プロローグ:旅の終わり
初めての小説です。ご意見やご感想など是非書いていってください。添削を行いましたがまだ上手くない部分、伝わらない部分もあると思いますがどうかご了承ください。
旅の終わり
その日、世界中を脅かすほどの白く大きなエネルギーの爆発が起きた日の夜、魔王は死んだ。
そのエネルギーは漆黒に包まれた夜の空を貫き、天に昇る道のような白い閃光ができていた。
その光の始点である荒れ果てた荒野にボロボロの服を着た男が、無表情で泣きながら跪いていた。
彼は勇者「ノア」、血まみれの女性と男性を両手に抱き抱えている。
よく見ると女性は両腕がなく男性は胸に穴が空いていて二人とも惨たらしい状態だ。
彼はたった今魔王「ベリアル」との最後の決戦が終わったところだった。
大体6ヶ月間、長きに渡り続いた旅の結末はとても切なく凄惨なものだった―
そこは魔王城、異様な空気と禍々しいオーラを放つ黒で彩られた立派な城についに勇者一行が足を踏み入れた。
城の表にある縦長で神秘的なデザインの施されたとても巨大で重厚感のある扉を開けると待っていましたと言わんばかりに下級の魔物が待ち構えていた。
そして「待ってください」と言った後、その魔物が状況を説明し出した。
どうやら勇者たちがここに来ることが分かっていたらしい。
そして、とてつもなく怪しいが「魔王様から連れてこいと言われているので今すぐついてきて下さいますか…?」と言う。
話を一通り聞いて、双方にメリットもデメリットも感じなかった勇者はその内容に条件をつけ、従うことにした。
あっさりとその魔物は条件を飲み、探索を許可される。結局探していたものは何も見つからなかった。
周囲を警戒しながらその魔物にについて行く。
黒と灰色が基調の内装で、一定の位置に付けられた松明の火が不気味に揺れている。
「こちらが魔王様の部屋です…」
やがて、勇者一行は大きな扉の前に来た。この城で唯一赤黒い豪華なデザインの扉だ。その扉が開き、大量な魔物を連れた魔王と勇者は初めて対面する。
人型で身長は2メートル程の筋肉質な男、服には城の表の扉と似た模様がデザインされていて、胸の中心に飾りをつけていて銀色にギラギラと輝いていた。
魔王を見つけた瞬間色々な思考が脳裏をよぎったが勇者は思考を放棄して、魔王を倒すことだけを考えた。感傷に浸るのは目的を達成してからで良いと思ったからだ。
長い沈黙が続く、勇者一行は誰一人として口を開こうとしなかった。
やがて魔王が口を開く。
「まずは…よくここまできた。旅の様子を見ていたよ。しっかりと奴隷にした人間どもを一人残らず流してくれちゃってさぁ…そのまま帰ればよかったものをノコノコとこんなとこまで来てくれて、嬉しいよ。」
魔王は不敵に笑みを浮かべる。
「はぁ…まぁいい。」
すると魔王が一息つき、話し始めた。
「お前らをここまで呼んだ理由は一つ、対立した勢力の争いは各勢力の中の最も強い戦士を戦わせて争いごとを鎮めるという魔物の掟、それに則って戦ってもらいたいからだ。つまりこの国を統治する私がやられることはこの国の敗北を意味するということだ。それは貴様らも同じこと、総力戦で仲間を無駄死にさせるわけにもいかない。どうだ?貴様らにとっても悪くない話のはずだ。」
恨みのある魔王だが勇者も同じことを考えていた。
子供の頃から楽しいことも辛いこともお互いに支え合った相棒のような存在の「シヴァン」と、家族ぐるみで仲が良かったこともあり赤子の時からの付き合いの「フィリア」、フィリアにはこの旅が終われば自分の想いを伝えるつもりだ。
「誰一人として失いたくない、けれど国も守りたい、二人に手伝ってもらった方が勝てるかもしれない…だけど死なせるわけには…」
