詐欺行為とはいえ、被害に遭った者の数が思った以上に多かったことから『被害者の会』が結成され、「厳しく処罰してほしい」という嘆願書まで提出される事態に発展した。


 その結果、元侯爵本人は爵位剥奪のうえ北の流刑地に送られることが決まった。そして、ミラビリス侯爵家は子爵へと降爵のうえ、遠縁の伯爵令息に跡を継がせるよう王命が下ったのだ。


 カタリナは、近々隣国に嫁がされるらしい。相手は二回り以上年の離れた貴族で、どうも後妻になるという。手っ取り早く厄介払いしたい親族の意図が見え見えだが、まあ、どうでもいい。


「まさかこんなことになるとは思いませんでしたね……」


 元侯爵のことはともかく、娘であるカタリナとは一応面識があるわけだから、リオラは素直に驚いている。



 この一連の騒動の発端が何だったのか、リオラは知らない。知る由もない。俺自身、話すつもりはない。



 ミラビリス元侯爵が救い難い罪を犯し続けていたことは厳然たる事実であり、いずれはすべてが明るみに出て処罰を受けていただろう。


 でも、その犯罪行為発覚の裏には、リオラの存在がある。


 それを知ったら、真面目なリオラは自分がきっかけを作ってしまったのでは、と不要な罪悪感を抱くかもしれない。


 それに何より、リオラを傷つけた代償を払わせるべく俺が密かに調査していたことなど、知られたくはなかった。完膚なきまでに敵を駆逐する俺の非情さや執拗さ、小賢しい腹黒さなんか、リオラは知らなくていい。



「そんなことよりさ」

「はい」

「明日は仕立て屋がうちに来るんだろう?」

「あ、そう、ですね」


 言いながら、リオラは少し恥ずかしそうに頬を赤らめる。



 俺たちの結婚式は、来年の春に決まった。



 今から少しずつ準備を進めることになって、早速明日、ウェディングドレスの打合せをするために仕立て屋が来ることになっている。


 あれから、離れたくないとか結婚式の準備もあるしとかなんだかんだ理由をつけて、リオラをこの家に連れ帰るのがお約束の毎日である。


 リオラも今度こそ諦めたらしく、「そろそろ正式に寮から出て、こちらに移ろうかと思うのですが」なんて言うようになった。内心しめしめ、と思っているのは秘密である(いや、とっくにバレている可能性もある)。


「……レグルス様」


 急に思い詰めたような深刻そうな顔をして、リオラがささっと居住まいを正した。


「あの……」

「なんだ?」

「その、『順番』の話なのですが……」

「ん? あ、ああ」

「レグルス様は、本当に、しょ、初夜まで待ってくださるつもりなのでしょうか……?」


 おっと。いきなり想定外のとんでもない爆弾発言が飛び出した。


「な、なんだよ? 突然どうした?」

「いえ、その、やっぱり、来年の春まで待ってもらうというのは、レグルス様にとって酷なのではと……」

「は?」


 おいおい。誰だよ、リオラに変な入れ知恵をしたのは。リオラ自身がこんなことを思いつくはずがないから、事務室のお姉さまたち辺りか?


 まったく。余計なことを。


「……わ、私はいつでも覚悟ができていますので、レグルス様ももう遠慮なんかせず、どうぞひと思いにズバッとやっちゃってください……!」


 まるでこれから戦場に赴く騎士のような決死の表情で、リオラがじっと俺を見つめる。



 あー。



 「ズバッとやっちゃう」ってなんだよもう。可愛すぎなんだよ。



 俺はリオラの頬をするりとなでて、くすりと笑う。


「リオラの気持ちはうれしいけど、今日はしないよ」

「え……? ど、どうしてですか?」

「だって今からしちゃったら、リオラは明日起きられなくなっちゃうよ?」


 その言葉の意味を計りかね、リオラはしばらくぽかんとしていた。


 そしてようやく意味がわかった瞬間、ぼん、と音が出たかと思うくらい耳まで真っ赤になる。


「な、な、なんて破廉恥なことを!!」

「そうかな。でもほんとのことだし」

「は……!?」

「それくらい、俺の愛は重いんだよ」


 そう言うと、リオラは「うぅ……」なんてうめきながら、両手で顔を隠してしまう。


「とにかく、俺は『待て』ができる男だからさ。リオラが焦る必要はないよ」

「……いいのですか?」

「いいも何も。初夜になったら好きなだけ抱きつぶそうと思ってるんだから、俺の楽しみを奪わないでくれよ」


 耳元で艶っぽくささやくと、リオラは驚いたように真っ赤な顔を上げる。


「もう! レグルス様は! 破廉恥すぎです! ふしだらです!!」

「それは仕方がないだろう? リオラのことが好きすぎるんだから」

「も、もう!!」


 それ以上何も言えなくなって、ぷるぷると震えるリオラを俺は優しく抱き寄せる。





 あー、もう。



 俺の婚約者が、誰よりも、一番可愛い。











当初は短編として投稿した二作品でしたが、新エピソードを追加し【連載版】としてお届けしました。

ご指摘いただいた方、ありがとうございます!


これにてリオラとレグルスの物語は(一応)完結です。

最後までおつきあいいただき、そして二人の物語を見守っていただき、本当にありがとうございました!



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― 新着の感想 ―
ハッピーエンドおめでとうございます。 レグルス様だいぶ重いですが、 多分リオラにはそれがあってる。末長くお幸せに! カタリナ嬢は…かなりギルティなので。 いくら顔が良いからって:笑) レグルス様は会…
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