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ノスローこと、ノススミ・サンロー④


 砦前でリスポン地点の更新をして、カズさんから砦の構造を簡単に教えてもらった。

 4つの塔とそれをつなぐ壁、真ん中の屋上には中ボス。

 どれもチャットでカズさんよりも詳しく教えてくれた。

 弓の場所は塔の敵が持っているみたい。


 色々と説明を受けて、私は砦の門へ走って行く。

 後ろからカズさんは続くけど、狙いの逸れた矢が向かっている。

 器用にかわしながら付いてきて、私に矢が届かないように弾いてくれた。

 約束通りとはいえ、矢を弾くのはゲームだからこそ。

 〈廃人だな〉

 〈死にゲー廃人〉

 〈150キロくらいの速さ〉

 〈長い方が200で、短い方が120〉


 門番を倒し終えて、真っすぐ突っ切ることを確認する。

 門を開けたら、ハチの巣にされるから真っすぐ突っ切るみたい。

 鍵を開け、門を押すけど全く動かない。


「ノスローさん、引いて開ける扉だよ、それ」

「え、あ、すみません!」

 〈さすが姉御〉

 〈ポンコツきた〉

 〈結構本気で押してたな〉

 〈あねご〉


 視聴者からも生暖かいコメントが来て、私は逃げるように駆けだした。

 正面を見ると、門よりも少し明るい色の扉があるだけだ。

 どうやって突っ切るの?

 悩んで足を止めてしまった私に大量の矢が降り注いだ。

 〈うわ〉

 〈ひっでぇ〉

 〈盾は?〉

 〈ハリネズミ〉


 ゴーストとして白い靄になった私。

 走り込んでくるカズさんは私に見ているように言い、大きな扉へ突っ込むと、扉は重量をなくしたように砕け散った。

 リスポンして戻った私はカズさんを問い詰め、攻略を再開する。


「やっ⁉」

 〈や?〉

 〈うわ〉

 〈カズは?〉

 〈いない〉

 

 階段を上がっていると2階の方から敵が剣を構えて、飛び掛かってきた。

 悲鳴を上げて刺された私は、動くことも出来ずに倒された。

 リリースされた私は階段の後ろを見ると、カズさんがまだ来ていない。

 下りていくと、途中で座っていた。


「カズさん! こんな離れた場所にいたんですか⁉」

「知ってるから、早くしないと時間が足らなくなっちゃうよノスローさん」

「はい」


 それからは酷い攻略だった。

 倒したと思って油断していると、別の敵に倒されたり、部屋に入るとボウガンでハチの巣にされたり。

 盾で防御しながら敵を倒していると、弓の取れる6階だったのは驚いた。


 弓を取って屋上で中ボスと対峙する。

 鎧を着た大きな拳武器の敵。

 カズさんは最初のころ、嫌になるくらい倒されたみたい。


 緊張しながら武器を構えると、ガチャガチャと鎧の敵が走ってきた。

 攻撃が来る、と思って盾で身を固めると、ものすごい衝撃で私の体が浮く。

 そのまま、屋上から飛んで行った。


「あ、いやぁぁぁ‼」

 〈しっかりミスリードしてたなカズ〉

 〈拳で攻撃してくるからって〉

 〈気を確かに持てって言ってたぞ〉

 〈確かにこれはきついな〉


「カズさん、身を任せろって、ああいうことだったんですか?」

「そう。最初の攻撃を避けても、別の攻撃中に何度か落としに来るから、気を付けて」

「アイツを落とすことは出来ないんですか?」

「無理、ゲームに守られてる。普通の兵士は落とせるけど」

「あの、2時間で倒せますか?」

「分からん。出来ないことはなさそう。無理そうなら、手をかしてもいいけど?」

「その場合、賭けはどうなりますか?」

「俺の勝ちかな。どうする?」

「ギリギリまで頑張ります」

「うん。頑張って」


 中ボスを予定よりも早く倒せたのは奇跡みたいなもの。

 ゲームが下手な訳じゃないけど、いつもはもっと時間がかかったはずだから。

 アシストが悪さしているのかな。

 それとも、チャットを気にしている暇がなかったからかも。


「そういうこともある。ほら、円卓行こう」

「あら、負けを認めたんですか?」

「今は。この先ノスローさんがしくじるような場所もないから、認めたようなものだけど、終わるまで分からないからね」

「円卓に行きましょうか」

「うん」

「あの、カズさん。階段はこっちですけど……」

「いいから、こっち」

「わ、分かりました」


 カズさんの案内で6階から塔へ向かうことになった。

 階段から呼ばれて、塔への扉を通るときにカズさんとぶつかる。

 それはほんの少しの違和感だった。

 〈カズ悪い笑み〉

 〈姉御〉

 〈悪い顔してた〉

 〈おい〉

 

