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ノスローこと、ノススミ・サンロー③


 カズさんと現実で出会ってしまった。

 コンビニで出会い、今日は朝に運動をしていると出会った。

 名前を井上優人と言い、高校生みたい。


 私はそこまでキャラを変えてないのに、まったく気付いていなかった。

 それに、曲がった背中、ふらふらした歩き方とも言われた。

 結構ひどいことを言われたけど、本人はまるで気にしていない。

 すべてをそのまま口に出す、オブラートの存在を知らない人かもしれない。

 今は配信を始めており、ゴーストリリースのキャラ作成を相談していた。


「ステータスと武器、防具。どれがいいの?」

 〈兵士じゃない?〉

 〈傭兵でしょ〉

 〈傭兵〉

 〈騎士〉

 〈兵士〉


「兵士かな。ステータスは?」

 〈HP多め〉

 〈HP〉

 〈HP〉

 〈力〉

 〈HP〉


「HPね。あ、カズさんからメッセージ来た」


 『起きてますか?』って、フレンドになってるからゲームしてるくらいは分かるでしょう。

 招待を送る時間を指定して、返事をしておく。

 12時55分にカズさんを招待して、キャラ作成をしていた。

 これが中々難しい。


「どの防具も重いんだけど」

 〈それが死にゲー〉

 〈当たり前〉

 〈グラ以外はほぼ現実よ〉

 〈重いは多少固いだぞ〉

 〈軽いとすぐ死ぬ〉


 兵士の防具を選択し、ステータスはHP多めにした。

 武器はラウンドシールドとショートソード。

 動きやすくて攻撃力も低くない。

 これを決めるのに、いつもの感じで視聴者と話していたから割と時間がかかってしまった。


 作成を終えると、同意をした。

 すぐにロードが始まった、長いロードだった。

 ロードが終わって暗い視界がマシになると、重いものを動かす音が聞こえてくる。

 とても近い。

 〈なんだこれ〉

 〈こえぇ〉

 〈暗い〉

 〈みえん〉


「わっ!」

 

