装備の更新と予習
想像以上に戦闘が充実したから、ある程度で切り上げた俺は装備の更新をするため次グ町に戻ってきた。
雑貨屋で大量の狼の毛皮を売却していると、ひとつだけ別になっている毛皮があった。
インベントリでの表示も他と違って、白い毛皮だ。
ただ、アイテムとしての表記は同じ。
重要そうだから、売るのはやめておいた。
他にも牙を売ると、俺の金は約8000ゴールドに。
装備の更新をするために、店へ向かうと渋面のおじさんがいた。
話せるNPCだ。
「坊主、狼の集団とやってたらしいな」
「うん」
「白い狼とやったのか?」
「うん」
「ソイツは汚染された枝が付いてたか?」
「うん」
話しかけてきた嫌なくらい真剣なおじさん。
あれかな、実は町を脅威から守ってくれてたのが狼の群れで、それを殺してしまった俺が責められるとか。
ゲームだから好き勝手させないのはいいけど、そこら辺は少し油断していたな。
死にゲーじゃないからって。
「ありがとう!」
「え?」
俺の想像とは違って感謝された。
思わず出た声に、AIはすばやく怪訝な表情をおじさんに作らせる。
出来が良いな。
「なにが、え、なんだ?」
「いや、急に感謝されたから」
「ああ。群れの狼はモンスターたちを寄せ付けないから、ちょうどよかったんだけどな。いつからかモンスターが入ってきちまってな」
「うん」
「汚染された枝が巻き付いてたら、もしかしてとは思ったんだ」
汚染された枝が巻き付いたら、周囲のモンスターが何か変わるんだろうな。
そもそも俺が得た称号は対獣だったから、モンスターに該当しないものもいるってことか。
ということは、大量のモンスターを倒していけば対モンスタースペシャリストを得られるわけだ。
そう言えば、俺の手元にはこの時用だと言わんばかりに白い毛皮がある。
「白い毛皮いるか?」
「いいのか!」
食いつきいいおじさんだ。
インベントリからアイテムをタップして、取り出すを選択した。
手には妙に肌触りの良い毛皮がある。
渡さないでおこうかな。
「いいよ」
「本当にいいのか!」
おじさんの顔が俺に近づくと同時に、警告するようにゲーム側が『本当に渡しますか?』と画面を出してきた。
3か月しかこのゲームをしないんだから、貴重なアイテムは持たない方が精神衛生上いい。
「いいよ。渡す」
「ありがとう!」
話は終わっただろうと、装備を見ているとおじさんがヌッと視界に入ってきた。
楽しそうに笑っているのは、なによりだけど、それが俺に向けられていると別だ。
「坊主、頼みごとをしたいんだけどいいか?」
どういうことだろうと、考えていると画面が出てきた。
サブクエストと書かれている。
『サブクエスト:武具屋タロンの頼みを聞き入れますか?』
「いいけど、割引してよ」
「ガハハハッ、いいだろう。それならまず買ってからだな」
値引き交渉が可能なNPCだから、結構重要な奴かもしれない。
俺は軽防具一式と大太刀を買った。
通常価格よりもしっかり割り引かれていたから、今から受けるサブクエストがどの程度のものか考えると、少し恐ろしい。
死にゲーでも最初は良い奴に思えるのに、悪いことを主導していた奴だったりするからな。
俺が購入し終えると、タロンは少し待ってろと扉から別の部屋へ向かう。
しばらく待っていると、一瞬視界が暗転したと分かった。
ロードを挟んだらしいから、もしかすると俺は専用サーバーに入ったのかもしれない。
「頼みってのはこれだ」
タロンは戻ってくると、動きが滑らかになって話し方も少し流暢だった。
専用イベントのにおいがしてくる。
投げ渡されたのは書簡だった。
「これは?」
「知り合いから渡されてるものでな。俺が届けるんだけど、忙しくて無理なんだ。届けて欲しい」
「どこの誰に、いつまでだ?」