「うん? カズさんが悪い笑みだった?」

「え? ほら、急ぐよノスローさん」

「は、はい!」


 塔へ行きカズさんは慣れたように敵を倒すと、遠くを指差した。

 平原にポツンと建つ細長い建物が円卓みたい。

 そこまで遠くないから馬を走らせれば、賭けは問題なく私が勝つ。


「で、その近くにある、あれ!」

「え? どれですか?」

「あれ、あれだよ」

「うーん、分かりません」

 〈姉御〉

 〈カズが〉

 〈気を付けろ〉

 〈気付け〉

「うーん、見えま――」


 言葉を続けようとした私は腕を掴まれて、動きを止めた。

 急いで隣を見ると、ニヤリとしたカズさんが肩を組んでいる。

 何をする気か分からないのが、恐怖を煽ってきた。


「そんなものないよ!」


 グッと体を沈めたカズさんを見て、何をする気か分かった。

 でも、スローになったように感じる世界で私は体が押し上げられる。

 塔から2人、空に身を投げた。

 跳んだ勢いはすぐに無くなって、落下を始める。


「いやぁぁぁぁ‼」

「あはははは!」

 〈うわ〉

 〈笑ってるよ〉

 〈ひどい〉

 〈これは〉

 〈死にゲーマーはすごいな〉


 リスポンした私は視聴者がチャットで怒っていたから、出来るだけ怒った。

 怒る権利は私にだけあるから、見ている人は受けてないから権利はないけど、それを理解はしてくれない。


「あの、カズさん」

「うん?」

「楽しかったですか?」

「うん。あ、そうだ、近所にノスローさんのファンがいたよ」

「そんなことはどうでもいいんです」

「うわぁ、それはファンに失礼だと思いますぅ」

「今する話じゃないと言うことです」

「さ、そんなことより円卓行こうか!」

「露骨に話をそらさないでください」

 〈カズ〉

 〈お前が悪い〉

 〈落としたらダメだよ〉

 〈ふつうの事だ〉

 

「ごめんね、落として。一緒に落ちたけど嫌だった?」

「どうして一緒に落ちる必要があったんですか⁉」

「ノスローさん、階段降りるのと、跳ぶのどっちが早いと思う?」

「あー、跳ぶ方が早いですけど」

「そういうこと。死にゲーは死ぬことすらも許容するゲームだよ」

 〈ちょっと違う〉

 〈正論に近くはある〉

 〈仕方なく死ぬゲームだろ〉

 〈死にに行くじゃないだろ〉

 

「だからって、人にしないでください」

「だから、ゴメンって。ほら、急がないと18時になるよ」

「なりません。55分あまってます」

「じゃあ、ゆっくりしようか」

「円卓に行きましょう」

 〈行くんかい〉

 〈姉御〉

 〈賭けは勝ちだ〉

 〈姉御は大人だ〉


「ノスローさん、賭けのことなんだけど」

「はい。何ですか、負け確のカズさん」

 〈いうじゃん姉御〉

 〈負け確のカズ〉

 〈おこってるよ〉

 

「ほう、言うねぇ。ノスローさん」

「事実です」

「はい、事実です。で、ものは相談なんだけど」

「はい」

「えー、ツリーサーガを続けるという賭けの内容なんですが。えー、貧乏学生の小遣いでは難しくてですね」

 〈学生?〉

 〈疲れた顔してるのに〉

 〈学生は嘘だろ〉

 〈貧乏学生でこのゲームしかしたことない〉

 