 少しずつ開いた視界がゴトッという音で、一気に開く。

 明るいようなでも視界が不明瞭なそんな場所だ。

 起き上がろうとするけど、体が重くてすこし怠いように感じる。

 そうしていると、ザッザッと足音が近づいてきた。

 私はいつの間にか抜き身で持っていた剣を音の方向に突き出す。


「ノスローさん、俺だよ」

「え、ああ、カズさん」

「寝てないで出てきて、すぐに戦闘だから」

「は、はい」


 急いで起き上がると、誰がどう見ても軽装でローブ姿のカズさんがいた。

 私の装備と比べると、フル装備の私が馬鹿みたいに見える。

 〈魔術師か〉

 〈ベテランはこれなのか〉

 〈新しいデータなのか〉

 〈顔変わってねぇ〉

 〈近接かと思ってた〉


 今いるのは周囲に大量の石棺がある場所だった。

 カズさんの言うとおりに石棺が開くと、2体の敵が現れて戦闘が始まる。

 敵は私たちと同じ姿をしていて、魔術師、兵士と表示された。

 私は兵士と戦闘していたけど、体が重い、装備が重いというマイナスで上手く動けていない。

 盾で防御を固めながらチラッとカズさんを見ると、戦闘を終えて私を見ている。


「カズさん、手を貸してください!」

「それ、通常モブだから、がんばって」

「はいぃッ⁉」

 〈これ通常?〉

 〈姉御苦戦してるけど〉

 〈通常モブで複数が当たり前〉

 〈いやな動き〉

 〈カズ、戦闘おわってるよ〉


 その後、私は苦戦したけどカズさんの助言で敵をよろけさせた。

 動けない敵の心臓目がけて、ショートソードを突きこむ。

 通常モブという言葉は本当のようで、その一撃で敵は沈黙した。

 ドロップアイテムらしい物の確認を終えると、地震が起こる。


 ロードの前に鬼と戦闘をする、と言われた。

 少し長いロードを終えて、目を開いたけど暗い場所だ。

 このゲームは暗い場所ばっかり。


「あの、カズさーん⁉ カズさーん」

「隣にいるから、鬼が出てくると周囲が明るくなるので、頑張ろう」


 真横から聞こえてきた声に驚きで、体が跳ねた。

 鬼について聞こうとしていると、重い足音が聞こえてきて、思わず口を噤む。

 近づいてきた足音が止まると、少し見上げるような場所に赤い光が灯った。

 すると暗かった世界が一気に明るくなる。


 私たちは灰色のボヤっとした洞窟にいた。

 うっすらと発光した壁、敵は灰色の鬼だ。

 凶悪な顔、とがった牙、ボロボロの腰布、武器は持っていない。


「ノスローさん、コイツは倒さなくてもいいけど、どうする?」

「そう言われると、倒したくなってきます」

「できるとこまで挑戦して、倒されたらそれまでいい?」

「はい。カズさんは手伝ってくれますか?」

「いや、俺が手伝ったら簡単になるから」


 鬼は一歩踏み出して吠えると、思わず後ずさりした。

 ツリーサーガの方が技術的には上なのに、恐怖はこちらの方が上。

 怖いもの見たさで請け負った私が馬鹿だった。

 

「やめとく?」

「いえ、やってみます」

「うん」

 〈いけ姉御〉

 〈倒せ〉

 〈デカくね〉

 〈いけ〉

 〈賭けたのむ〉


 始まった鬼との戦闘は、案外すぐに終わった。

 もちろん私の負けだ。

 動作の大きい薙ぎ払い、叩きつけ、掴み。

 掴みはエフェクトが付くから避けやすいけど、薙ぎ払いや叩きつけはディレイが多くて難しい。

 しかも、ディレイしない場合もあるから、より面倒くさい。


 HPが0になって、私のキャラが倒れると白い靄として動けるようになった。

 チャットはこれがスピリットという状態だという。

 死んだ場合はゴーストといい、蘇生アイテムで復活させられると。

 視聴者もカズさんのような物好きがいるみたい。


「あ、弾き! 弾きを見せて下さい」

「熊でも見せたけど」

「いいから、見せてください」

「うん」


 気負うことなくカズさんは私の頼みを受けた。

 ツリーサーガで見たけど、体が重いこのゲームでは勝手は違っていると思ったから頼んだ。

 すると、杖を構えるカズさん。

 ゲームだから問題ないけど、木製の杖で向かうような相手じゃない。


 鬼は左腕を薙ぎ払い、カズさんは木製バットで快音を響かせた。

 そう錯覚するくらい、カンッといい音で弾いた。

 火花が広がり弾いたと分かる。


「それじゃ、進めるよ」

「え、あ、はい」

「手を掴んでね」

「え?」


 なにを言われたのか分からないまま、目の前でカズさんが鬼の攻撃を3回受けた。

 カズさんのキャラが倒れると、地震がまた起きる。

 すると、私の目の前の空間が裂けて、手が伸ばされた。

 言われた通り掴むと、目も眩むほど明るくなって目を閉じる。


 ロードが挟まって目を開くと、平原にある丘の上だった。

 どこまでも続くような広い世界。

 視界の先には建物がある少し遠いけど。それにこの世界ツリーサーガよりも広く見える。


「カズさん、ここは?」

「『ゴーストリリース』の現実側だ。ターモーデンっていう俺の第2の故郷だ!」

「は、はぁ」

「さ、このランタンにライターで火をつけて、手帳を手に取って」

 〈少し前のゲームとは思えん〉

 〈広いな〉

 〈ゲームはこれがいいんだ〉

 〈モブも見えるな〉


「しばらく、これを読んでてもいいですか?」

「うん。俺も魔術の設定してる」

「それ、聞きたかったんです」

「魔術の事?」

「違いますよ。近接系の装備で来ると思ってたので、魔術師装備で不思議だったんです」

「今までしたことない装備にしただけ、ノスローさんこそ、何とも言えない兵士装備だけど?」

「視聴者におすすめを聞いたんです」

「死にゲーだからね。攻撃をくらわないか、耐えられる装備が必要だからか」

「はい。少し読んで、システムを試してますね」

「うん」


 私は手帳を読み始めた。

 そこにはゲームシステムの説明がある。

 回復丸薬、魔術の設定、ステータスの詳細、スピリットをリリースする方法、ハーフボディという難易度緩和措置。

 装備や環境を読み飛ばして、私は馬鍵の使い方を試してみた。

 鍵を持って、開くような動作をする。


「あの! カズさん、なんですか、これぇ⁉」


 股下から現れて私を持ち上げ、歩き始める馬。

 カズさんを見ると、こちらを見て真顔だった。

 心配する気はないみたい。


「あの! カズさん」

「説明通りにすればいいから、そこまで慌てなくても」


 手帳から説明を見て、手綱を持って腹を蹴る。

 すると、少し早めに歩き始めた。

 これじゃない!