様々な思考が交錯する。
絶対に許せない魔王だが、こちらにも失いたくないものがあると思った勇者はその提案にのり、最後の決戦が始まった。
両者一歩も譲らない攻撃と魔法の応酬、その戦いは勇者に軍配が上がった。
トドメを刺そうと武器の剣を首に突きつける、勇者は魔王に勝利を収める…はずだった。
「見事だ。貴様らのような勇敢で誇り高き人間に負けるのなら本望だな…」
魔王が語り出したと思ったら口角を上げてニヤリと笑う。
勇者達が油断したその刹那、背後から魔物の群れが勇者に一気に襲いかかった。
何が起きているのか理解が追いつかない中フィリアとシヴァンの断末魔が聞こえた。
「全員でこいつらを始末しろおおおおおお!」
そう言う魔王の声が聞こえた。
取り押さえられた勇者が見たものは逃走した魔王とそれを手下が庇う様、そして二人も自分と同様に魔物の群れに襲われている瞬間だった。
それを見て、勇者はこの現状を理解し、絶望した。
魔王は最初から掟も約束も守るつもりはなかったらしい。
「その素直に信じる愚かさが、真剣に戦うとかいう反吐が出るほどの甘さが、貴様らの弱点よ!」そう言い放つ。
とても愉快そうに、そしていやみっぽく笑い続ける魔王を見て勇者は怒りを露わにする。
「どけ、離せ…!」
掠れてか弱い勇者の声は魔王には届かない。
魔王を今すぐにでももう一度叩きのめしてやりたいがすでに手下に取り押さえられて何もできない。
防具を外され這いつくばった状態をボコボコに何度も蹴られて息ができなくなるほど辛い。
シヴァン達は何とか魔物を振り払い戦闘を始めた。
手下に痛めつけられた上魔王との戦いで疲弊し消耗し切っていた勇者は、ただそれを見ることしかできなかった。
二人とも勇者を生かそうと、圧倒的な数の暴力にも屈せず奮闘して戦いぬいた。
魔力がなくなっても杖で魔物たちを殴り続け最後まで諦めなかった。
が、魔物が二人に背後から奇襲を仕掛けた。
シヴァンは胸を貫かれ、フィリアは両腕を落とされた。
二人が前のめりにドチャッと音を立てて倒れる、勇者はその瞬間をしっかりと見ていた。
勇者はなにもできないまま、自分の仲間が斬殺されるのを目の当たりにした。
自分の判断によって二人は死んだのだった。
その時だった。
激しい怒りと悲しみの後全身の力一瞬力が抜けたかと思ったら背中を何かが伝うような感覚が頭まで登ってくる。
次の瞬間、勇者は体から突風のような何かを繰り出し、取り押さえていた魔物を全員吹っ飛ばした。
そして勇者は立ち上がり、泣きながら大声で叫び散らかす。
それと同時に体から大きなエネルギーを放出し、同心円状に勇者の周りの地面が抉れて弾け飛ぶ。
そのエネルギーは城全体を揺らす程の膨大なエネルギーだった。
背中を向けて逃げ、手下から回復を受けていた魔王は背中からものすごいパワーを感じ取り思わず振り返る、勇者は体に黄金に輝くオーラを纏って浮いていた。
ものすごい勢いで風が勇者の周りを吹き荒れ、地面が揺れている。ビリビリとした緊張感が漂よう。
勇者は魔王の逃げた方向に手を伸ばす。次の瞬間、そこに群がっていた魔物を謎の力で突き飛ばし、魔王まで一直線の道となった。
ゆっくりと歩いて近づいた。魔王の手下どもはどうにか止めようとしたが、勇者は歩みを止めることなく、それを全て軽くいなす。
覚悟を決めた魔王が飛びかかったが一撃も攻撃を当てられない。魔王は一度引き下がり、再び相対する。
そして勇者が雄叫びを上げながら魔王につっこむ。
魔王と勇者の再戦は、目にも見えない速さで魔王の土手っ腹に拳を叩き込み魔王を再起不能にした勇者の圧勝だった。
倒れ込んだ魔王を蹴飛ばし、勇者は力を溜めて何かを準備し始める。