「はい」

「えー、はい、その、内容を考え直してほしいんです」

「分かりました」

「どのようにしてくれます?」

「お金が問題であれば、私が負担しましょう」

「はぁ?」

「ん? なんですか、カズさん?」

「いえ! どういうことでしょうか?」

 〈姿勢正してるじゃん〉

 〈しかも敬語〉

 〈いつかそれがひっくり返る〉

 〈姉御は小物だ〉

 

「私のすることに手を貸してもらう代わりに、私がお金を出しましょうということです」

 〈いいじゃん〉

 〈姉御の配信者コラボは気の毒だからな〉

 〈小間使い系配信者〉

 〈小物配信者だから〉

 

「それ、周りからどうこう言われません?」

「視聴者現状歓迎ムードですけど」

「奇特な人もいるもんですねぇ」

「今見てます」

 〈見てるよ〉

 〈奇特な人だよ〉

 〈笑えよ〉

 〈コラボは〉

 

「はい、すみません」

 〈ガキだから許してやる〉

 〈姉御を小間使いにしないならいいぞ〉

 〈子供か?〉

 〈学生かもしれない〉

 

「あ、そっか。ノスローさんのファンは女性もいるから、問題ないのか」

「え、何ですか?」

「近所のファンの人が女性で、アイドルみたいに祭り上げられている訳じゃないから、歓迎ムードなのかと思って」

「あー、遠からずですね」

 〈女性ファン?〉

 〈そんなのいるのか?〉

 〈いるだろ、小物好きは〉

 〈少数だけどな〉

 

「へー」

「それで、カズさんに手を貸してほしいというのはですね」

「うん」

「ツリーサーガの攻略を手伝ってほしいんです」

「メインクエストってこと?」

「どれでもです」


 その後、円卓に着くとムービーが始まった。

 大きな円卓に寝転がった無精ひげのおじさんがいる。


『ん。やあ、同志よ』


 起き上がって杯を持ち上げるイケオジ。

 声も、所作も、私好み!

 厳つい中に親しみやすさが滲み出ている。

 これ、これ!


「カズさん!」

「うん」

「今の、あの、あの人はどういうNPCですか?」

 〈そっか、姉御〉

 〈おじ好きだもんな〉

 〈イケオジか〉

 〈イケてたなぁ〉

 

「円卓にいて、王を打倒する同志だけど」

「王を打倒、そういうストーリーでしたね」

「で、イケオジはどうだった?」

「よかったです! このゲームを続けたくなるくらい」

「じゃあ!」

「いえ、続けませんけど、それくらいよかったです」

「だよね」

 〈納得してる〉

 〈分かってるのか〉

 〈イケオジでも釣れないのか〉

 〈難敵だな〉


 18時まで時間があるから、カズさんと円卓にある訓練場へ。

 話の流れで弾きの練習をすることになった。

 そこで私は弾きのシステムを十分に理解していないことが分かった。

 〈ずっと言ってたのに〉

 〈聞かなかった〉

 〈無視してた〉

 〈姉御〉


 システムを理解すると、案外すぐにカズさんの大太刀を弾くことができた。

 私が調子にのると、カズさんのやる気を刺激してしまい、振り下ろしの攻撃が変化して、全く弾きが出来ない。

 速度の違い、踏み込みとか、急に攻撃範囲が伸びたりとか、上手く弾きをさせてくれなかった。


「それじゃ、ノスローさん、またね」

「あ、あの!」

「うん?」

「カズさんは今、ツリーサーガで五ツ町前のボスですか?」

「いや、王都前でレベル上げしてる」

「はい?」

「王都前でレベル上げしてる」

「え、いや、あの、早くないですか?」

「四ツ町で会ったのが金曜だっけ、そこまでじゃない?」

「いえ、六ツ町のボスが強いとは聞いていますから」

「ああ、確かにギミックがあるかと思うくらいHP減らなかったな」

「よく倒せましたね」

「『ゴーストリリース』していたら同じような状況になるから、ノスローさんも続けるといい!」

 〈すきあらば〉

 〈ずっと宣伝してるな〉

 〈PRつけろ〉

 〈姉御〉


「いえ、やめておきます」

「そう、じゃあ、今日はありがとう」

「はい、ありがとうございました」


 目の前からカズさんが消えていく。

 一先ず、私も配信を終わらせようかな。


「20時からツリーサーガするね。バイバイ」

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