 〈腹を蹴れ〉

 〈けれ〉

 〈ひけ〉

 〈けれ〉


 チャットを見て、そのまま馬の腹を蹴ってしまう。

 すると、馬は勢いよく走り始めた。


「あ、あの!」

「手綱を手前に引っ張ると、止まるから」

「は、はい!」


 言われた通りにすると、馬はすぐに動きを止めてくれた。

 つ、疲れた。

 ゲームの馬でこんなに疲れるなら、現実の馬はもっと辛いのかな。

 それより。

 

「なにか?」

「馬に乗れるんですね」

「実際には乗ったことないけど。それでどうよ、アシストのない世界は?」


 アシストのない世界で、平然と私が操り切れない馬に並走していた。

 どのくらいこのゲームをしているか知らないけど、随所に慣れが見える。

 あと、運動できるんだろう。


 その後、アシストの感じ方は人の動きで変わることを視聴者から教えてもらった。

 これから砦まで弓を取りに行く。

 18時までこのゲームをすることが決まると、カズさんは私が砦を攻略して、円卓まで向かうのはもっとかかると言ってきた。


「じゃあ、賭けましょう!」

「うん?」


 VRメニューから配信のチャットでも賭けを始めた。

 『18時までに砦の攻略と円卓に到着できるか?』という内容だ。


「何を賭けますか?」

「なにかあるかな?」

「あの、私が賭けて欲しいと思っているのは、この前の猿の情報です」


 賭けの内容として挙げたのに、カズさんは話し始めた。

 私は止めたけど、3か月しかする気がないゲームだから言えると。

 すると、チャットにいくつか質問が来て、有志がそれをまとめたコメントする。

 モデレーターがコメントを固定し、私がそれを読み上げる質問形式になった。


「まず、どういう風に戦闘が始まりましたか?」

「モンスター誘引煙をパーティー組んだ2人が仕掛けて、大量のモンスターが流れ込んできた」

「は?」

 〈噂は知ってたけど〉

 〈マジなんだ〉

 〈そういや変な事言ってたな〉

 〈こわ〉

 〈別ゲーでしろよ〉


「次の質問は?」

「え、えーと、ボス猿の攻撃で属性ダメージというのは何ですか?」

「両手に巻き付いた木の装甲を打ち合わせて、火に包まれるんだけど」

「は、はあ?」

 〈特殊行動じゃねーか〉

 〈何で木から火が出るんだよ〉

 〈すげえな〉

 〈初めて数日だろ〉

 〈豪運だな〉

 

「それをしたら、猿もダメージを受け始めて」

「自傷行動ですか?」

「それについては詳しく説明できるけど、後になる。で、その拳の攻撃を弾くとダメージをほんの少しだけ受けた」

 

 ゲーム側が2体目のボスにそんな機能を付けているとは。

 チャットもカズさんの話に盛り上がっている。

 ツリーサーガを見ている人が多いからかな。

 

「詳しく説明できる部分を教えてください」

「そのボス猿から手甲がドロップして、そこになんだっけ。たぶん、己が命とともに穢れを焼いた戦士の手甲は、相対した者しか装備できない、ってあった」

「え?」

「たぶん穢れを焼いてたんだろうな、それでダメージを受け続けてた」

「いや、あの、えー」

「うん?」

「それ、専用装備じゃないですか⁉」

「だね」

 〈きたー〉

 〈やばくない?〉

 〈効果やばいだろ〉

 〈ゲームの初期で取れる装備だろ?〉


「私も噂だけは聞いていたんですけど」

「他にもひとつあるけど、話しを聞いて賭けに負ける?」


 カズさんの言葉に私を動きが止める。

 話を聞くばかりだったけど、そもそも賭けの内容を決めるんだった。


「私が賭けて欲しいのは『ツリーサーガ』を続けるです」

「月額ゲームだから無理ですー」

「全くできませんか?」

「となると、出来ないは嘘だな」

「では、それで。カズさんは?」

「ノスローさんが『ゴーストリリース』を続ける権利がいい」

「いや……あの、それは」

「えー! 人にはお金がかかることをさせるのに」

「分かりました。それでいいです。ほら、急いで砦まで行きますよ!」

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