「終わりだベリアル。お前はもう…お前はもう…何があっても許さないぞ…!」
静かに怒り、泣きながら魔王に言い放った。
何か魔王が説得をしていたような気もするが何も聞こえなかったし何も考えられなかった、ただ怒りに身を任せ全てを破壊しようと力を貯める。
そして二人の方に手を伸ばし、シヴァンとフィリアの亡骸に防御結界を張り、自身は黄色い半透明の球体のようなものが全身を覆っていた。
そして勇者が両手を上げ、叫び出すと勇者を中心に白い閃光が放射状に広がっていく。
光が地面を飲み込み、崩れ、全員が光に包まれていく。
放射状に広がったその膨大なエネルギーは魔王城全体を中心から突き破り隅々まで全て破壊し尽くした。
約6キロほどありそうな魔王城とその城下町の全体を光が覆い尽くしたところでふと光が消える、ほとんどのものが原型も残さず抹消され、荒野に残ったのは仲間の死体と瀕死の魔王と男が一人だけだった。
泣きながら、大声で叫び散らす。
その後、胴しかない魔王の胸ぐらを掴みかかり、泣きじゃくりながら言う。
「二人を今すぐ生き返らせろ!早く!」
魔物は生命力が強いはずだが、魔王は生き絶えていた。胴が残った理由はおそらく手下が庇ってくれたのだろう。
魔王は手の中で塵になって消えてしまった。
そして怒り狂っていた勇者は今になって気づいた。
自身の力は関係なくそこにいた、あったものを全て消し飛ばした。仲間の亡骸と魔王を除いて。
結局誰一人仲間を守れず何もかもが失敗に終わってしまった。
「諦めないぞ…!」
二人だって最後まで諦めなかったんだ、俺だってなんかしなくちゃ…!
そんな思いが熱く込み上げる。
フィリアとシヴァンの元に無我夢中で駆け寄り、泣きじゃくりながら二人を両手で胸に抱きよせ震える声で詠唱を始め、回復魔法をかける。
「治れ…治ってくれ…!頼む…」
回復魔法には詳しくないが瀕死でも蘇生できるらしい魔法だ。
回復魔法専門のフィリアに教えてもらった唯一の回復魔法。
だがしかしなにも起きない。呼吸もしてないし心臓も動いてないようだ。
その瞬間勇者の中で何かがプツンと切れた。
旅だけでなく人生の支えだった二人、苦楽を共にした仲の二人が今手の内で息を引き取ったのだ。
これが勇者の旅の結末だった。
ふと何故か自分と仲間達のここまでを振り返る。
憎き魔王を倒そうとみんなで誓ったあの日のこと、旅に出た時の住民の人たちの歓声、3人とも森で迷子になったりした日のこと、シヴァンとフィリアと一緒に夢を語り合って変な感じになった夜、どんなことでもみんなとならまとめて愛せた日々をいつしか当たり前だと思っていたのかもしれない、その場に泣き崩れ顔が上げられない。
今になってもう二人とは旅ができないことを実感する。
そう思ったらまた涙がぶわっと溢れる、何も考えられずただただ絶望に打ちひしがれて動けない。
ただ目の前の全てを受け止めるしかなかった。
目は開いているが二人の死体以外何も見えておらず、目の前が涙で滲む。
耳もショックで感覚が遮断されてしまい何も聞こえない。
自分だけの世界に閉じこもり回らない頭で「もっと話せばよかったなぁ」「何で俺だけ」「もうこのまま死んでしまおうか」ゆっくりと思考の沼に沈んでいく。
もはやそれ以外のことなどどうでもよくなるほどの沼に。
全てを失った今、ぶっちゃけ死んだ方が楽で良いような気がしてきた。
首が座ってない赤ちゃんのように首を上に上げたまま下にも横にも振れず、ただ空を見つめる。
もうすぐ朝になりそうな明るみが東の空から差しているが、勇者には何も見えていない。
何故か勇者の目に映ったものはただとても暗く、先が見えなかった。
趣味で何となく書いたので思ったより読まれたら書くモチベが上がると思います。