「王都の墓所管理人ドラーワに、出来るだけ早くだ」
「遅いと問題あるのか?」
「ない、とは言えないけど、早いに越したことはない」
「分かった」
書簡をインベントリへ入れると『タロンからドラーワへの書簡:開かないと読めないが、重要なことに違いない』と書かれてある。
テキスト作った人は重要なことに違いないと思わせたいのか、読ませたいのか、どっちだろうな。
「ほい、もってけ」
さらに渡されたのは、大ぶりな短剣と女性が着てそうな白いフワフワケープだった。
短剣と呼ぶべきか、ククリナイフのようなものと言うべきか。
そちらはあまり気にならないんだけど、フワフワケープは俺に似合わなさそうだ。
「これは?」
「短剣を持ってりゃドラーワも俺の使いだと信じてくれる。ケープは報酬だ」
「この毛皮は?」
「分かってんだろ。白い狼の毛皮だ」
「なるほど。届けたら報酬貰いに来るよ」
「それが報酬だ」
「貰いに来るから、いいの用意しといれくれよ」
「短剣でいいなら」
「ハハハッ、頼んだ」
笑いながら俺は店を出た。
値段の交渉を出来たから、報酬の交渉も出来るだろうと思ったけど、考えてくれるとは。
一定の場所では大きく自由度を持たせているんだな。
雑貨屋みたいな物言わぬ店員もいるけど。
装備を更新した俺は、ケープを着ていない。
というのも白いケープを着た場合、とても目立つからだ。
派手な格好をしても問題ないプレイヤーだけど、タロンが俺を殺す勢力を送り込むとしたら、白いケープを目印にするだろう。
もちろん、俺は油断しない。
ただ、プレイヤーそのものにシステムでタグ付けされていたら、どうしようもないけど。
視界が一瞬暗転し戻ってくると、時刻は21時40分。
門の近くでログアウトして、ボス戦の予習をしよう。
VRルーム内でキーボードをたたいて「ツリーサーガ」の攻略サイトを見ていく。
すると、どうやら三ツ町前のボスは猿らしい。
属性を持つモンスターで火属性の攻撃をしてくるようだ。
顔を空に向けて二度叫ぶと、同じ動作で三度目に空へブレスを吐いて範囲攻撃するらしい。
対策は特になく怯み状態にもならないから、範囲から逃れるのが良いようだ。
画面をスクロールしていくと、書き込みがあって大量の群れで襲ってくるとあった。
猿の群れで、ボス猿が火属性の猿らしい。
画像があるけど、黒い木が巻き付いている猿だ。
黒い木は火に耐性があるのかもしれん。
他にも周囲には別のモンスターが多いとの情報だ。
どれも書き込み少し古く、新しいものを見ていると、お目当ての書き込みを見つけた。
『知らない人たちに誘われてパーティーを組んだら、ボス戦前に逃げられて大量のモンスターに襲われた。通報はしてる』
あの2人がそうなら通報しても意味はない、ということはゲームの仕様上は問題ないこと。
もしくは、知らない人たちの手法を真似している人たちがいるのかもしれん。
他のボス戦を見ていくけど、似たような書き込みはない。
立地がいいのは三ツ町前のここだけなのか。
俄然やる気が湧いてきた。
罠に嵌めたNPCへ復讐するのは周回する人の特権だからな。
勝手にその機会が転がり込んでくれるとは。
俺の復讐は罠そのものを使って、成長することだ。
罠に掛けた奴らは、ただ罠が壊れていくことを見ているだけ。
名も知らぬ人の復讐ついでに最大限利用してやる!
他の攻撃を調べていると21時55分になった。
基礎レベルも上がった。
スキルレベルも上がったし、軽防具のスキルレベルもポイントを使って上げる予定だ。
武器と防具も更新して、準備は万端だ。
見てろよ、バサシとレアチキン。
そう考えた俺だったけど、VRルーム内の俺が待ったをかける。
「そもそも、2人がそうと決まったわけじゃないから、罠が来たら養分とするつもりで行こう!」




